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ファミリー・ビジネス:真に長期的な資本
2021/12/02

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概要

証券取引所に上場している同族企業(ファミリー・ビジネス)は、財務ファンダメンタルズが相対的に堅固で、株価はファミリー・ビジネス以外の上場企業をアウトパフォームする傾向があることが、学術研究によって示されています1。



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ファミリー・ビジネスの株価が、それ以外の企業の株価をアウトパフォームする要因は何か?

ピクテは、上記の学術研究に基づき、弊社独自の分析を行って、ファミリー・ビジネスの株価の相対的優位性(アウトパフォーマンス)の理由を特定しました。

起業家精神: 

成功を収めたファミリー・ビジネスに共通して見られ、創業者に感化されることの多いDNA

スチュワードシップ: 

将来世代のために事業を保全し、発展させ、強化したいとの願い

社会情緒的資産: 

アイデンティティ、名声、影響力、伝来の精神的遺産等、企業の非財務的特性

 

3つの理由は、いずれも、ファミリー・ビジネスの包括的な特性である「長期的な思考」に幾分なりとも関連するものです。

また、事業の持続可能性を短期の業績に優先し、苦境を乗り切るために財務規律を遵守することが、資金配分の効率性を重視する経営手法につながります。

要約すると、ファミリー・ビジネスには、投資に際して、忍耐強く、的を絞った手法を用いる傾向があるということになります。

図表1: ファミリー・ビジネスを差別化する財務的特性

出所:ピクテ、ファクトセット、2021年6月30日

ピクテは、本稿の執筆にあたり、ファミリー・ビジネスの基本的な特性と、(ファミリー・ビジネス以外の)一般的な上場企業に対する株価の優位性(アウトパフォーマンス)をもたらす要因についての詳細な分析を行いました。

小売セクターと資本財サービス・セクターの2つを分析の対象にしたのは、いずれのセクターも事業基盤を確立した多数の成熟企業で構成されており、数世代にわたって企業を所有するファミリー・ビジネスの存在が大きいからです。

図表2は、2つのセクターに属するファミリー・ビジネスと一般企業の基本的な特性をまとめたものです。

ファミリー・ビジネスと一般企業の特性には、明確な傾向と相違点の双方が認められます。

図表2: 小売および資本財サービス・セクターに属するファミリー・ビジネスと(ファミリー・ビジネス以外の)一般企業の基本特性、2005年~2020年

緑:先進国市場の資本財サービス・セクターに属するファミリー・ビジネス、
薄緑:先進国市場の小売セクターに属するファミリー・ビジネス
オレンジ:先進国市場の小売および資本財サービス・セクターに属する一般企業
出所:ピクテ、ファクトセット、2021年6月

成長性

2005年から2020年までの分析結果で特に注目されるのは、小売および資本財サービス・セクターにおいては、ファミリー・ビジネスの増収率およびEBITDAベースの利益成長率が一般企業の数値を若干下回っていることです。一見意外に思われるかもしれませんが、利益成長率が相対的に低い理由は、ファミリー・ビジネスの合併・買収(M&A)に対する姿勢(アプローチ)で容易に説明出来ます。

ファミリー・ビジネスには、買収よりも内部成長を優先する傾向が見られます。買収は短期間で事業を成長させるためには良い手段かもしれませんが、ファミリー・ビジネスは、概して、時間をかけた、安全な自律成長を好みます。こうした経営手法は、事業に対する創業家の影響力と企業文化の維持に資するからです。

ファミリー・ビジネスは決して買収を行わないというわけではありませんが、事業の成長のために過度に積極的な手法は取らない傾向が強いのです。

2005年から2020年までの分析期間にファミリー・ビジネスが行った買収金額は、小売セクターで約22%、資本財サービス・セクターで約15%、一般企業による買収を下回ります。

ファミリー・ビジネスのM&Aに対する規律あるスタンスは、株式発行による希薄化を抑えることにつながっています。一般企業の発行済み株式は、一方で巨額の自社株買いを行っているにもかかわらず、年率平均10%増加しています。一方、ファミリー・ビジネスが成長の手段として株主資本を増やすことに消極的なのは、増資による株式の希薄化によって会社の支配権を失いたくないからです。

アシュカン・モハマディ(Ashkan Mohamadi)氏2は、2012年に行った研究で、ファミリー・ビジネスと一般企業の資金調達活動の違いを調査し、これを、ファミリー・ビジネスにおける「社会情緒的資産の概念」が果たす役割に関連付けています。会社の支配権を維持し、創業家の事業を確実に承継しようとすることが、外部者の影響力を強めかねない資金調達の手段を回避することにつながります。ファミリー・ビジネスは、企業の支配権を喪失させることのない、内部資本を活用した自律成長を選好するのです3

規律ある手法を用いて成長に必要な資金を調達してきた結果、小売セクターおよび資本財サービス・セクターに属するファミリー・ビジネスは、2005年から2020年までの期間、増収率と利益(EBITDAベース)成長率が一般企業の数値を下回っているにもかかわらず、一株当たり利益(EPS)成長率は一般企業の数値を年率平均約3%上回っています。証券取引所に上場しているファミリー・ビジネスの株価のアウトパフォーマンスは、EPS成長率が相対的に高かったことに起因すると考えます。

