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2023年の原油市場の見通し
2022/12/12

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概要

● 2022年年初来、経済活動の停滞につれて、世界の原油消費は日量240万バレル減少。西側諸国が景気後退に陥る可能性が高く、また今後も「ゼロコロナ」政策(ZCP)が中国の経済活動に重くのしかかる可能性もあり、世界の原油需要は2023年上期も引き続き低迷する公算。
● 一方で、供給量は日量1億160万バレルと、2018年後半に記録した過去最高(日量1億220万バレル)に近づくも、それ以上は上昇しないとみられる。この背景としては以下3点、①米国のシェールオイル生産が2023年には失速する公算であること、②OPECプラス非加盟国は既にパンデミック以前の水準で生産しており、さらなる増産余地は限定的であること、③ロシアは、制裁の影響により、生産上限が制限されたままとなる可能性が高いこと、が挙げられる。
● OPEC加盟国のほとんどが生産割当量を満たすことができないため、余剰生産能力はサウジアラビア、UAE、イラクに集中。実際、将来の原油供給においては、サウジアラビアが再び主導権を握るようになった。OPECプラスは世界的な需要減退に合わせてさらなる減産を行う可能性が高く、原油価格は底上げされるとみられる。
● 原油市場は、短期的には需給の均衡を保つとみられるものの、中国の経済再開に伴って原油需要が高まり、また供給の価格弾力性の低さも相まって、2023年後半には価格は上昇するとみている。2023年末には、ブレント原油が115米ドル/バレルに到達するとみられる。
● 原油価格についての本シナリオにおけるダウンサイドリスクは以下の通り。予想以上に深刻なリセッション、「ゼロコロナ」政策による中国経済の低成長、米国のシェールオイル生産高の拡大、ウクライナ戦争の収束、OPECプラスが供給削減を行わないと決定すること、イランでの政権交代など。



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世界経済の減速は、原油需要の重石となる

世界の原油需要は、引き続き世界のGDP成長率と密接に連動しています。西側諸国の景気停滞と中国でのゼロコロナ政策が、原油消費を抑えており、2022年年初来、世界の原油消費を日量240万バレル減少させてきました。消費は特に先進国で落ち込んでいますが(日量150万バレル減)、新興国でも減少しており(日量90万バレル減)、とりわけ中国では10月に日量80万バレル減を記録しました(2022年年初来、日量130万バレル減)。2023年の展望は、上期は原油需要が低迷するも、下期は西側諸国の経済回復と中国の経済再開が軌道に乗りスムーズに進み始めることで、原油需要が回復に向かうというものです。2023年には原油需要が、2019年に記録した過去最高の日量1億200万バレルに迫る水準まで増加すると考えています。

 

原油供給が過去最高に近づく一方で…

対照的に、世界の原油供給は、2022年年初来で日量340万バレル増加し日量1億160万バレルまで達しており、2018年後半に記録した過去最高(日量1億220万バレル)に近づいてきました。世界の原油供給は、OPECプラスによる生産割当量削減の決定により、11月には日量120万バレル減少することが予想されており、2019年の水準まで戻る想定です。

同時に、米国のシェールオイルの生産は2023年には減速することが予想されます。今年のシェールオイル生産量の拡大(日量70万バレル増)は、掘削済み未完成油井(DUC)の蓄積によって促進されましたが、その蓄積は今ではもうほとんど枯渇しています。生産を拡大させるには新規投資が必要になりますが、人件費と投入費用は大幅に増加してきており、ドリルパイプの価格は2020年以来、4.2倍上昇しました。最近のリグ数が620基程度と安定していることは、シェールオイル生産企業が引き続き投資規律を守っていることを示しているように思われます。結果として、2023年は、米国のシェールオイル生産は2022年よりもゆるやかなペースで増加すると考えています(日量50万バレル増以下)。

OPECプラス非加盟国、とりわけカナダ、ブラジル、ノルウェーについては、すでにパンデミック以前の水準を上回る生産を行っているため、原油の増産余地は限定的だと考えます。

ロシアの生産は、制裁措置により引き続き制限される可能性が高いとみています。欧州連合(EU)と英国による、ロシア産原油の海上輸入禁止措置は12月5日付けで発効し、すでに減少しているロシアからの供給量をさらに押し下げることになるでしょう。ロシア産原油が全面的に禁輸された場合、ロシア、インド、中国のタンカーを合わせた「闇船団」のキャパシティでは、現在のロシアの原油輸出量を輸送するには不十分です。その結果、ロシアの供給量はさらに日量70万バレル減少し、 今後、日量1,000万バレル程度になるとみています(参考:2022年3月は日量1,130万バレル)。

 

サウジアラビアは再び原油供給の主導権を握る

OPECプラス加盟国のほとんどが生産割当量を満たすことができておらず、その中には重要な供給国であるナイジェリア、アンゴラ、メキシコ、アゼルバイジャン、マレーシアも含まれています。実際、生産割当量と実生産量との間には、OPECプラス全体で日量250万バレルの開きがあります。投資不足、社会的混乱など、さまざまな要因が考えられますが、いずれにせよ、この状況が短期間で好転することはないでしょう。

余剰生産能力は、サウジアラビア、UAE、イラクといった少数の大手産油国に集中しています。特にサウジアラビアは、再び原油供給の主導権を握り、供給を抑えるための計画に拍車をかけています。OPECプラスは世界的な需要減退に合わせてさらなる減産を行う可能性が高く、原油価格の底上げにつながるでしょう。したがって、ブレント原油が80米ドル/バレルを下回る可能性は低いか、あるいは一時的なものになると思われます。

 

2023年下期には世界経済が回復し、原油の需要と価格は上昇する見込み

全体として、上期の原油市場は均衡を保つとみています。一方で、欧米や中国の景気回復による需要増と供給の価格弾力性の低さから、価格は上昇し、ブレント原油は2023年末に115米ドル/バレルに達すると予想しています。

我々の原油価格に対するメインシナリオはいくつかのダウンサイドリスクを内包しています。世界的な景気後退が予想以上に深刻化すること、中国の「ゼロコロナ」政策が維持されること、米国のシェールオイル生産高がさらに拡大すること、ウクライナ戦争の収束、OPECプラスによる供給削減の見送り、イランの政権交代、などが考えられます。

一方で、我々のメインシナリオには複数のアップサイドリスクもあり、以下のようなものが挙げられます。欧州のガス備蓄増強の失敗、中国経済の早期回復や予想以上の回復、西側諸国の景気後退が回避されること、欧米経済の景気後退の回避、大幅なドル安、主要生産設備への攻撃や妨害工作、重大な技術的問題、ロシアの供給が予想以上に減少した場合、などです。

 


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