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ピクテではテーマ株式戦略を通してインパクト投資を実現しています
2022/01/28

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インパクト投資は、一般に、責任投資の最も純粋な形態だと考えられています。多くの従来型株式投資戦略がESG(環境・社会・ガバナンス)原則の適用を主張していますが、インパクト投資にふさわしいものは殆どありません。環境または社会の課題を重視するテーマ株式戦略がインパクト投資にふさわしいと考えるのは、当該戦略が持続可能でより公平な社会の構築に直接関与するだけでなく、責任投資の原則を広く金融エコシステムに取り込むことに貢献する企業に重点的に投資を行っているからです。本稿では、こうした活動がどのように行われているかを解説していきます。

概要



    インパクト投資:概要および定義 企業によるインパクト 投資家によるインパクト インパクトの測定および報告 理論から実践へ:インパクトとテーマ株式


①インパクト投資:概要および定義

インパクト投資は、一般に、責任投資の最も純粋な形態だと考えられています。バングラディシュの社会起業家であり、2006年のノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏が1970年代に考案したアイデアを基に、環境や社会的責任に配慮した特定のプロジェクトに資金を提供するものでした。

インパクト投資は、1)財務的なリターンを上げること、2)社会・環境に貢献すること、という二つの目的を持っています。

インパクト投資の対象は多岐にわたり、最近の例では、土地の緑化、風力発電所の建設、学校や病院の建設、囚人更生プログラム等が含まれます。

インパクト投資がプライベート・ファイナンスの範疇に含まれると思われてきた理由は、倫理的な観点と、折衷主義的な性質があるからです。インパクト投資の道徳観を重視する姿勢は、上場企業へ投資する動機とは相反すると考えられてきましたが、近年ではサステナブル・ファイナンスへの移行が進んでおり、従来の考えに見直しの必要があることが示唆されています。

インパクト投資はいずれの場合も、投資対象とする資産や取引の種類ではなく、投資の目的によって定義されます。インパクト投資の普及・推進を目的に設立されたグローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)によれば、インパクト投資の一義的な目的は、投資対象が公開企業であるか否かを問わず、財務的なリターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを社会に与えることです。ポジティブな社会的または環境的成果を挙げるという明確な意図がインパクト投資の重要な特徴となっています。

このことを提起したのが、Kölbel氏等による共同研究論文(2020年)1で、ポジティブなインパクトが企業等の有価証券の発行体と、投資家の双方によって創出され得ることを示唆しています。

こうした見解が投資においての重要な意味を持つと考えられます。インパクト投資の概念をいかに上場株式に適用するか、ロードマップが示されています。公開企業を投資対象とするインパクト投資は、未公開企業を投資対象とする場合よりも難しいことが明らかです、しかし、解決しようとする課題の大きさを考えると不可欠なものなのです。

もっとも、上場企業を投資対象としたインパクト投資に際しては、以下の点に留意することが必要です。1点目は、環境および社会の課題を特に重視していることが明らかな企業、または、この2つの面で改善が期待される企業を投資対象とすることです。2点目は、投資が成功するかどうかは、投資を実行した後の活動にかかっています。投資先企業によい影響を与えることが出来るポートフォリオ・マネージャーは、財務的なリターン目標と非財務的な目標の双方を実現する可能性が高いからです。3点目は、非財務的な成果は測定可能でなければならないということです。

多くの従来型株式投資戦略がESG(環境・社会・ガバナンス)原則の適用を主張していますが、インパクト投資にふさわしいものは殆どありません。環境または社会の課題を重視するテーマ株式戦略がインパクト投資にふさわしいと考えるのは、当該戦略が持続可能でより公平な社会の構築に直接関与するだけでなく、責任投資の原則を広く金融エコシステムに取り込むことに貢献する企業に重点的に投資を行っているからです。

本稿では、こうした活動がどのように行われているかを解説していきます。

執筆者:
マーク・オリビエ・ブッフル、テーマ株式チーム、シニア・プロダクト・スペシャリスト
サンディー・ウルフ、テーマ株式チーム、インパクト投資・分析マネージャー
スティーブ・フリードマン、テーマ株式チーム、サステナビリティ・リサーチ・マネージャー

註1:Kölbel共著(2020年)

 

 

定義 

複数の国際機関の努力によりインパクト投資の定義は改良されつつありますが、最も詳細な定義は前述のグローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)によるものでしょう。GIINはインパクト投資を「財務的なリターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを社会に与える、という意図を持って行われる投資」と定義しています。

