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ファミリービジネスにおける「世代交代」
2022/08/01

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概要

ファミリービジネス(一般に、創業者一族が企業経営を担っている、もしくは、株式を保有している会社などを指す)にとって世代交代は、その企業や創業者一族にとって非常に難しい問題です。ここ最近、欧州の多くのファミリービジネスで見事な「世代交代」が行われ、注目を集めています。



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ファミリービジネス(一般に、創業者一族が企業経営を担っている、もしくは、株式を保有している会社などを指す)は、次の四半期だけでなく、「次世代」以降を見据えた経営に力を注いでいます。世代交代は、その企業や創業者一族にとって非常に難しい問題です。このため、ファミリービジネスにおける事業承継の問題は、学術的な研究者や産業界のリーダーの間で多くの議論も交わされています。

事業承継についてしっかりと計画されていることは、ファミリービジネスの企業統治(ガバナンス)を評価する上で重要なポイントになるとみられます。

ここ最近、ここ最近、欧州の多くのファミリービジネスで見事な「世代交代」が行われ、注目を集めています。

 

A.P.モラー・マースク(デンマーク)

A.P.モラー・マースクは、世界的な海運会社です。2022年2月に、創業者の玄孫にあたるロバート・マースク・ウグラ氏が取締役会会長に指名されました。彼が取締役会会長に就任することで、ジム・ハガマン・スナーベ現会長と、ロバート氏の母親であるアネ・マースク・マッキニー・ウグラ副会長は退任することになります。アネ・マースク・マッキニー・ウグラ副会長は16年間の在任期間中、マースク家による経営の舵取りにおいて重要な役割を果たしてきました。ロバート氏は、同社で2004年よりキャリアをスタートさせ、様々な要職を経験した後の2015年に取締役会メンバーとなりました。彼は、カーボン・ニュートラル輸送を目指すための投資で重要な役割を果たしています。この投資は、未来の世代への投資ともいえるでしょう。

レミー・コアントロー(フランス)

レミー・コアントローは、その起源は1724年にさかのぼる高級酒メーカーであり、現在は、エリアール=デュブルイユ家によって経営されています。2022年6月、2017年以来、取締役会会長を務めてきたマーク・エリアール=デュブルイユ氏が退任し、彼の姪であるマリー・アメリ・エリアール=デュブルイユ氏が取締役会会長に昇格することが発表されました。マリー・アメリ氏は2019年より取締役会副会長を務め、また、一族の持株会社の副最高経営責任者(CEO)でもありました。プレスリリースによると、明確に今回の人事はエリアール=デュブルイユ家における世代交代であることが示されています。

エシロール ルックスオティカ(フランス)

世界的なアイウェア・メーカーであるエシロール ルックスオティカでは、創業者で取締役会会長であったレオナルド・デルベッキオ氏が2022年6月、87歳で死去しました。同氏は長年にわたってシームレスな事業継承計画を練っていました。同社は、A.P.モラー・マースクやレミー・コアントローなどとは異なる方法をとりました。レオナルド氏の6人の子供が一族の持株会社を通してレオナルド氏の持ち分株式を引き継ぐ一方、CEOであるフランシスコ・ミレリ氏が取締役会会長の職を引き継ぐことになります。ミレリ氏は長年にわたってレオナルド氏の右腕として共に同社を支えてきており、エシロールとルックスオティカの合併には甚大な貢献をした人物です。そのため、今回の人事は誰もが納得するようなものであり、ミレリ氏はデル・ベッチオ家のレガシーとビジョンをしっかりと受け継いで、後世に伝えていくことができると考えられています。

ロシュ・ホールディング(スイス)

創業者一族が持株会社を通じて支配権を有する一方で、一族のメンバーでないものの、経験・実績が十分で、一族から厚い信頼を寄せられている人物が日々の事業運営を行うという方法は、ロシュ・ホールディング(スイス)のホフマン・ラ・ロッシュ家でもとられている方法です。2022年7月、ロシュ・ホールディングは、次期CEOにダイアグノスティック部門を率いていたトーマス・シネッカー氏を抜てきし、現CEOのセベリン・シュワン氏の後継者になることを発表しました。現CEOのシュワン氏は1993年入社、次期CEOのシネッカー氏は博士課程を終了後、2003年にロシュ・グローバル・マネジメント・プログラムに参加したことがロシュでの最初の仕事でした。こうした人事は、明らかに、ホフマン・ラ・ラロッシュ家の見事な戦略であると考えられます。

LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(フランス)

2022年4月、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)の株主総会において、ベルナール・アルノー会長兼CEOが80歳まで続投を可能とする、内規の変更が賛成多数で決定されました。現在、アルノー氏は73歳です。

この決定により、世代交代は当面先送りになるものの、その間にアルノー家が経営権をより強固なものとし、次世代以降に引き継ぐための準備期間とするものとみられます。アルノー氏の5人の子供は、LVMHでシニア・ポジションにあり、均等に経営権を有しています。LVMHも、フランスの名だたるファミリー・ビジネスであり、成功を収めてきたエルメス・インターナショナルや、ミシュラン、ラガルデール、ボロレなどに続いていくものとみられます。また、少数株主にも、今後、透明性の高い事業承継計画が示されていけば、ポジティブに受け止められることでしょう。

 

ファミリービジネスにおける世代交代をいかにスムーズかつ確実に行うか、その方法に唯一の正解があるわけではありません。ファミリービジネスへの株式投資において、事業承継計画をしっかりと練っているか、さらに、それについて投資家とのコミュニケーションを図り、理解を得られているかなど、各社ごとに細かく見極めていくことが、投資判断の上で重要なポイントの1つになると考えられます。

 

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