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変革の時を迎える日本企業
2023/05/01

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概要

日本企業のガバナンス改革は新たな局面を迎えようとしており、日本株の長期的な魅力を高めています。



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岸田文雄首相が「新しい形の資本主義」を掲げてからおよそ1年半が経過し、その再生計画の輪郭がようやく明らかになりつつあります。

経済成長の促進と社会的課題の解決を目的とする岸田首相の主要なイニシアチブは、日本国民に国内株式を購入するよう説得するという、シンプルな戦略に基づいているようです。

岸田首相は、従来からリスクを避け、キャッシュリッチな日本の投資家に、積極的な資産運用を促しています。

同政権は、貯蓄から投資への転換を加速し、日本企業の長期的な企業価値を高めること、また富の再分配を図ることを目指し、他の民間施策と組み合わせて、投資家のための新しい非課税制度を導入します。
 

「日本国民は、将来の生活を守るために行動を起こすことが多くなり、それが日本株にとって大きな変化をもたらす可能性がある。国内の貯蓄者は2,000兆円(およそ15兆米ドル)もの資金を保有している」
 

このようなインセンティブは、日本国民の心に響くものです。41年ぶりの高水準で推移しているインフレの再来と、老後の生活費に対する不安の高まりから、将来の生活を守るために行動を起こす国民が増加しています。

この流れが加速すれば、日本株市場は大きく変わる可能性があります。なぜなら、日本国内の貯蓄者は2,000兆円(およそ15兆米ドル)もの資金を保有しているからです。

しかし、それと同じくらい重要なのは、こうした取組みによって、外国人株式投資家の間で日本企業の魅力が高まることにもつながることです。保守的な経営をしていた企業が、ダイナミックで無駄のない、株主に優しい企業に変わり、グローバルなポートフォリオにおける柱になります。

 

新NISA

日本の家計は、従来、金融資産の半分近くを現金や銀行預金で保有してきました。

家計の金融資産のうち、株式や投資信託の割合は、欧米では30~50%程度であるのに対し、日本では15%に過ぎません1

岸田首相は、前政権が何度も失敗した取組みですが、この膨大な現金の山を解き放つことを試みています。

その中で、株式の保有割合を引き上げるために、NISA(ニーサ、Nippon Individual Savings Account)と呼ばれる投資家のための非課税制度が見直されます。

NISAは、もともと2014年に導入され、英国の個人貯蓄口座(ISA)をモデルにしています。同制度は、年間120万円の範囲内での投資において、売却益や配当収益に通常かかる20%の税金を、最長5年間免除するものです。

2024年1月以降、非課税投資枠の年間の上限金額は実質的に2倍になり、また重要なのは、制度が恒久化されることです。

投資家は初めて、NISAで投資した商品を売却した後も非課税枠を維持できるようになり、従来の仕組みにおける大きな阻害要因が取り除かれることになります。

日本国内の投資家は、世界第2位の規模を誇る日本の株式市場にとって、重要な新しい需要源となる可能性があり、また彼らは近年、海外に高いリターンを求めてきましたが、現在海外資産の魅力は薄れつつあります。

機関投資家、個人投資家を問わず、日本の投資家が常に懸念しているリスクの一つが為替の変動です。

通常、日本の投資家は、海外の高い金利を享受しながらも、これまで常に為替リスクのヘッジを行ってきました。しかし、今や為替ヘッジにかかるコストは、金利差を上回るレベルにまで高騰しています。

例えば、2023年2月28日時点の米ドルから円への3ヵ月のヘッジ・コストは5.2%で、米10年国債と日本10年国債の金利差は3.4%です。つまり、米国債の利回り3.9%は、ヘッジ後にはマイナス1.2%となり、2.6%の配当利回りを持つ日本株と比較すると見劣りしてしまいます2

図表1 : 薄れていく海外資産の魅力
為替ヘッジコスト控除後の海外資産は、もはや魅力的ではない

出所 : Bloomberg, 期間 2000年1月1日 - 2023年2月28日

 

ステークホルダーから株主へ

日本が株主の国になることは、外国人投資家にとっても良いことだと考えられます。なぜなら、国内の大株主層の出現は、日本企業のコーポレート・ガバナンスの水準を高める努力を加速させるはずだからです。

従来、日本企業は、従業員、顧客、企業集団など、非常に幅広いステークホルダーのニーズに対応する必要がありました。

しかし、幅広いニーズへの対応は、資本の非効率的な活用を招くことになりました。東京証券取引所(東証)に上場している企業の半数が、株価純資産倍率(PBR)1倍以下、株主資本利益率(ROE)8%以下の水準を、理由もなく維持し続けているのでは決してありません。これは、2022年暦年実績ベースでS&P500のPBRが3.9倍でありながら、ROEが19.4%であることと比較すると見劣りしてしまいます。

しかし今、岸田首相が日本で株式投資の文化を確立するために新たに動き出したことが、東証によるコーポレート・ガバナンスと株主還元を改善するための取組みへの、さらなる追い風となることが期待されています。

東証は、「中長期的な企業価値の向上に向けた努力のため、上場維持基準に違反すること」について何ら懸念を抱いていない企業に不満を抱き、違反している状態が継続している企業に対し、バランスシートの資本効率や収益性を改善する経営方針・計画の開示を求め、さもなければ上場廃止とするよう警告しています。

岸田首相の改革により、日本の上場企業のガバナンスと株主還元の向上を目指すという志は、これまで以上に強く燃え上がっています。

それ自体、海外投資家が日本株へのエクスポージャーを再構築することを検討する理由となるはずです。

しかし、それだけではなく、ファンダメンタルズの面でも、日本株への投資を再開する意義があると考えられます。

当社の計算では、キャッシュリッチな企業や家計による投資および支出の増加により、今年の日本経済は先進国で最も高い成長率を記録すると予想されます3

日本株は今後5年間で年間10%以上のリターンを達成し、米国株を上回り、米ドル建てでは新興国株のリターンにほぼ匹敵しながら、ボラティリティははるかに低くなる、とピクテは予想しています。また、今回の改革が望ましい効果を発揮すれば、リターンはさらに高くなる可能性があります。

つまり、日本株はグローバルなポートフォリオの中で、より重要な位置を占めるようになるはずです。

海外投資家は過去20年間、概して日本をアンダーウェイトしてきました。現在、外国株のポートフォリオにおいて、日本株への配分比率は、2012年以降で最も低い水準にあります。

しかし、日本株式会社の優先順位が変化し、国内投資家が再び自国市場に好意的になりつつある今、日本株への投資比率を高めるインセンティブが生まれつつあります。

日本株は、すべての投資家のポートフォリオの中で、より大きな割合を占めるべきだと考えています。

 

[1] 日本銀行, 資金循環統計

[2] 参照 Secular Outlook
  記載の数値は四捨五入して表示しているため、それを用いて計算すると誤差が生じる場合があります。

[3] Bloomberg, 2023年3月24日時点


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