GIINは、インパクト投資の具体的な要件を以下と定めています。
・      ポジティブな社会的・環境的インパクトを社会に与えること
・      投資の設計に際してエビデンスとインパクト・データを用いること
・      インパクト投資のパフォーマンスを管理すること
・      インパクト投資の普及・推進に寄与すること

非財務要因の効果的な測定も極めて重要です。GIINは、投資対象企業の社会的・環境的パフォーマンスの測定と報告を、投資家(ポートフォリオ・マネージャー)に要求するものであると説明しています。

世界銀行グループの民間機関である国際金融公社(IFC)も2019年にGIINと同様の定義を公表しています。インパクト投資の先駆者であるIFCは、インパクト投資家が持つべき特性として、以下の3点を挙げています。
・      意図
・      貢献度・寄与
・      測定

インパクト投資に「意図」と「測定」が必要であることについては大多数の専門家が同意していますが、「貢献度」の定義には意見の相違が見られます。例えば、IFCの定義は、「貢献度」が指す範囲が幾分広範で、「インパクト投資が意図された目標の実現にどのように貢献するか、つまり、インパクト投資家の行動が目標の実現にどのように貢献するか」を意味する、としています。この場合は、「貢献度」が投資家のレベルで考えられており、財務的または非財務的な形態のいずれを取ることも可能であるとしています。

学術界からは、投資家の貢献度についてより厳格な定義が提案されています。スタンフォード大学の研究は、投資家がインパクト投資家と見なされるには「追加性(additionality)」が証明され得る場合に限定されるべきだ、と主張しています。つまり投資が無かったならば、ポジティブな結果が実現し得なかった。ということを証明できた場合にのみ、インパクト投資家とみなすことができるとしています2。原理的には可能ですが、反実例のシナリオを想定する必要があるため、実際に証明することは難しいと考えます。

 

註2:「インパクト投資は、いつ、本物のインパクトを実現することが出来るか?」
P. Brest, K.Born 2013年

 

 

 

 

EUサステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)

EU域内の投資業界は、2021年3月以降、持続可能なファイナンスに係る従来以上に厳格な規則に沿って活動しています。SFDRは金融機関に対し、ファンドの持続可能性に関連して特定の開示を要求することで投資家にとっての透明性の向上を図るよう設計されています。

SFDRでは次のそれぞれを区別する規定を設けています。非財務要因を組み入れていない一般的な金融商品(第6条)、環境や社会への配慮を組み込んだ金融商品(第8条)、持続可能性を明確な投資目的とした金融商品(第9条)。

第9条に規定された金融商品の要件は最も厳格で、持続可能性に係るインパクトの透明性に関連するものであり、インパクト投資の定義の特徴である企業インパクトの概念と密接に関わっています。第9条で規定された金融商品は多くありませんが、テーマ株式商品の多くはこの範疇に含まれます。

②企業によるインパクト

上場企業投資がもたらすインパクトをどう考えるか?

Kölbelらが開発したフレームワークを用いると、上場株式のポジティブ・インパクトは、企業と投資家の2つの要因に起因すると説明することができます。

 

図表1:上場企業を投資対象としたインパクト投資

出所:ピクテ・グループ

 

企業によるインパクト

企業が社会や環境にポジティブ・インパクトを与えるには、大きく二通りの方法があります。一つ目は、業界を問わずほぼすべての企業に当てはまるもので、「取って、作って、捨てる」という製造モデルをやめ、製品のライフサイクル全体でより持続可能な活動を行うというものです。

例えば、二酸化炭素排出量および廃棄物や汚染の削減を可能とする技術は費用対効果が高くなってきており、原材料の調達から製造工程を経て耐用年数に達した製品のリサイクルに至るまでのあらゆる段階で、ポジティブ・インパクトを与えることが可能です3

この方法で、自社の事業活動において環境または社会に及ぼす負荷を減らそうと考える企業は、最も優れた銘柄で構成される「ベスト・イン・クラス」のESGポートフォリオに必須の企業であり、業種を問わず投資対象になります。

ポジティブ・インパクトを実現するもう一つの方法は、製品を特殊化することです。この方法を取る企業は、より持続可能な経済の実現に向け、中心となる製品やサービスを開発、販売しています。急速に成長しているエシカルテック産業や環境テック産業の一翼を担う企業です。

