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ESG実践シリーズ:Yuko Takanoが取り組む「持続可能な移行への投資」
2023/04/11

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概要

ESG3.0への移行の過程で投資の好機を発掘するには、これまで以上に広い分野に目を向けることが必要です。ピクテのインベストメントマネージャーである高野氏は、「持続可能な移行」の途上にある企業に注目しています。



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Q.    責任投資の分野では、どのようなイノベーションが見られますか?

私達は移行の過程にあると感じています。ESG 1.0は除外をテーマとする戦略で、特定の信念に基づいた投資を行いたいと考える顧客のポートフォリオから一部の業種セクターを除外するものでした。

その後、2010年代半ば前後からは、除外に代わって、持続可能な未来に貢献できると思われる革新的な企業の発掘に主眼を置く戦略が策定され始めました。これがESG 2.0です。ESG 2.0の弱みは、MSCIやサステナリティクスが付与した「サステナビリティ・スコア」をそのまま用いたことにあると考えます。というのも、両社のESGスコアは過去の実績に基づいた、狭い分野にフォーカスしたスコアだったからです。銀行や、ハイテクおよびヘルスケア企業のスコアが極めて高いのは、資本財や石油会社に比べて、環境負荷が遥かに小さいからです。

投資家はこうした高スコアのESG銘柄をやみくもに買い集めてきました。その結果、すでに市場で高く評価されてしまったグロース株中心のハイテクに偏ったポートフォリオになってしまいました。

こうした過程を経て、また、市場の下落を一因として、私達は次の局面に移行しつつあると考えます。ESG3.0は、基本に立ち返った徹底した企業分析を重視します。投資の好機を探るには、業界の大手企業だけではなく、持続可能な移行の過程にある企業など、アナリストによってあまり調査されていない企業にも目を向けることが必要です。

Q.    移行とはどう言う意味ですか?

移行とは、企業が社会によりよいインパクト(影響)をもたらす方向、あるいは、ESG(環境・社会・企業統治)慣行を改善するような方向にシフトしていくことです。

例えばエネルギー・セクターでは、エネルギー源を化石燃料から温室効果ガスの排出が殆ど、あるいは全くないものに転換しようと試みる企業に注目しています。

社会面でも、多様性(ダイバーシティ)や従業員対応の両面で、基本的な転換が起こっています。社会的な観点でも事業運営の観点でも、従業員に不当な低賃金を支払うことは理にかないませんが、米国の小売りセクターやサービス・セクターの一部では、こうした理念に相反する状況が散見されます。ウォルマートやアマゾンで従業員の定着率が重視されるのは、それが最終利益に直結するからです。離職率が高い企業は、従業員の再雇用や再訓練に巨額の費用を投じざるを得ず、株主リターンを損ねる結果となっています。

Q.    ESG3.0にはどのように投資するのですか?

チームの運用目標は、持続可能な社会への移行の過程にありながら、市場に十分に認識されていない企業に投資することです。サステナブル投資では、選好されることの少ない資本財、エネルギー、公益等のセクターにも、投資の好機は少なくありません。こうした企業がなければ持続可能な社会への移行はあり得ないからです。

私達は大量の情報を収集し、様々な角度から企業を分析して、物事の一部にとらわれず全体を見ることが出来るよう、包括的な手法を用いた運用を心がけています。また、チーム・メンバーが自ら、企業調査や投資判断を行っています。格付け機関から様々な種類のデータや調査資料を提供されても、当該機関の結論に縛られるわけではありません。

投資の基本に立ち返ったような気がしますし、最近の運用のトレンドに比べて新鮮だと感じます。

ESG3.0は企業の徹底したファンダメンタルズ分析が要求される、アクティブ運用の一環を成す戦略であり、パッシブ運用をしているESGファンドとは全く別物です。ESG3.0では、企業、企業のリスクと機会、移行が可能かどうかの潜在的な可能性などの理解が必須です。また、エンゲージメントは、運用戦略の重要な構成要素です。選ばれた企業とのエンゲージメントでは、多い場合には年に4回のミーティングを持って、企業が移行の過程をたどることが出来るよう助言しています。



 Q.    どのような企業を探すのですか?

先ず、何よりも堅固なバランスシートを持ち、高いリターンが期待できる企業です。サステナビリティを改善するには、多くの資本が必要となるからです。次に、製品やサービスの環境、または社会に及ぼす影響が業務の改善に直接つながっているような企業です。もっとも、そのような企業への投資の機会は、容易には認識できないことが多いものです。

