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カーボンニュートラルに向けた中国の長い道のり
2021/10/18

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概要

世界最大の二酸化炭素排出国である中国の行動は、2015年のパリ協定で定められた気候目標を達成するために極めて重要です。



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順調に進む脱化石燃料への移行

中国が大量の二酸化炭素を排出しているのは、低コストの国内石炭資源に大きく依存していることが原因です。しかし、中国では化石燃料からの脱却が順調に進んでいます。中国の習近平国家主席は、2020年9月の国連での演説で、2030年の二酸化炭素排出量のピークから2060年までにカーボンニュートラルにするという目標を初めて発表しました。同年12月に開催された「気候変動サミット」では、2030年までに中国の一次エネルギー使用量のうち、二酸化炭素の排出のないゼロエミッションのエネルギー源が占める割合を、従来の20%から25%に引き上げる内容を追加しました。

2021年3月、中国の立法院は「第14次5カ年計画(2021~2025年)」と、2035年までの長期戦略計画を承認しました。これにより、気候変動に関する目標が更に細かく設定されました。具体的には、中国のエネルギー消費に占める非化石燃料の割合が20%に達する2025年までに、GDPに対するエネルギー使用量を更に13.5%、GDPに対するCo2使用量を更に18%削減することを目指しています。2030年に向けた再生可能エネルギーの新たな目標や、2060年にカーボンニュートラルを達成するという公約と合わせて、中国経済の「脱炭素化」に向けたロードマップが明らかになりつつあります。

中国の二酸化炭素排出量は、今後10年間は増加し続けることに留意する必要があります。これは、少なくとも10年前に二酸化炭素排出量のピークを迎えた多くの主要先進国とは対照的です。このようなタイムラグが生じる理由は、中国の工業化のスタートが遅かったため、今後数年間、エネルギー使用量が比較的急速に増加し続けることにあります。この現実と、化石エネルギー源から非化石エネルギー源への移行にかかる時間とが相まって、中国の二酸化炭素排出量は、従来よりもはるかに遅いペースではあるものの、2030年までの10年間は増加し続けるとみられます。二酸化炭素排出量がピークに達した後、2060年までにゼロエミッションの目標を達成するためには、ほとんどの先進国よりもはるかに速いペースで二酸化炭素排出量を減らしていかなければなりません。つまり、主要先進国が二酸化炭素排出量のピークからネット・ゼロに移行するのに50~70年かかるのに対し、中国はわずか30年しかかからないことになります。

 

2030年には石炭の割合が40%近くまで低下

中国のエネルギー消費に占める石炭の割合は、GDPの急成長にもかかわらず、過去10年間連続で減少しています。同時に、非化石燃料源の割合も着実に増加しています。電力会社には、使用すべき再生可能エネルギーの枠が課せられています。その枠を埋めるためのコストは国有銀行からの融資で賄われています。その結果、中国の総エネルギー消費量に占める非化石燃料の割合は上昇しています。行政措置や補助金に加えて、中央銀行の融資も中国の政策努力の重要な要素です。特に、中国人民銀行はグリーンボンドの発行を大きく推進しています。

中国は、2011年に2つの省と5つの都市で試験的な二酸化炭素排出権取引プログラムを開始しました。全国規模の二酸化炭素排出権取引システムは、気候変動の目標達成に向けた政府の取り組みにおいて、更に重要な施策です。2017年には全国規模の二酸化炭素排出権取引システムの構築を開始し、2021年2月には正式に市場での取引が開始されました。二酸化炭素価格の導入は、企業が省エネやイノベーションを通じて二酸化炭素排出量を削減するための市場ベースの重要なインセンティブとなります。

 

エネルギー転換による経済効果

ピクテでは、中国の気候変動政策がもたらす経済的影響(物理的な便益は考慮しない)は、時間の経過と共に非線形になると考えています。エネルギー転換のメリット(グリーン産業への投資と成長の増加)は、中国の二酸化炭素排出量のピークが予想される2030年までの今後10年間に、コスト(資産、生産高や所得の損失)を上回るように前倒しされると思われます。 しかし、その後は、脱炭素化が加速し、二酸化炭素集約的な生産能力が大規模に廃止され、高額な移行コストが発生し始めるため、逆の結果になるかもしれません。

結論として、エネルギー転換が中国経済に与える経済効果は、今後10年間で年率0.1%程度の小幅なプラスとなる可能性が高いと考えています。その理由は、グリーン産業への追加投資の大部分が、ブラウン産業への投資の削減によって相殺されるからです。中国はすでに、固定資本形成の対GDP比率が世界の主要経済国の中で最も高いため、固定資産投資の大幅な増加は望ましくなく、また実現可能ではないと考えられます。

 

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