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グリーン、森林、木材、コモディティ
2021/10/04

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概要

木材は、景気循環に柔軟に対応することができるコモディティであり、持続的成長および景気刺激策の追い風を享受するものと考えます。



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コモディティ市場は、新型コロナウイルスの発生に因る2020年3月のロックダウンを背景に急落した以降、底値からの回復基調を辿ってきました。金融緩和政策や財政刺激策が世界経済の回復を促し、効果的なワクチン接種プログラムの進展に伴って行動規制が徐々に緩和される中、市民や企業が通常の生活を取り戻しつつあることによります。物やサービスに対する需要は足元数ヵ月で急増していますが、多くの場合は供給が需要に追い付かず、供給不足がコモディティ価格の押し上げ要因になっています。こうした状況は、銅、原油ならびに木材の価格動向に特に顕著に認められます。

実例を挙げると、木材先物価格は、2020年4月の底値、259.80ドル(1,000ボードフィートあたり)から+549%と急騰し、翌年5月にはほぼ1,700ドルに達しましたが、この間、銅は約+118%上昇して10,420ドル(1トンあたり)を付けています。図表1は、ブルームバーグ商品指数およびサブ指数の2020年1月以降の推移を示したものです。

 

 

 

図表1:ブルームバーグ・商品指数ならびにサブ指数の推移
期間:2020年1月2日~2021年8月24日
2020年1月2日を100として指数化

 

出所:ピクテ・グループ

 

 

コモディティ価格の上昇は、期待インフレ率と足元数ヵ月のインフレ率(実績)を押し上げており、米国の7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.4%に達しています。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、足元のインフレ圧力は総じて一過性のものであるとの見方を繰り返し発言していますが、中国経済の頭打ちをめぐる懸念が強まったことや、新型コロナウイルスデルタ変異株の拡大が世界経済回復の勢いを鈍化させるリスクが強まったことを背景に、8月には一部のコモディティ価格が急落しました。

 

 

木材市場の動向

木材あるいは加工木材製品価格は、ここ数年、米国CPIに連動する傾向が認められていましたが、両者の相関は直近2ヵ月で薄れています。米国の巨額のインフラ整備計画の発表や、環境に優しいグリーン経済への移行計画も商品市況に関連しており、向こう数年、木材需要を拡大させる公算が大きいと考えます。木材の用途は多岐にわたることから、森林に資金を投じる投資家に分散効果を提供しています。また、木材は化石燃料由来の製品を代替するため、環境への負荷を減じる手段となる一方で、包装材、紙製品、住宅用建材等の一般的な用途も木材需要の拡大を促しています。北米における住宅用建材は、木材需要の最も大きな源泉です。

 

 

木材価格の短期的な押し上げ要因

前述の通り、木材価格の上昇をけん引してきたのは世界経済の再開ですが、特に米国では、国民が連邦政府の救済策の恩恵に浴しており、家計に直接支払われた給付金が消費を押し上げています。

また、サプライチェーンの混乱から供給制約が顕在化し世界経済の再開が一時中断し、供給の滞りから物価の上昇が進み、米国の住宅用建材や建て替えを最大の用途とする木材価格を押し上げました。

図表2は、木材価格(米ドル/1,000ボードフィート)と米国の住宅着工件数との相関を示しています。住宅着工件数が2020年下期から2021年年初にかけて最高水準を更新する中、木材価格も急騰しています。もっとも、2021年6月には住宅市場の景況感も堅調だった一方で、木材価格は急落しています。これは、恐らく建て替えが控えられたことに因る木材需要の減少に対応して供給が調整され始めたことに加え、木材価格を下落させた投機的な取引が減少したためだと思われます。翌7月の住宅着工件数も下落しましたが、木材価格には安定化の兆しが見られます。

 

 

 

図表2:米国の住宅着工件数(季節調整済み、グレーの線、左軸)と木材先物価格の推移(赤の線、右軸)

