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フードテックへの投資は、低炭素社会への移行をどのように解決するか?
2023/03/13

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概要

このままでは事態は悪化する一方です。2022年11月、世界の人口は80億人を突破していますが、その結果、食料需要が増え続け、二酸化炭素(CO2)の排出量が一段と増加しています。



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「現状を変えない限り、地球の未来はありません。家畜を飼育するために、現時点で、すでに利用可能な土地の66%を使ってしまっているからです。」

 

増え続ける人口が地球への負担を増大させ、私達は負の循環連鎖に巻き込まれています。人は誰でも食べなければなりませんが、食料供給は気候変動に大きな影響を及ぼします。私達が何世紀にもわたって築き上げてきた食物連鎖は、海洋の劣化や生物多様性の喪失等と同様に、気候危機を加速させる大きな要因となっています。英国の週刊科学誌「ネイチャー」に掲載された研究によると、人間の活動が引き起こす温室効果ガス排出量の3分の1は食のシステムに起因するものであり、その大半は農業と土地利用が原因であるそうです。私達が栽培する野菜や、食肉用に飼育する家畜は、どのような動植物であっても地球を損なう総排出量を増やす可能性があるのです。

ビョルン・ヴィッテ氏も、こうした状況を認識しており、「現状を変えない限り、地球の未来はありません。家畜を飼育するために、現時点で、すでに、利用可能な土地の66%を使ってしまっているからです。私達は過去20年間、それを大幅に放置してきたと思います」と述べています。

                                                                                                                                                                                         

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

ヴィッテ氏は、スイスのチューリッヒに拠点を置き、インパクト投資に特化するブルー・ホライゾン社のマネージング・パートナー兼最高経営責任者(CEO)を務めています。同社はサステナブル(持続可能)な食品事業や製造業者の支援を通じて、有意義で持続的な変革を起こしつつ、投資収益を実現することを目指しており、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮する企業を対象とする B to B (企業間) 投資を通じて、同社の支援が根本からの変革をもたらすきっかけになることを願っています。「ブルー・ホライゾンの中核となる使命は、サステナブルな食のシステムへの移行を加速させること」です。科学者、起業家、投資家で構成される30人のチームは、スイスと英国のオフィスを拠点に、シンガポールへの進出を計画しています。

ヴィッテ氏は、サステナブルな食品事業に関わる特定のブランドや製品ラインを購入するよりも、急速に成長する業界全体の新技術や製造プロセスへの出資に重点を置いています。「私達は技術を精査し、事業の拡大の可能性を理解し、企業の成長ステージの最も初期の段階(アーリー・ステージ)で投資を行います。また、成長が見込まれる企業にシード投資を行い、機会があると見込んだ場合には、企業を買収して経営が軌道に乗るよう支援しているのです」。ブルー・ホライゾンがこれまでに関わった70を超える投資案件には、成長著しい植物性たんぱく質市場に対する支援が含まれます。ブルームバーグによると、この市場は2020年の294億ドルから、2030年には約400%以上増加して1,620億ドルに拡大すると予測されています。

規制の変更が迅速に行われているお陰で、多くのESG関連案件と同様、代替たんぱく質の開発・製造に従事する企業への投資にも扉が開かれています。米食品医薬品局(FDA)は、2022年11月、家畜の生きた細胞の採取・培養による食肉製品の製造を承認し、代替たんぱく質事業が可能となりました。ヴィッテ氏は、「FDA の承認が得られるのは2023年になるだろうと考えていたのですが、予想以上に迅速な承認には興奮しています。」と述べています。

一方、急成長を遂げつつも未成熟な市場では、財務リターンに加えて環境面のリターンを測定することは容易ではありません。ブルー・ホライゾンは、IQRR(Impact Quality Rate of Return;インパクト投資収益率)と呼ばれる指標を用い、炭素排出量等の投資家が選んだ評価基準に対する投資収益を算出することで、価値ある投資先を特定しています。財務面とインパクト面の両方のリターンを測定することで、投資家が二つの成果を上げたかどうかを確認しているのです。

ブルー・ホライゾンが、製品または企業のライフサイクルの初期段階(アーリー・ステージ)で投資を行っているのは、事業基盤が確立された成熟期の企業に投資するよりもリスクが高い一方で、リターンの上昇余地を最大化し、環境に大きなインパクト(影響)をもたらすことができると考えているからです。「私達の戦略は、5~6年後に環境にインパクトを与えられるように、起業後の極めて早い段階で投資を行うことです。」ヴィッテ氏によれば、豊富な人脈を築くことで、競合相手に先んじて、データや知見・知識が得られるのです。

                                                                                                                                                                                                                                                            

                                                                                                                                                                                  

ブルーホライゾンは、未来の食の技術を持っていると確信する企業から、年間数千件の売り込みを受けていると言います。事業基盤になる科学や環境に関する主張の精査等、見込み投資の詳細な分析は、社内の科学者や技術者が担当します。

同社は過去2年間で前年比100%の成長を遂げ、従業員を倍増し、持続可能な食のシステムへの移行を加速させるために資金調達を行っています。同社の最近の取り組みには、代替たんぱく質事業を推進し、支持するための、ドイツ連邦政府に対する助言活動が挙げられます。また、投資家にはファミリーオフィスや機関投資家が含まれます。

ヴィッテ氏は、ブルーホライゾンが投資対象とする全ての企業を理解し、好きになることが重要だと考えています。「私達は製品を見て味わうことができるのです」。

 

ビョルン・ヴィッテの略歴

2010年    インド、スイス両国で果物の生産と輸出を行うデザイ・アグリ・フーズのCEOに就任

2012年    フードテックおよび食品素材業界における戦略的プロジェクトにフリーランス・ベースで
                  参画

2014年    自然化粧品およびサプリメント事業を展開する「ドクター・フォースター」のCEOに就任

2018年     ブルーホライゾンのマネージング・パートナー兼CEOに就任

2019年     植物由来製品のスタートアップ、「ライブカインドリー・コレクティブ」を共同設立、
                 CEO兼社長に就任

 

 

*フードテック: 食の領域(フード)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語。

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