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地球を破壊しない食料供給 
2023/07/18

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概要

現代農業は、地球を破壊させる主な原因です。「放牧した牛の肉の代わりに『空気で作ったホットケーキ』を食べるべきなのです」と英国の環境活動家、ジョージ・モンビオット氏は話しています。



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モンビオット氏は、人が聞きたくないと思うことを伝えることが仕事だと言っています。

英国の環境活動家であり、ジャーナリストでもあるモンビオット氏に、すべての人に伝えたいと決意している不快な真実があるとすれば、それは、人類が文字通り、地球を破壊しているということです。同氏によれば、現代農業は、農地が無秩序、無計画に広がっていく「農業のスプロール現象」をもたらし、それが、森林破壊、生物多様性の喪失、大気汚染、気候の破壊(異常気象)等の、唯一、かつ最大の原因になっています。



先頃、英国の「オックスフォード持続可能事業および起業家精神協会(Oxford Sustainable Business and Entrepreneurship Society)」が開いた講演会に登壇したモンビオット氏は、「人間の目的のために使われる土地は、野生の生態系が使えない土地になっているのです」と話しています。「集約農業が問題なのだと言う人がいますが、問題なのは、「集約的」という形容詞ではなく、名詞の「農業」なのです。」「農業に問題があることを認めるのは、簡単でも愉快でもありませんが、農業は、他のどの産業よりも、遥かに甚大な影響を地球に及ぼしているのです。」と、同氏は説明しています。

農業は、栄養の供給に必須の産業ですが、温室効果ガス(GHG)の排出や、淡水および土地の使用を通じて、環境に大きな負荷をかけています。温室効果ガス排出量の4分の1以上が食料生産に起因するものであり、居住可能な土地の半分以上が農業に使われています。また、森林伐採の4分の3、換言すると、毎年500万ヘクタールの森林が農業に起因して失われ、生物圏および大気圏の双方に打撃を与えています。

2015年以降、動物性食品を一切食べない完全菜食主義者(ビーガン)のモンビオット氏は、責任の大半は酪農産業と食肉産業にある、と言います。



国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界の温室効果ガス排出量の約15%は家畜が排出するものです。ところが、厳然とした事実を伝えるのは、容易ではありません。モンビオット氏は、畜産業や酪農業に対する「郷愁の念(郷愁を誘う神話化)」が邪魔するからだと考えています。同氏の悩みは、牛や羊に、トウモロコシや大豆等の穀物ではなく牧草を与えることで環境負荷が減らせるという考えを、有名なシェフや食のインフルエンサーが支持していることです。

「最悪の食材は、放牧された牛や羊の肉です。生態学的な観点でも、大量の炭素排出量の観点でも機会費用が極めて高い上に、極めて高濃度のメタンガスや亜酸化窒素を排出するなど、波及効果が大きいからです。」

科学者の見解も一致しているように思われます。オックスフォード大学で行われた研究によれば、畜産や酪農のための放牧は、地球上の土地の4分の1以上を占める一方で、蛋白質のわずか1%を生産しているに過ぎません。

「地球が12個あって、どの地球上にも野生の生態系のための空間がないとしたら、放牧された家畜の肉を食べて問題ないでしょう。放牧による畜産は、農地のスプロール現象における最大の原因です。新石器時代の農法を使って21世紀の人口を養うことが出来るなどと考えるのは、非現実的なおとぎ話のようなもので、牧歌的で郷愁を誘う神話のようなものに過ぎません。」



それでもベーコンや卵は食べられる

モンビオット氏は禁煙推進キャンペーンと同様の成果が挙げられると信じつつ、ほとんどの環境活動家とは違い、良心に訴えて、肉や乳製品の摂取を否定する活動には限界があることを理解しています。絶賛された著書「復活(Regenesis)」の中で、同氏が主張しているように、技術革新は、食料生産および消費の改善に大きな役割を果たすことが可能です。

では、ベーコンや卵がどのように食べられると言うのでしょうか?

モンビオット氏は、細菌を使う、具体的に言うと、精密発酵技術を利用して類似品を作ればよい、と話します。精密発酵には、醸造と同じく、自然界で採取した微生物を使い、微生物が増殖する過程で特定の食品を作ります。精密発酵技法では、合成生物学、エンジニアリング、情報技術を駆使して、微生物が大豆や肉や卵と同じ主要栄養素を含む、非動物性および非植物性の蛋白質を作るよう、プログラムを組みます。同氏は、ヘルシンキにある研究所で細菌(微生物)から作った粉末を使って焼いたホットケーキを食べた時に、このことを思いついたそうです。

フィンランドのスタートアップ、ソーラー・フーズが開発したソレイン(Solein)という商標の、濃い黄色をした植物由来の蛋白質の粉末は、空気中の微生物を使って作られています。微生物は、同じく空気から直接取り込んだ二酸化炭素の気泡、水素、酸素を食べて成長し、発酵が終わると、乾燥して粉末になります。


「研究室の関係者を除いて、細菌から作った粉で焼いたホットケーキを最初に食べたのは私ですが、普通のホットケーキと同じように濃厚でまろやかで食べ応えがありました」。

精密発酵に必要な土地、二酸化炭素、水、肥料は、通常の食料生産と比べて遥かに少なくて済みます。現在、蛋白質の生産手段では最も効率性の高い大豆の生産と比較すると、精密発酵に必要な土地は1,700分の1、牛肉の生産との比較では、わずか、13万8,000分の1に留まります。モンビオット氏の著書には、精密発酵技術と再生可能エネルギーを併用すれば、世界が必要とする蛋白質をロンドン都市圏(グレーター・ロンドン)に相当する土地(1,569平方キロメートル)で生産出来るとの記述があります。精密発酵による蛋白質の生産は実験室内で行われるため、水や化学物質が自然界に流出することも避けられます。精密発酵技法は、植物性バーガー、魚肉の入っていない「魚の」揚げ物や「チキン」ナゲット等、すでに多くの非動物性蛋白質の製造に使われており、その多くがスーパーマーケットの棚やレストランのメニューに並んでいます。

「突破口となったのは、精密発酵が、量り売り用の食品や高蛋白・高脂肪の食材を作るために使われ始めたことです。」

「多細胞の有機体から食品を作るのと比べて遥かに効率的な手法です。」

 

投資家のためのインサイト

●新型コロナウイルスのパンデミックによるサプライチェーンの混乱や、畜産および食肉消費に係る健康コストや環境コストが注目され始めてから、世界の食肉業界は急速な変貌を遂げつつあります。

●より健康的な代替肉や植物性原料由来の食品は今後も普及し続ける公算が大きいと考えます。米国の経営コンサルティング大手A.T.カーニーは、世界の代替肉市場が、2025年の1.2兆米ドルから2040年には1.8兆米ドルに成長すると試算しています。

●米国のビヨンドミートやインポッシブル・フード、スウェーデンのオートリー等、大手の植物由来食品メーカーは、すでに、数億ドル規模の資金調達を行っており、大手のスーパーマーケットやファーストフード・チェーンと契約を結んで、利益率の高い製品を販売しています。また、効率性の向上、食の安全性の改善、食品廃棄物の削減等の目標を実現するために、自動化やモノのインターネット(IoT)等の先端技術を導入する態勢を整えています。  

 


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