投資

ファミリー・ビジネスの投資の質の分析結果にも、忍耐強く、規律ある手法を裏付ける証拠が認められます。ファミリー・ビジネスは、利益率の水準が極めて高いことから総資産利益率(ROA)が相対的に高く、売上高利益率(EBITベース)は、小売セクターで平均25%、資本財サービス・セクターで27%、一般企業の数値を上回ります。

「このことは、ファミリー・ビジネスのリスク・リターン特性が相対的に優れていることを実証していると考えます。」

ピクテの分析が示唆しているのは、一般企業の借入(レバレッジ)がファミリー・ビジネスのレバレッジより遥かに大きいにもかかわらず、ファミリー・ビジネスの自己資本利益率(ROE)は、小売セクターでは一般企業とほぼ同水準にあり、資本財サービス・セクターではこれを上回るということです。このことは、ファミリー・ビジネスのリスク・リターン特性が相対的に優れていることを実証していると考えます。

小売セクターには、アルディ(Aldi)、ウォルマート、イケア、リドル(Lidl)、インディテックス(Inditex)等、成功を収めたファミリー・ビジネスが数多く存在し、その多くが強い企業文化を社内で共有しつつ事業を発展させてきました。規律を遵守し、(多くの場合、長期的な)成長のためには自己資金の拠出も辞さないといった思考に基づいた企業文化が確認されます。以下に挙げたアルディの成長モデル4には、こうした特性が明確に示されています。

小売セクターの実例:アルディ(ドイツ)

アルディは非公開企業であることから、短期的な収益にはつながらない可能性があっても長期的な観点では道理に適う経営判断を下すことが可能です。同社のオーストラリア進出に係る研究でも注目されていますが、アルディの店舗は、殆どの場合、同社独自の仕様に従って新規に建設されます。

同社の店舗は、維持・管理負担を最小限に抑えつつ、20年から25年の耐用年数で建設されます。従って、当初の建築費用は嵩んでも、建物の使用期間を通じてみると、コスト削減が出来るのです。また、同社は、サプライヤーと長期契約を結び、商品の価格競争力がある限り、契約サプライヤーを優先的に待遇しています。

採用方針や業界平均を上回る賃金体系に加えて、複数の職務をこなすための研修の実施や各店舗に責任を委ねる等の従業員管理の慣行は、献身的で効率的な従業員を育成し、長期的なリターンの向上のための生産性の改善を目標に定められたものです。

資本財サービス・セクターの実例:A.Pモラー・マースク(デンマーク)

APモラー・マースク(マースク)は世界最大級の海運会社であり、5世代にわたってAPモラー家が経営を担ってきたファミリー・ビジネスです。海運業界は、資産である船舶や港が長期資産であることから、設備投資循環も極めて長期にわたります。また、創業家による安定的な経営が行われているため、経営陣には、長期的な観点から事業を考える「自由」が与えられており、将来の製造キャパシティーを計画し、業界の技術革新(イノベーション)を促進するための5年から13年の事業計画を策定することが可能です。

マースクは、競合他社とは異なって、設備投資が景気指標に大きく左右されることがないため、費用を長期にわたって計上することが可能です。技術革新については、提携先との協働を通じ、再生可能エネルギーによって生産される炭素中立燃料、eメタノールを動力源とするカーボンニュートラル船の開発に、何年間も研究開発費を投じています。業界の競合他社は、カーボンニュートラル船の開発についての検討を漸く始めたところですが、マースクは、2021年、カーボンニュートラル船の建造計画を加速させるための新しい提携計画を発表しています。

創業家の安定性とコミットメントが、市場シェア、投資リターン、バランスシートのいずれにおいても、ファミリー・ビジネスを業界のリーダーの立場に引き上げるのです。

長期的な思考:株価のアウトパフォーマンスをもたらす要因

ファミリー・ビジネスのファンダメンタルズが時間の経過に伴って堅固さを増していく主な要因は長期的な思考にあるように思われます。

創業家一族は、持続可能な事業を築くことの重要性を誰よりもよく理解しており、相対的に時間をかけた、安全な成長を好みますが、更に重要なことは、厳選し、的を絞った成長を選好しているということです。また、事業の育成と発展の追求には、効率的な資金配分を行って目標を実現しています。

創業家が、翌四半期の業績のためではなく、次世代および将来世代のための資産を築いているからこそ、こうした長期の戦略的な思考が可能となるのです。

註1: ピクテ・アセット・マネジメント、2021年
註2: 「ファミリー・ビジネスの資金調達手段の選択」、2012年11月
註3: ザン共著、2012年
註4: 「集中度が高く、競争の激しい市場に参入するための戦略」

著者:

シリル・ベニエ、シニア・インベストメント・マネージャー

アラン・カフォール、シニア・インベストメント・マネージャー

 

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