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ESG実践シリーズ:エリック・ボールマンが語るサステナブル投資
2022/05/17

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概要

「未来の企業が従業員や顧客、および環境や社会に配慮する必要がある一方で、運用会社には企業の分析に見合った適切なツールを備えていることが求められます」と、ピクテのESGチームを率いるエリック・ボールマンは述べています。



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2022年年初の株式市場の調整局面におけるESG投資のパフォーマンスについて説明してください。

強弱まちまちでした。ピクテのESGファンドは、株式、債券、マネーマーケット商品等、各種の資産クラスを投資対象とし、様々な投資戦略を用いて運用されています。ESG関連株式の年初来のパフォーマンスは主要な株価指数と比べて良好だったとは言えませんが、サステナブル投資はそもそも長期的な観点で行われるものであり、過去5年間の実績は極めて良好です。

市場の変動からどのような教訓が得られると考えますか?

ここ数ヵ月間の市場の変動の大きさが、サステナブル投資の根幹に疑問を呈しているとは思いません。脱炭素化社会の実現に向けたクリーンエネルギーへの移行、飲料水に対する需要の急増等の問題は、中央銀行の金融政策ではなく長期的な潮流です。サステナブル投資の意義が、短期的な市場の変動によって損なわれることはありません。ガバナンスについての精査、理解、活用に重点を置くESGファンドは市場の困難な局面から恩恵を受けると考えます。

もう少し詳しく説明してください。

資金がスムーズに循環する局面では、手元資金を投資プロジェクトにあてるか、自社株買いにあてるかの難しい選択をすることにプレッシャーはかかりません。従って、短期的な観点を優先する企業と長期的な観点で事業運営に取り組む企業との違いが、必ずしも明確に現われるわけではないのです。しかしながら、与信条件が厳格化される局面では、短期的な観点から貯蓄に走るのではなく、長期投資を重視する企業が良好なパフォーマンスをあげるという実質的な違いが生じる可能性があると考えます。

ファミリー・ビジネス(同族企業)を投資対象としたファンドを設定されたそうですが、同族企業のガバナンス(企業統治)にはそれ以外の企業との相違点がありますか?

大手のESG評価機関は単一的な分析基準を用いており、それは、資本が多くの株主に分散し、大株主の影響を受け難い企業を想定したガバナンス・モデルを重視する傾向が強い、というものです。こうした選択は、ピクテが「ファミリー・ビジネス」と定義している、創業者あるいはその家族が議決権の3分の1以上を保有する企業を差別することにつながります。このことは、取締役会の独立性に関しても明らかで、独立取締役の割合が全体の50%以上という最低基準が有効かどうか疑問です。ピクテの試算では、市場の10%が創業家中心の企業であり、ESG評価機関によるファミリー・ビジネス分析の不適切性を検証する論文を発表したところです。ガバナンス分析は企業の保有構造に見合ったものであるべきで、特定モデルに固執するのではなく、企業の現状に即したものであるべきだと考えます。

「ピクテの分析によると、ファミリー・ビジネスはその他多くの企業に比べて長期的な展望に立って経営しているため、長い目で見ると株価は良好です。ピクテはこうした分析結果に基づいて、2020年にファミリー・ビジネスを投資対象とするファンドを設定しました。」エリック・ボールマン、ESGチーム責任者

最も業績の良い企業は、株主、従業員、顧客のうち、誰の権利を重視していると思われますか?コロナ禍と「大量離職時代」の到来に当たって、改めて考慮すべき問題だと思われませんか?

質問の趣旨には全く同感です。コロナ後の米国では、何百万人もの従業員が生活の質等の様々な理由で自発的に離職しており、スキルの高い労働者不足が深刻化し賃金上昇が加速するリスクが現実のものとなっています。従業員は、企業の損益計算書上では賃金や給与、年金拠出金等を通じて経費や債務の源泉と捉えられていますが、一方で企業文化やプロジェクトに対する従業員のやる気等が貸借対照表(バランスシート)の資産項目として計上されているわけではありません。こうした点では、会計処理はESG分析には役立たないということになります。

「未来の企業は、従業員、顧客、環境および市民社会のすべてに配慮する必要があると考えます。」

従って、ピクテでは、企業のESG分析に従業員離職率等の付加的な基準を取り入れています。従業員離職率は景気循環や業種によって異なりますが、数値が異常に高い企業は避けるようにしています。従業員離職率が15%を上回る企業はおよそ6年ごとに人材を入れ替えていることになり、見えにくいとはいえ極めて大きなコストを抱えていると考えるためです。

株主権利に焦点をあてた「株主モデル」にも欠陥があると考えます。未来の企業は、従業員、顧客、環境および市民社会のすべてに配慮する必要があると考えます。ピクテのESG分析には、こうした観点から補完的な要素を取り入れるよう努めています。

ピクテのESG運用の主な成果として、どのようなことが挙げられますか?