こうした特殊な企業に共通する重要な特徴は、環境や社会にもたらすポジティブ・インパクトが並外れて大きいということです。

製造工程の無駄を削減する技術の開発および販売に携わる企業の例を見てみましょう。同社の製品が商業上の成功を収めた場合には、耐久消費財からファッションに至る産業全体の環境負荷を低減できる可能性があります。

テーマ株式戦略は、経済全体に影響を及ぼす企業に重点的に投資を行う傾向が見られます。

これは、従来型のベスト・イン・クラス戦略と異なります。ベスト・イン・クラス戦略は、その製品やサービスが社会にもたらすインパクトではなく、事業活動の持続可能性にほぼ限定して投資対象企業を選択しています。

一方、テーマ株式戦略がポジティブ・インパクトを実現するには、特に、このプロセスでは、生態系または社会にポジティブ・インパクトをもたらす能力に応じて経済活動を分類することが求められるため、定性リサーチと定量リサーチが必須です。

経済活動の分類は、科学に基づいた投資の枠組みと、データを併用した専門家の判断を必要とします。バイオ燃料のように、表面上は持続可能に見える産業が、環境に及ぼした排出量の徹底的な分析の結果、さほど持続可能ではないことが判明する可能性も否めません。

 

註3:Butzl共著(2018年)

 

 

インパクトの評価:地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)

産業および企業がもたらすインパクトの定量化のためにピクテが考案した手法は、環境学者グループによって2009年に開発された「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー、PB)」を投資に応用したものです。PBは、地球の健康を維持するために必須であることが科学的に証明された気候変動、淡水の利用、土地の使用、生物多様性等の9つの側面を特定し、それぞれの側面に数値上の上限を設定して、人類のための「安全な活動領域」を設定するものです。

PBを、企業の生産・流通過程における環境負荷を測定するライフサイクルアセスメント(LCA)と併せることで、弊社の運用担当者(インベストメント・マネージャー)は、企業が持続可能な境界線(バウンダリーズ)の内側と外側のどちらで事業活動を行っているかを特定することが可能です。このアプローチは、どの事業モデルが環境負荷の軽減に寄与しているかの判定に使うことも可能です。また、ポートフォリオ構築およびインパクト投資報告のいずれにも利用可能です。

 

 

 

ケース・スタディ:ビヨンド・ミート

上述の投資手法が実際に機能することを示しているのが、植物由来の代替肉を使ったハンバーガーを開発・製造するビヨンド・ミート社への投資です。ハンバーガーの製造は、ポジティブな社会変革にはつながらないと思われるかもしれませんが、弊社の分析は、同社が例外的存在であることを示唆しています。ベジタリアンやビーガン、肉の摂取量を控えた食事をする人を対象とした市場の拡大に対応するため、ビヨンド・ミートは家畜の飼育に依存しない高蛋白質食品を提供しています。従来型の食肉加工業者と比較すると、ビヨンド・ミートの製品が生産工程で必要とするエネルギー、水、肥料、土地はいずれも前者の場合を下回ります。同社のビジネスモデルは、複数の環境配当(エネルギー、水、肥料、土地の使用の削減)が明確に示された稀なケースになります。

 

 

 


③投資家によるインパクト

 

資本コストと資金調達の可能性

 

投資家によるインパクト

また、インパクト投資では、投資家自身が変化の担い手となることが重要視されています。上場企業への投資家は三つの方法で積極的に貢献することができます。一つ目は、株式市場を通じて、環境や社会の課題を重視している企業に直接資金を提供する方法です。二つ目は、経営陣との対話や議決権行使等、積極的なアクティブ・オーナーシップ活動を通じて投資家が影響力を行使する方法です。三つ目は、教育プログラムの設立や資金を提供することで、新しい概念を普及させ、インパクト投資の原則を金融エコシステム全体に根付かせる方法です。

 

資金調達へのアクセスと資本コストへの影響 

株式投資家のインパクトは、新規株式公開(IPO)および増資を通じた資金調達において最も直接的に現われます。このような取引は直接金融の一形態であり、環境や社会を重視する企業に事業活動を拡大する資金を提供します。

企業はIPOに際し、広く投資家層の関心を引くため割安な株価で株式を提供する傾向があります。その結果、市場の流動性が増すことは学術論文でも取り上げられてきました4。IPOに積極的に参加する投資家は、需要を拡大することで上場価格と市場の流動性のトレードオフの緩和に貢献することができます。

応募が募集額を超えるIPOの場合にも、株式売却の初期段階で関心を示す企業支援型の投資家は、投資額に不釣り合いな程IPOの成功に多大な影響を及ぼすことがあります。市場においては関心が関心を呼ぶためです。テーマ株式投資家には、特にこうした役割を担う傾向があります。