 

出所:ピクテ・グループ

 

 

 

米国の住宅市場には割高感が際立ち、全米住宅価格指数は史上最高水準近辺で推移していますが、一方、家計は過去1年、30年物住宅ローン金利が低位で推移する状況の恩恵を享受してきました。低金利は家計の住宅取得を容易にすることで、引き続き、木材需要をけん引するものと考えます。

 

図表3:米国の30年物住宅ローン固定金利(右軸)と全米住宅価格指数(左軸)

 

出所:ピクテ・グループ

 

 

 

 

 

住宅市場は木材需要をけん引する最も重要な要因です。米国経済が持続的な景気回復と財政拡大を背景に今後数四半期あるいは数年を通じて力強い成長を続けることを前提とすると、米国の実質GDP(国内総生産)成長率は上昇が続くと予想されています(ファクトセットの予想)。構造要因から年々拡大を続ける住宅市場が、住宅ひいては木材需要を下支えする状況は変わらないと考えます。

図表4は、2001年以降の米国の中古住宅販売(赤の線)と米NAHB住宅市場指数(グレーの線)を示しています。中古住宅販売が木材需要に及ぼす影響は、新築住宅販売ほどではないにしても建て替え需要に大きな影響を及ぼすことは明らかで、従って、材木等、素材の需要を喚起します。また、中古住宅販売件数が新型コロナウイルスのパンデミック期の前半に激減した後、増加に転じ、2006年以来の水準を回復したことを示しています。NAHB住宅指数が示唆する業界の底堅い景況感は、向こう数四半期の米国住宅市場の明るい先行きを示唆すると考えます。

 

 

図表4:米国の中古住宅販売(販売件数、赤の線、左軸、単位:1,000)と米NAHB住宅指数(グレーの線、右軸)

 

出所:ピクテ・グループ

 

 

木材と同じく森林の用途も多岐にわたり、グリーン経済への移行の恩恵を享受することが予想されます

 

木材全般は、家具、紙製品、包装材等に使われるだけでなく、おが屑を利用した電池、衛生用品、チューインガム等にも使われます。

更に、グリーン経済への移行に伴って化石燃料の使用の削減が求められることから、中・長期の先行きは良好です。木材製品は原油由来の製品の多くを代替することから、森林は市場シェアの観点で大きな可能性を秘めていると考えます。伐採を上回る植林等、環境を重視したグリーンな森林管理は今や業界の常識的な手法であり、投資家には環境重視の投資手法を提供する一方で、業界には中長期的な観点に立った、より効率的で適切な事業提案を行っています。

 

 

木材業界の優位点

実物資産投資は金融面の優位性の他、以下の優位性を有しています。

(1) インフレヘッジ:経済の再開プロセスとそれに伴う供給制約に加えて、政府の支援を受けた家計や企業の旺盛な先送りされた需要がコモディティ価格を押し上げました。図表5は、木材価格(米ドル/1,000ボードフィート)とCPIの相関関係を示しています。2021年年初までの数年間を通じて確認された強い相関が2021年5月以降、明らかに薄れているのは、CPIがピークを付けた後、高止まりしたことによって両者の格差が開いているからです。木材は通常、インフレ率に密接に連動することから「安価な」インフレヘッジ手段を提供することが可能だと考えます。また、木材そのものの価格上昇も期待されます。

 

 

 

 

 

図表5:米国の消費者物価指数(%、前年同月比)と木材価格(米ドル/1,000ボードフィート)

 

出所:ピクテ・グループ

(2) 景気循環に柔軟に対応:これまでの解説の通り、木材価格および木材業界には景気循環ならびに新築住宅件数に大きく左右される傾向が認められます。もっとも、木材業界は短期的な経済活動の落ち込みに伴うリスクに対して伐採時期を後ずれさせることが可能であるように、機動性を備えています。