ピクテがESG運用を始めたのは、水関連株式、および環境に配慮する欧州企業の株式を投資対象とするファンドを設定した20年以上も前のことです。その後、株式以外の資産クラスにも投資対象を広げ、最近では、EU(欧州連合)が導入した「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」による分類に則った運用商品を提供する等、商品の多様化に努めています。1年前には、ピクテのファンドの半数がSFDR第8条(環境や社会の特性を促進する商品)、ならびにSFDR第9条(サステナブルな投資目的を持つ商品)の基準を遵守しておりましたが、現在は75%に達しています。

ご存知でしたか?

ピクテのESGファンドの75%は、EU(欧州連合)「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」の第8条ならびに第9条を遵守しています。

向こう数ヵ月の優先課題は何ですか?

ネット・ゼロ・アセット・マネジメント(2050年、またはそれより早い時期に温室効果ガスの排出を正味でゼロにするという目標に沿った投資を実行する)とSBTi(企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、1.5度に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進している共同イ二シアティブ)の二つを優先課題とし、ピクテの運用商品と運用活動を2050年までに、カーボン・ニュートラルとすることです。ファンド構成は、既に、グリーン経済を重視したものとなっていますが、2022年末までに、今後5年から10年の中期目標を明記した行動計画を発表する予定です。

「厳格に環境を損なわない企業のみに投資するとしたら、投資適格企業は全体のわずか5%に限定されてしまいます。これは理想主義者の夢物語のようなものでしょうか?」

グリーン経済を実行しているのは、まだ少数派に限定され、発行体の僅か5~10%に過ぎません。決して満足のいく数字ではありませんが、これが現実です。とはいえ、グリーン経済が世界経済の成長率を上回って拡大していることは、投資家にとっても環境にとっても朗報です。

残りの90%の企業には投資しないということでしょうか?」

投資家の要求は、スイス市場でもスイス以外の市場でも多岐に渡ります。ピクテは投資家の要求に応えるため、格付けが最上位ではなくてもESG面で大きな改善が見込まれる企業の有価証券を選好して投資を行うための戦略を策定しており、投資先企業には積極的な対話を通じて、状況の改善を促すよう働きかけています。ドイツの公益企業、RWEが好例として挙げられます。RWEは5年前には欧州最大の二酸化炭素排出企業で、ESG投資家にとっては悪の元凶のような存在でした。

「企業が100%グリーンな企業になるのを待っていたら、グリーン経済への移行という好循環を捉えてリターンを上げる機会を逃してしまうことにもなりかねません。」

RWEは今後10~15年で、石炭火力発電所を全て閉鎖し、今後10年でグリーン・エネルギーに500億ユーロを投じて風力発電所の建設を加速するという、180°の事業転換を計画しています。RWEのような企業には、いつ投資をしたらよいかの判断が難しい問題です。100%グリーンな企業になるのを待つべきなのか、それとも、取締役会が事業戦略の転換を発表した時点で投資すべきなのかですが、企業が100%グリーンな企業になるのを待っていたら、グリーン経済への移行という好循環を捉えてリターンを上げる機会を逃してしまうことにもなりかねません。

グリーン・タクソノミー(環境に重大な悪影響を与えない経済活動を列挙するもの)の落とし穴は何でしょうか?

まず、「企業のサステナビリティに報告に関する指令(CSRD)」の導入に際して、注意すべき点がいくつかあり、2023年以降については、対象となる活動で達成された売上高の割合を開示するなどがあります。ピクテは投資家として、現在、評価結果を待っているところです。第一弾として、ピクテのクリーンエネルギー株式戦略がグリーン・タクソノミーに沿ったものであるかどうかの監査を受けています。

監査には時間と労力を要しますが、透明性の義務を負う弊社にとっては不可欠の工程です。この工程には、12~24か月程度を見込んでいます。もっとも、CSRDが、グローバル企業の半数に満たない欧州企業のみに適用されることには留意が必要です。つまり、残りの半数以上の企業は、例えば外国人投資家からの要請がない限り、欧州市場で情報開示されるわけではありません。

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

出所:2022年2月28日発行、Le Tempsより抜粋

 

                                                                                                                                                                  

                                                                                                                                                                     

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                


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