IPOに積極的に参加する投資家は、発行体を支えるだけでなく同じセクターの他の企業の株価を支えることにもなるのです5

 

 

ケース・スタディ:OX2

ピクテのテーマ株式チームは頻繁にIPOに参加しています。最近の例では、スウェーデンの再生可能エネルギー企業であるOX2です。運用チームはIPOに先立って同社経営陣とミーティングを行い、両者が株式運用に係るテーマや哲学を共有していると判断しました。その結果、弊社の2つの戦略でIPOに向けて長期のコミットメントを行いました。加えて、献身的でパートナーシップを重視した長期投資家を迎えることに対する同社の姿勢が募集の成功に資することとなり、応募が募集枠を超える結果になりました。ピクテはコミットメントと引き換えに、米国市場で行われたIPOでは米国外の運用会社として異例の新株割り当てを受けました。

オートリーのIPOは、より持続可能な乳製品の代替品に対する需要の拡大に対応すると同時に、顧客一人当たりの採算性を改善し、最終的には特定の顧客に限らず幅広い消費者を対象とした一般市場で、手頃な価格での商品の提供を可能にすると考えます。また、人間だけでなく環境に優しく、健康的な食生活への転換を容易にすると考えます。

テーマ株式に資金を投じる投資家は、流動性を提供すると同時に、長期投資を約束し企業の株価を支えることで、市場での売買を通じて資本コストの引き下げに貢献することが可能です。流動性が高い株式の発行体である企業は、株主資本コストが相対的に低い傾向があることを示唆する研究が発表されています6。52ヵ国で売買されている株式を対象とした研究では、流動性が25パーセンタイルの株式と75パーセンタイルの株式の場合では、株主資本コストに109ベーシスポイントの差があることが示されています7

この差は大きな違いをもたらします。世界の株式市場の中で最も流動性が高い米国市場の過去1世紀の流動性プレミアムは1.7%~2.1%の範囲にあると試算され、資金調達コストに大きな格差があったことを示唆しています8。また、米国市場よりも流動性が低いその他の市場では、流動性プレミアムが更に広がっていたものと考えられます。

投資家が約束する株式の保有期間もプラスの影響を及ぼすことが可能です。株主の中に投資期間が長い機関投資家が存在していることが、企業の株主資本コストを大幅に低下させることを裏付ける研究が発表されています。機関投資家の株主構成に占める比率が高いほど9、また、株主の株式保有期間が長い程、企業の資本コストが下がる傾向があること10が示されています。株式保有期間が平均を上回るテーマ株式投資を検討中の投資家には極めて重要な指摘です。

一方、環境や社会に負荷を与える企業、または持続可能性が脆弱な企業からの投資撤退は、企業の資本コストを引き上げる可能性があります。特に規模の大きい機関投資家が投資撤退を行った場合、そうした行動が少なくとも短期間株価を下落させる傾向があるという調査結果が出ています11

投資家が単独で大きな影響を及ぼすことを証明するのは難しいにしても、幅広い投資家が行動を共にする撤退の効果が侮れないことを裏付ける証拠が示されています。一例を挙げると、化石燃料からの撤退の波が押し寄せた過去10年間には、投資撤退のあった国で操業する石油およびガス会社から資金が流出したことが確認されています12。更に重要なことは、投資撤退の発表が化石燃料会社の株価に長期的に影響を与えたことです。近年、こうした影響は増しているように思われます13。2000年代初めのスーダンからの投資撤退の調査も同様の結果を示しています14

 

註4:Booth Chua(1996年)、Ellul, Pagano共著(2006年)、Hahn共著(2013年)
註5:Braun Larrain共著(2009年)
註6:Acharya、Pederson共著(2005年)
註7:Saad、Samet共著(2017年)
註8:Hagstromer共著(2013年)
註9:Huo共著(2021年)
註10:Attig共著(2013年)
註11:Atta-Dalkua共著(2020年)、ノルウェー・ソブリン・ファンドの研究
註12:Cojoianu共著(2021年)
註13:Dordi, Weber共著(2019年)
註14:Ding共著(2020年)

 

 

 

 

