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ジャンボジェット機のグリーン化
2023/04/14

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概要

航空輸送は、二酸化炭素(CO2)排出の大きな要因となっていますが、現在それを浄化しようとする動きがあります。



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バッテリー駆動の飛行機で二酸化炭素(CO2)排出量を気にせず、ほぼ無音で飛ぶことは、空想ではないかもしれません。

電動エンジンが、現在航空機を動かしている化石燃料を使ったエンジンを補完、あるいは代替することができれば、クリーンな空の旅は空想ではなくなるでしょう。しかし、業界の専門家たちは、期待する一方で、実現における課題もよく理解しています。既存のエンジンの代わりにバッテリーを使うことは、機体の中で過度にかさばり、また短距離飛行以外の用途にとっては電力が十分ではありません。加えて、燃料電池のような水素技術もまだ発展途上にあります。

はっきりしているのは、変革が必要だということです。航空輸送は、年間約10億トンのCO2換算排出量を占めており、これは全世界のCO2総排出量の2%弱に相当します1。航空機の数は、現在の約60万機から2050年には100万機に増加すると予想されており、国連の気候変動目標を達成するために、航空業界が何らかの自浄作用を発揮する必要があることは明らかです。

史上初の世界一周ソーラーフライト「ソーラー・インパルス」プロジェクトの共同創設者であり、電気推進システムの開発を進めているスタートアップ企業H55社の共同創設者でもあるAndré Borschberg氏は、「ここには大きなチャンスがある」と述べます。 「内燃機関は非効率的で、推進に使われなかった燃料の半分以上は失われることに加え、多くのメンテナンスが必要である。それに対して、電気モーターのエネルギー効率は100%に近いうえに、メンテナンスもほとんど必要なく、マルチエンジンソリューションでさまざまな構成を可能にする」

エネルギーの移行に伴う重要な問題の一つは重量です。ジェット燃料に含まれるエネルギーは、1kg当たり12,000ワット/時であるのに対し、リチウム電池は250ワット/時です。しかし幸運なことに、電動エンジンには有利な要素もあります。例えば、従来の内燃機関では、エネルギーを動力に変換する効率が、電気の3分の1しかありません。そのため、エネルギー効率を考慮すると、エネルギー密度の比率は大幅に低くなります。航空機エンジンメーカーの電気部門子会社であるロールスロイス・エレクトリカル社のカスタマーディレクター、Matheu Parr氏は、「将来のバッテリー開発を考えると、3倍は縮めることができる」と主張します。さらに、価格はより安価になり、BloombergNEF社によると、バッテリー駆動の飛行機のエネルギーコストは、2022年には1kワット/時当たりのジェット燃料価格よりも低くなっています。

一方、航空機産業の電動化が直面する課題は、バッテリーのエネルギー密度だけではありません。電動飛行機には、急速な充電時間が必要であり、そのため、電力網が圧迫されることになります。ピーク時の負荷に対応するためには、土木工事や、敷地内に予備のバッテリーが必要になります。また、飛行機のバッテリーは、非常に厳しい安全要件を満たすために、交換率が高くなりますが、交換されたバッテリーは、地上でエネルギー貯蔵に使用することができます。

 

ハイブリダイゼーション(Hybridisation)

完全電動化された飛行は一つの解決策に過ぎません。その他の解決策として挙げられるのは、ハイブリッド電気エンジンです。これは、席数が50席までの航空機においてエネルギー消費を30%削減できる可能性があります。

今後20年間で、航空機の電動化はまず飛行時間が短いものから始まり、次にハイブリッド機、そして最後に大型機になると、Borschberg氏は予想しています。小型の電動飛行機から始めることで、重要なデータを収集することができ、エンジニアは大型の電動航空機を開発する際に役立つ貴重な経験を積むことができます。

もう一つの解決策は、水素です。水素は燃焼させて内燃機関に用いるか、燃料電池に使って既存のエンジンを補うか、のどちらかです。 どちらにも課題はありますが、技術的なハードルを越えれば大きな魅力があると言えます。

液体水素の利用は、特に貯蔵温度を十分に低くすることが難しいと、Parr氏は述べます。しかし、この問題を解決できれば、水素はジェット燃料のように燃焼させて使うことも、燃料電池で消費して電気を生み出すこともできるようになります。燃焼はエネルギー密度が高いものの複雑です。また、燃料電池はよりクリーンですが、飛行機が必要とする出力密度にはまだ達していないと、同氏は付け加えます。ロールスロイス社は両方のソリューションを検討していますが、燃料電池については主に小型飛行機をフォーカスしています。

水素はまだ夢物語に過ぎませんが、電気モーターはすでに航空分野にも進出しています。例えば、Borschberg氏は、パイロットの訓練に使用される飛行機を電動化するプロジェクトに取り組んでいます。また、カナダ・バンクーバーで30分程度の地域航空輸送に用いられる水上飛行機も電動化されています。

飛行機は完全電動でなくても、ポジティブな結果をもたらします。例えば、ハイブリッドの場合、ガスタービンの効率を2%から4%ほど向上させることができます。この数値の上昇にはあまり大きな意味がないように思えるかもしれませんが、過去30年間でガスタービンの効率が15%上昇したことは、業界に大きな変化をもたらしたとParr氏は述べます。

完全なクリーン飛行への移行は、まだしばらく時間がかかるとみています。しかし、正しい方向に向かっているのは明らかです。

 

投資家のためのインサイト

IATA(International Air Transport Association、国際航空運送協会)は、2023年の航空会社の売上高が7,790億米ドル(旅客事業で5,220億米ドル、貨物事業で1,490億米ドル)、純利益は47億米ドルになると予測しています。

2022年の世界の総フリート数は28,674機で、稼働中は23,513機、待機中は5,161機となっています。

Airbus社によると、2040年の交通量は20兆旅客キロとなり、2019年から年率3.9%の成長が見込まれています。

 

[1]出所 : Our World in Data. https://ourworldindata.org/emissions-by-sector#:~:text=Latest-data-from-the-World,times-the-share-from-aviation.

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

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