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- 気候変動問題に焦点を当てた債券投資アプローチ
責任投資戦略のエリアでは、これまでのところ、ソブリン債はあまり注目されてきませんでしたが、こうした状況は変わっていかなければならないと考えます。
責任投資は株式市場を席捲する勢いです。一方、債券市場への浸透はようやく勢いを増しつつあるものの、なかでも国債・ソブリン債は未だに見過ごされています。
こうした状況は適切だとはいえません。つまるところ、企業や個人の活動を定める法令や規則を制定するのは政府であり、政府の支援や投資が無ければ、喫緊の課題、とりわけ気候変動課題に対処するのは困難だからです。
世界の平均気温は、産業革命前と比べて、既に、1.2°C以上、上昇しています。また、世界中の全ての国が、これまでに誓約した二酸化炭素排出量の削減目標を達成したとしても、2100年の平均気温は産業革命前の水準と比べて2.4°C程度上昇、すなわち現時点と比較してもさらに1.2°C程度、上昇することが予想されています1。
債券投資家は、気候変動問題への対処に必要とされる資金の提供(資金調達)に重要な役割を果たしています。政府の方針を変えるために個人投資家ひとりひとりが行使することのできる影響力は僅かに過ぎませんが、個人投資家が集まって協働すれば、大きな影響を及ぼすことが可能です。各国政府および政府機関が発行するソブリン債のうち、個人投資家のコミュニティが保有する総額は、88兆米ドル規模に達しているからです。
温室効果ガスの排出に注目
気候変動問題との闘いにおいて可能な限りの効果(インパクト)を生み出すためには、国債(ソブリン債)ポートフォリオをどのように構築すればよいでしょうか?
新興国債券投資は、当然のことながら、気候変動問題への対応に大きな役割を果たします。新興国は、人口動態要因や、経済および制度基盤が脆弱であることに起因して、先進国以上に地球温暖化の物理的影響を受けやすいからです。また、新興国は、脱炭素社会への移行に必要な各種技術の開発をけん引することも可能です。
気候変動問題を意識したソブリン債投資を成功させる鍵となるのは、いかなる場合も、質の高いデータを入手し、収集したデータから正しい結論を引き出す能力です。こうした条件が整って初めて、適切な資本配分にかかる意思決定をすることが可能となるからです。
ESGを意識したソブリン債であるかどうかを見極めるには、まず第一に、温暖化の根本原因、すなわち、温室効果ガスの排出に着目することが重要です。メタンガスや亜酸化窒素の影響も明白ですが、二酸化炭素は排出量全体の74%を占めています2。ピクテの分析は、様々な温室効果ガスの排出量の間には相関関係があることを示唆しています。特定の温室効果ガスの排出量が多い国では、その他の種類の温室効果ガスの排出量もまた多くなっている傾向が見られます。
次の課題は、いかに排出量を正確に測定し、国家間で比較するかという問題です。絶対ベースでは、規模が大きい国ほど温室効果ガスの排出量が多くなることは明らかであり、したがって、中国の排出量が最も多くなっています。一方、人口1人当たりの排出量で測定すると、順位が変わって、モンゴルの排出量が最も多く、中国の排出量は、米国、ロシア、オーストラリアの水準を下回ります3。さらに有効な手段は、各国の経済規模対比での排出量の比較であり、気候変動問題に対処するという観点では、最も重要です。
当然ながら、GDP(国内総生産)を見るだけで状況の全容が把握出来るわけではありません。例えば、英国は、他国と比較しても外国製品への輸入依存度が高くなっていますが、輸入製品の製造過程で排出される温室効果ガスは、製品を製造した国のバランスシートに反映されます。専門家の中には、輸入製品に関連する温室効果ガス排出量は、輸入国に帰属させるべきだと唱える者もいるほどです。しかしながら、こうした排出量を完全に測定するのは極めて困難であり、各国政府は、自国の方針のみに責任を問われるべきだと考えます。なぜなら、輸入国が輸入製品の製造過程を直接管理することはできないからです。
現時点でのGDP対比の排出量の水準に基づいて判断すると、西側欧州、特に、スカンジナビア諸国の取り組みは評価に値すると考えます。メキシコ等、一部の新興国も、相対的に見て、環境への配慮がなされていると考えます。とはいえ、気候変動問題の解決のためには、温室効果ガス排出量の削減に向けた取り組みに遅れが見られる国を動機づける必要があります。したがって、債券投資家のベスト・プラクティスとしては、国の経済規模に照らした排出量の減少ぺースが特に顕著である国を評価することが肝心だと考えます(図表1参照)。
こうした国のソブリン債に投資することは、従来型の債券指数構成国の一部を投資対象から除外することにつながるかもしれませんが、投資家にとっては、ポートフォリオの分散効果が増すことになります。また、環境・社会・企業統治(ガバナンス)(ESG)基準を採用していると主張するファンドのポートフォリオ構成がESG基準を採用していないファンドのポートフォリオ構成と酷似していることが多過ぎると不満を述べる投資家を納得させることにもつながります。
図表1:温室効果ガス排出量の削減
二酸化炭素排出量の削減ランキング、前年比削減率、2020年と2019年の比較