株主エンゲージメント

株主によるエンゲージメントおよび議決権行使 

株式投資家がポジティブ・インパクトを及ぼすことが出来る二つ目の方法は、積極的なオーナーシップ活動を通じたものです。

運用機関による積極的な株主エンゲージメントの効果を調べた研究からは、以下の二点が報告されています15
・      献身的な投資家は、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)の課題に懸念を喚起することが可能です。成功率は投資家のスキルや規模など複数の要因によりますが、60%に達することもあることが学術研究によって示唆されています16
・      企業とのエンゲージメントの成功は、ESGスコアの引き上げに繋がる傾向があり、とりわけ当初のスコアが低い企業の場合に顕著に見られます。さらに同じ研究チームが、成功を収めたエンゲージメントに共通する特徴も指摘しています。
・      成功に至るエンゲージメントは複雑なエンゲージメントであることが多く、結果を出すまでに数年を要する場合もあります。
・      エンゲージメントの繰り返し:成功に至るエンゲージメントは、同一企業と複数回のエンゲージメントを行った結果、得られるものです。
・      協働エンゲージメント:投資家の株式保有比率が限定的な場合、他の投資家との協働エンゲージメントが成功の確率を高めます。一例として挙げられるのが、「気候変動イニシアチブ Climate Action 100+」による協働エンゲージメントです。

 

ケース・スタディ:ヴェオリア

水公益大手のヴェオリアが脚光を浴びたのは、同社の米国子会社が、2014年、ミシガン州フリントで発生した水道水汚染事故の影響を受けた時です。同社は、事故に直接関与していたわけではありませんが、ピクテのウォーター株式チームは直接経営陣と面談し、取締役会による子会社の監視の改善と戦略の見直しを要請しました。ピクテはその後数年をかけて複数回のミーティングを持ち、ヴェオリアは2020年環境および社会課題に係る野心的な目標を公表し、これを経営陣の報酬政策に織り込みました。社会的責任を強化するための長期のコミットメントを表す同社の広範でかつ迅速な対応には意を強くしました。ピクテの社会および環境指標で測定すると、同社は現在平均以上の成果を挙げています。ピクテの水関連株式戦略の運用担当者にとって意見交換はESG分析の重要な要素であり、企業エンゲージメントの基盤としての役割を果たしています。

 

註15:近年の研究の中で注目されるのが、Barko共著(2018年)、Dimsen共著(2015年)、Dimsen共著(2020年)、Hoepner共著(2021年)です。
註16:Dimsen共著(2015年):成功確率18%、Hoepner共著(2021年):成功確率31%、Barko共著(2018年):成功確率60%

 

 

 

教育活動

インパクト投資の概念の普及と資本動員に対する貢献 

インパクト投資家が使うことの出来る三つ目の手段が教育活動です。

グローバル資本の管財人としての投資家は、金融エコシステム全体に影響を及ぼすことのできる強い立場にあります。環境や社会の目標を実現するために投資を行う運用機関は、資産を保有するアセット・オーナーや金融界のその他のメンバーが複雑なテーマに係る最新の研究に触れられるよう、啓蒙・教育活動を行います。こうした方法で研究に資金を提供し研究成果を広めることで、運用機関は持続可能な経済の構築局面における自身の立場をより強力なものにすることが可能です。

突き詰めると、こうしたことが2018年に発表されたインパクト・マネジメント・プロジェクトの中で「インパクトの重要性を知らせる」こととして言及されている活動の意味するところです。

 

註17:投資業界の出版物に見られる教育活動の例については、Buffle(2017年)またはRoessing, Freedman共著(2020年)をご参照下さい。

 

 

 

 


④インパクトの測定および報告

投資が非財務的な目標を達成したかどうかを確認するには、社会的または環境的インパクトを正確に測定し、定期的な報告を行わなければなりません。インパクトの測定はインパクト投資の中心的な原理・原則です。測定および報告活動には、意図された非財務的な目標を実現するためにインパクト投資家が実行したすべての段階についての情報が含まれていることが理想的ですが、少なくとも、以下は必須となります。

・      意図を表明し、運用チームによってなされた貢献を説明すると同時に、ポートフォリオの組入銘柄のポジティブなインパクト、特に投資対象企業が提供するモノやサービスを通じて得られたインパクトを開示し、事業活動から生じる可能性のあるネガティブなインパクトを軽減したことに関連する情報を伝えること。
・      環境にマイナスな排出物量等、各種のESG関連指標を用いて、ポートフォリオの組入銘柄のパフォーマンスを開示すること。こうした開示は、株主エンゲージメント・イニシアチブの進展の基盤となります。
・      株主エンゲージメントのテーマや当テーマに係る取り組みの進捗状況、議決権行使の実績等、アクティブ・オーナーシップ活動の範囲を報告すること。
・      協働イニシアチブおよび、当該イニシアチブに関連する教育活動に関する情報を開示すること。

