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ロシアのウクライナ侵攻は、市場にどのような影響を及ぼすか?
2022/03/01

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概要

ロシアのウクライナ侵攻が投資家を動揺させていますが、経済に及ぼす影響は対処可能な範囲に収まると考えます。



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ロシアのウクライナ侵攻が金融市場を動揺させており、株式市場が急落する一方で、金および原油市場が急騰しています。

ロシアの軍事侵攻が世界経済に甚大な影響を及ぼす可能性があることは否めませんが、予想される今後の状況は広範囲に及びます。ロシアは、ウクライナを占領するつもりはないと明言しているものの、限定的な攻撃に留めるつもりなのか、または、長期戦に備えているのかは定かではありません。後者の場合は、西側諸国からの厳しい経済制裁が相次ぐ状況も予想されます。

今後の状況が予想し難いことから、投資家が防衛的な姿勢を強めたいと考えるのには一理あるかもしれませんが、極端な手段は取らないよう警告したいと考えます。過去の例が示唆しているのは、戦争が、常に、リスク性資産の長期の下落につながったわけではないということです。多くが、紛争の継続期間にかかっているのです。

2003年のイラク戦争を例に取ってみましょう。世界の株式市場は、米国のイラク侵攻までの期間は下落基調となったものの、軍事行動の開始以降、10日以内に反発に転じています。

ロシア経済に及ぶ影響を考えておくことも重要です。ロシアのGDP(国内総生産)が世界全体のGDPに占める比率は、イタリアよりも低い、僅か1.8%に過ぎません。また、ロシアの人口はおよそ1億4,300万人と、フランスの人口のほぼ2倍ですが、多くの国にとっては、主要な輸出先ではありません。

以上から、紛争の長期化が回避されるならば、経済に及ぶ影響は対処可能な範囲に収まる可能性があり、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの回復と、株式市場の上昇局面の継続が可能になると考えます。

ピクテの分析が示唆しているのは、世界経済が相対的に力強い成長を続けるだろうということです。2022年の世界経済の成長率予想は前年比+4.4%と市場のコンセンサス予想を0.2%上回ります。家計や企業の貯蓄率が高水準に留まる一方で、金融、財政ともに緩和策が継続されていることも極めて重要です。

 

図表1:世界の原油・ガス生産に占めるロシアの比率(%)

出所:ピクテ・アセット・マネジメント、CEIC、リフィニティブ

ウクライナ危機が、既に上昇基調にあった原油価格の急騰をもたらしたことから、インフレの高進が遥かに大きなリスクとなっています。ピクテは、ロシアのウクライナ侵攻前に、2022年の世界のインフレ見通しを(1ヵ月前時点予想の4.1%から)5.1%に上方修正していました。

ロシアの原油およびガス生産は、それぞれ、世界全体の生産量の13%および17%を占めています。また、パラジウム、プラチナ、金を含む金属の主要生産国です。

ロシアの供給分(生産分)が除かれた場合、原油やその他の国際商品(コモディティ)価格の上昇局面が長期化し、世界経済に対するインフレ圧力が増す可能性があります。コモディティ価格の上昇は、消費者購買力の低下をもたらし、企業の利益率も損なわれかねません。

もっとも、こうした負の影響を一部相殺する要因も挙げられます。インフレ率については、ベース効果が低下要因に転じ始めようとしており、新型コロナウイルスの感染拡大に起因する(サプライチェーンの混乱等の)一時的要因の影響も薄れつつあります。原油価格が1バレル=100米ドル近辺で推移したとしても、総合インフレ率は向こう数ヵ月のうちに低下し始めると考えます。

ここ数週間、タカ派的な発言が目立っていた主要中央銀行高官が、金融引き締め策の実施を後ずれさせるのが適切ではないかと考えているふしがあることも明るい兆しです。

 

ポートフォリオの防衛策

とはいえ、ロシアが一部の主要国に対する原油、ガス、各種金属の主要輸出国であることを考えると、防衛策を検討しておきたいと考える投資家がいてももっともです。

こうした観点では、ユーロ圏が危機的状況にあることは一目瞭然です。ピクテの分析では、ユーロ圏は、エネルギーの21%をロシアから輸入しています。欧州中央銀行(ECB)が、ここ数週間、従来以上にタカ派的な発言を強めていることと併せて考えると、欧州株式に対して慎重な姿勢を強めることは正当化されるかもしれません。

 

図表2:ユーロ圏のエネルギー輸入全体に占める国別の割合(主要国のみ)
時点:2022年2月24日

※エネルギーには、鉱物燃料、潤滑油、および関連材料が含まれます
出所:ピクテ・アセット・マネジメント、CEIC、リフィニティブ

もっとも、ユーロ圏のロシアからの輸入は、金額ベースで約3分の2を占めるエネルギーを除くとさほど多いわけではありません。銀行を通じたエクスポージャーはあっても、規模は大きくありません。域内ではロシアとの関係が最も強いオーストリアの銀行のエクスポージャーも、ピクテの分析では、GDPの僅か1.7%相当に留まります。一方、ユーロ圏のロシアに対する輸出は、域内輸出全体の約2.6%に相当します。

冷静さを保っていることと、事態を楽観視することには紙一重の違いしかありません。足元の状況が刻々と変化していることは明らかです。ロシア・ウクライナ間の紛争が悪化し、ロシアに対する経済制裁が強まれば、世界経済や市場により深刻な影響が及ぶ可能性は否めません。こうしたリスクのヘッジ先としては、素材・資源、金、スイスフラン、中国資産等が挙げられます。


※当資料はピクテ・グループの海外拠点が作成したレポートをピクテ投信投資顧問が翻訳・編集したものです。


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