社会面では持続可能な社会への転換が起こり始めています。

電気自動車(EV)を例に取ると、テスラを別にして、利益を上げているメーカーは殆ど見当たりません。EVの製造では採算が取れないため、EV以外の車種を含む様々な種類の車を作っているか、政府から補助金を得ているかのどちらかで、要は、EVを造るために利益を犠牲にしているのですが、こうしたやり方では徐々に資本を毀損することになり、長期的に持続不可能です。

私達は、石油サービス・セクターの企業にも投資し、積極的なエンゲージメント活動を行っています。石油に限らず、液化天然ガス(LNG)や、将来的には水素にも応用可能な、圧縮機製造技術を有する企業です。圧縮機事業は他の事業部門に比べ、総じて収益性が高いことに加え、エネルギーの移行の局面を生き抜く競争力を持っているかどうかを測る有効な指標です。

Q.    エンゲージメント活動に際して意見を確実に伝えるために、どのようなことを行っていますか?

先日、企業年金向けの助言サービスを提供している金融機関の20人と昼食を取る機会がありました。全員がESGに関心を持っていましたが、それは彼らの顧客がそうだからです。5、6年前には、アマゾンやウォルマートにESGの話をしても相手にされること等、ほとんどなかったはずですが、顧客の意識は大きく変わっています。企業は投資家の声に、これまで以上に耳を傾けなければなりません。

エンゲージメントは双方向の活動です。私達はESG目標の実現に向けた取り組みを企業に期待する一方で、ESGを配慮する最善の慣行(ベストプラクティス)や知識を企業と共有しなければなりません。企業は、特に、ESG情報をどのように開示し、最初の一歩をどう踏み出したらよいかを学ぶことに極めて熱心です。

最近のことですが、同僚のピーターがエネルギー企業から業界主催のイベントに招待されました。イベントに招かれた4社のうち、パートナー制を敷いているのはピクテだけで、他の3社は世界最大級の資産運用会社でした。ピクテの株式保有比率は3社に比べて遥かに低いにもかかわらず、責任投資分野でのピクテの影響力が認められて、同席できたのだと考えます。

企業は間違いなく、耳を傾け始めています。


「ESG3.0は、基本に立ち返った、徹底した企業分析を重視します。投資の好機を探るには、業界の大手企業だけではなく、持続可能な移行の過程にある企業など、アナリストによってあまり調査されていない企業にも目を向けることが必要です。」


Q.    インパクトのように複雑なものをどのように測定するのですか?

インパクトの測定には、様々な形態があります。私達が避けようと務めているのは、 「ファンドに投資することで、CO2を何パーセント削減した」とか「木を1万本植えた」等と言わないことです。数字が正しいかどうかを正確に検証する手立てはありませんし、顧客にとっては無意味な数字だからです。その代わり、すべての投資先企業について、インパクトを示唆する数字を企業レベルで検証しています。主要な業績評価指標(KPI)を追跡し、企業が目標を達成しているかどうかを確認しており、これらの情報はすべて投資家に開示しています。

環境面では、ネットゼロ目標のような分かりやすい指標もあります。多くの企業がスコープ1やスコープ2の排出量を公表できているのは、それが自社の事業に関連する数値だからです。一方、スコープ3は、製品販売後の環境負荷の測定も必要とする数値であるため、スコープ1や2よりも複雑で厄介です。

時代を先取りする企業もあります。例えば、私達は半導体製造装置を修理し、別の用途に使っている企業にも投資しています。この企業は、入れ替えた機械と使用し続けている機械のそれぞれの台数や両者の比率を把握しており、数値を公表する態勢を整えています。

食品製造会社のKPIの例としては、加工製品に対するオーガニック製品の比率や、栄養失調が課題となっている地域で販売する製品の市場浸透率等が挙げられます。先ほどお話した通り、従業員の定着率も重要です。

KPIは企業ごとに異なりますから、企業の情報開示のレベルに左右されますが、このことも、エンゲージメントの目標の一つになり得ると考えます。移行の途上にある企業への投資は、現在進行形の投資です。私達は、日々、より多くのデータが利用できるようになる移行の道のりを歩んでいるのです。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    



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