こうした情報は投資戦略のインパクトの測定を表すものであることに留意することが重要です。こうした測定基準を簡略化し一つの数値に統合することができません。インパクト投資の運用担当者が非財務的な目標の達成のために講じた段階的な手段を表す情報を集めたものだからです。

 

 

ケース・スタディ: SDGsに沿ったポートフォリオの構築

投資対象企業がどれだけ国連の「持続可能な開発目標( SDGs)に沿って事業運営されているか」の評価には、人工知能(AI)と運用担当者の定性評価を併用し、ルールに基づきデータを用いた分析を行っています。ピクテのポートフォリオの最終的なSDGsスコアは、ファンダメンタルズ分析と定量分析の結果を同等に取り入れたものです。

定量スコアの算出に際しては、弊社独自開発のAIエンジンが自然言語処理システムを用いて企業の決算説明会やアナリスト・レポート、各社の財務データベース等の記述の分析を行います。AIエンジンは、企業のDNAに洞察を与える共通のキーワードを特定します。次に、キーワードにスクリーニングをかけ、SDGsの概念に沿ったものに焦点を当てて、国連の17の目標と169の達成基準に対する企業の関連性を定量化するため、企業とSDGsの双方にとっての相対的な重要性を検討します。

一方、定性分析に際しては、企業の事業活動よりも、製品やサービスのインパクトに焦点を当てています。例えば、「質の高い教育(SDG4)」で高いスコアを獲得したいと考える企業は、公共の教育プログラムを普及させる必要があります。自社の従業員を訓練するだけでは「インパクトのある」活動を行ったとは見なされないからです。

 

 


⑤理論から実践へ:インパクトとテーマ株式

インパクトとテーマ株式

弊社の経験から判断すると、インパクト投資は、非上場企業投資に限定されるものではないと考えます。専門事業に特化した上場企業に直接投資を行うテーマ株式戦略も、弊社が考える「責任投資の7つの原則」を組み入れている限り、社会的、環境的な目標を実現出来ると考えます。

1.          意図があること
実行可能なテーマ株式戦略は、社会または環境にポジティブなインパクトを与えることに明確に焦点を当てると同時に、優位性の高い財務リターンをあげることが出来る戦略です。綿密な調査や投資対象ユニバースの特定には十分な人的資源を投入し、企業の選別に際しては、社会や環境に有害な活動や、非人道的な活動に関連する企業を排除します。

2.          インパクトをもたらす企業への資金配分

投資対象銘柄と組入比率は、企業決算、財務指標、ESGへの配慮等、社会および環境にポジティブなインパクトをもたらす製品やサービスが占める比率を勘案して決定します。直接的な資金配分や株式の買入は投資家にとっての資本コストの低減に寄与します。

3.          アクティブ・オーナーシップ
運用チームは、企業に伝える必要があると思われるESG課題を特定した後、企業の長期的な業績と利害関係者のウェルビーイングの両方について、課題の重要性に基づいて優先順位を決定します。このことは、議決権行使と同様、企業の事業活動やインパクト活動を改善するために投資家が取り組むべき試みの一部だと考えます。

4.          インパクトの測定および報告
テーマ株式を投資対象としたインパクト投資に最も重要な測定基準についての報告書は、定期的に公表されます。

5.          インパクト投資の推進および教育
メディアによる報道やウェブサイト上の情報、白書、顧客向けイベントへの参加、業界の会議やセミナー等は、テーマ株式を投資対象とするインパクト投資に関する教育および知識の伝達に役立ちます。

6.          インパクト投資をすべての資産クラスに広げる
インパクト投資のテーマの一部は、グループのレベルで認識され、意図の表明は企業全体に対して行われ、すべての資産クラスと事業活動を網羅するものです。このような場合には、運用チームがグループのために専門家の中心的存在として行動します。

 

テーマ株式は、環境や社会の原則に従った投資を行いたいと考える投資家にとって流動性の高い資産となります。投資家は、環境や社会に直接的な恩恵を与える製品を造る企業に資金を提供する機会を与えられることとなり、こうした企業の資本コストを下げることが可能です。インパクト投資には長期的な資金提供を約束することが求められるため、投資家には投資対象企業との関係を深めることが推奨され、多くの場合は企業行動と長期的なパフォーマンスの改善が見込まれます。

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