データは2022年2月23日時点 ※土地の利用、土地の利用の変化及び林業(LULUCF)は含まず(本稿執筆時点においてデータが入手できていないため)。
データは状況の一部を示しているに過ぎず、本質的に、過去の状況を映したものであって、将来の排出量動向は、現在、講じられている政策によって決まります。したがって、ピクテでは、各国の規制および政策の(実現に向けた)道筋についての定性評価を運用プロセスに取り入れ、パリ協定で誓約された目標値と比較しています。投資先企業の温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「ネットゼロ」を誓約することは幸先のよいスタートを切ることを可能にしても、その後、これを具体的な行動に移すことこそが重要です。
ソブリン債投資家は、温室効果ガス排出量の削減を積極的に進める国を重視した投資を行なうことで、気候変動問題との闘いに関与することができるだけでなく、よりESG色の強いポートフォリオを構築することが可能です。こうした見方に賛同する投資家が増えるにつれて、政府に対し方針の転換を促すことができると考えます。
グリーンボンドの投資収益
気候変動問題に関心を持つソブリン債投資家にとって、グリーンボンドへの投資を選択することはごく自然なことのように思われます。グリーンボンド市場は未だ小さいものの、急速に拡大しています。ピクテと国際金融協会(IIF)の共同分析からは、サステナブル債市場が2021年に前年のほぼ2倍の規模に拡大したこと、また、そのほとんどが社債市場の拡大に起因するものであり、サステナブル債が債券市場全体に占める比率は僅か2%に過ぎないことが示唆されています。もっとも、2030年までには、主に新興国債券市場の拡大に伴って、約33%に達する可能性があることも示唆されています4。
グリーンボンド市場は、前述の通り、(今のところ)規模が小さいことに加え、国際規則や世界共通の基準を欠くことが、発展の障害となっています。現時点では、サステナブル債のラベルや認証は国によって大きく異なり、開示要件の統一目標も実現出来ていませんが、今後、グリーンボンド市場が厚みと価値を増すにつれて、規則や基準が統一されていくものと考えます。
こうした制約を勘案すると、気候変動問題に注目したソブリン債ポートフォリオは、グリーンボンドだけで構成されるべきではないと考えます。流動性が高い従来型のソブリン債を幅広く組入れたポートフォリオは、投資家にとって理解しやすいということに加え、バリュエーションが相対的に魅力的な水準にあるからです。
この点は、特に注目に値すると考えます。いかなる投資についても、リターンが最優先されるべきであり、この点に妥協の余地はありません。前述のピクテと国際金融協会(IIF)の共同分析から示唆されるのは、政府や政府機関が発行したグリーンボンドの2017年末以降の平均月次リターンが、従来型のソブリン債指数のリターンを1ベーシスポイント(0.01%)上回っていることです。また、気候変動問題への対策の遅れと借り入れコストとの間には正の相関関係があり、その他のマクロ指標を勘案しても、特に新興国に、こうした関係が顕著に認められることを示唆する研究も発表されています。
ソブリン債指数に対するグリーンボンドの相対リターンが良好であることは、過去データを使ったシミュレーション(バックテスト)からも確認されています。
変革は、種を蒔くことから始まる
変革は、種を蒔くことから始まります。ピクテが、1998年に水関連株式戦略を策定した当時、ポジティブなインパクトや持続可能性(サステナビリティ)を目標とする運用は皆無でしたが、20年後の現在では、こうした戦略が運用の主流となり、拡大を続けています。また、投資先企業の「ネットゼロ」を目指す世界の資産運用会社のイニシアチブ(「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアチブ」)は、設立以来1年で、総額57兆米ドルの資産を運用する220機関の署名を得ています5。ピクテは、今こそ、気候変動に特化した戦略を実行し、従来型の債券ファンドの運用プロセスに気候変動問題に対する配慮を組み込むことで、気候変動問題の解決に向けた対応を奨励し、ソブリン債戦略の変革を促す時だと考えます。
註1: Climate Action Tracker(温室効果ガス排出量の削減に向けた行動を監視する研究グループ)、2021年11月、https://climateactiontracker.org/global/temperatures/
註2: https://ourworldindata.org/greenhouse-gas-emissions
註3: https://ourworldindata.org/co2-emissions?country=
註4:https://am.pictet/en/globalwebsite/global-articles/2022/expertise/esg/ESG-bond-market-transformation
註5: https://www.netzeroassetmanagers.org/
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