(3) 分散効果:木材投資の収益率は株や債券の収益率との相関が低いため、市場の観点からも分散効果を提供します。

 

 

代表的な木材ETFは、木材価格の上昇を背景にMSCI世界株価指数を上回って推移した後、足元、低下しています。図表6は森林を所有あるいは管理する大手上場企業25社で構成されるiShares Global Timber & Forestry ETFのMSCI世界株価指数対する相対リターン(グレーの線)の推移を示しており、相対リターンが木材価格(赤の線)に連動していることが確認されます。

 

 

 

 

 

 

図表6:iShares Global Timber & Forestry ETFのMSCI世界株価指数に対する相対リターンと木材価格(米ドル/1,000ボードフィート)の推移

 

 

 

出所:ピクテ・グループ

テクニカル面から見た木材価格の推移

木材価格は2021年5月に史上最高値を付けた後下落に転じ、1991年以降の平均価格の1~2標準偏差の範囲内で推移しています。足元の価格は、1標準偏差近辺にあります。

 

 

 

図表7:木材期近物価格(黒い線)と200日移動平均線(赤い線)

 

 

出所:ピクテ・グループ
 

 

 

 

 

 

 

 

長期的には、コモディティ、スーパー・サイクル再来の可能性も

米国のインフラ投資計画やグリーン経済への移行計画がコモディティ需要の一段の拡大を促すことは必至です。こうした需要が昨年末以降拡大していることから、新たなコモディティのスーパー・サイクルの到来が期待されます。

図表8のブルームバーグ商品スポット指数は、コモディティ現物価格の推移を示しており、先物契約の乗り換え(ロールオーバー)の影響やコモディティの保管コストを含まず、米ドルで表示されています。対数スケールの長期チャートで、強い上昇相場(コモディティのスーパー・サイクル)に続いて、横線の矢印で示された調整局面が複数回、形成されたことを示しています。直近2回の強気相場は1960年代後半の欧州および日本の再産業化と、1990年代後半の中国の産業化を背景に形成され、いずれの局面においても、産業用金属やエネルギー製品に対する需要が急増しました。

当指数は、2011年に天井を付けた後、再び、調整局面入りし、昨年(2020年)3月に底入れした後は、直近の高値に向けて上昇の勢いを強めています。抵抗線を抜ければ、新しい強気相場が形成される可能性もあると考えます。

 

 

 

 

図表8:ブルームバーグ商品スポット指数の推移

 

出所:ブルームバーグ、ピクテ・グループ

 

 

まとめ

木材価格は需給の不均衡を一因に2021年年初の数ヵ月間にわたって急騰しましたが、その後は供給制約や経済の再開、投機的な取引等が上昇圧力を更に強める展開となりました。直近の調整後は危機前のような2桁の上昇が散見されるものの、正常な水準に戻りつつあります。

今後は、短期的に価格が下落して通常の水準に回帰する可能性も考えられますが、森林資源は実物資産としてインフレヘッジ手段となり得ること、伐採のタイミングの機動的な調整が景気循環内の短期的な価格変動の緩衝材として機能し得ること、また、株式や債券市場との相対的な低相関が特異な分散効果を提供すること等が注目されます。また、長期的な観点では、先々、グリーン経済への移行をけん引することが予想される「クリーンな」素材に対する需要が急速に拡大する状況下、石油由来の製品の代替としての木材製品が木材の可能性を増すことで、投資家に対する分散効果が更に強力なものになると考えます。

金融市場を取り巻く足元の環境と価格の推移を勘案すると、木材市場の調整は一過性のものに終わる可能性があり、既に、価格安定化の兆しが現れ始めているように思われます。木材投資は、短・中期的には、魅力的なインフレヘッジ手段を提供し、長期的には、特異な投資テーマを提供するものと考えます。

 

 

※当資料はピクテ・グループの海外拠点が作成したレポートをピクテ投信投資顧問が翻訳・編集したものです。

 

 

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