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ピクテのテーマ株式運用:アクティブ・エンゲージメント
2023/10/03

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概要

ピクテのアクティブ・エンゲージメントについてご紹介いたします。



目次

01 なぜエンゲージメントを行うか?

02 エンゲージメントで何を行うか?

03 エンゲージメントの対象企業と課題をどのように特定するか?

04 エンゲージメントをどのように行うか?

05 議決権行使に係るエンゲージメント

06 結論および追加情報

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01 なぜエンゲージメントを行うか?

エンゲージメントは、価値の創出とリスクの軽減の双方を通じて、顧客のための長期的なリターンを改善することが可能であり、従って、顧客に対する受託者責任の遂行に必須の要素です。また、ビジネスモデルに対する理解を深め、企業内の懸念事項の改善を可能にすることが注目されます。

投資家は、(株主としての権利を積極的に行使する)「アクティブ・オーナーシップ」活動を通じて、環境や社会の変革に寄与出来ると考えます。投資家は、議決権行使や的を絞ったエンゲージメント活動を通じて、持続可能な社会の実現のために重要な役割を果たすことが出来ると考えるからです。こうした活動は、エンゲージメントの対象企業との信頼関係の構築および長期的思考の考え方に基づいて行われます。

アクティブ・オーナーシップは、投資家による影響の実現に必須の手段です。投資家は、環境・社会・ガバナンス(ESG)分野の懸念をエンゲージメントの対象企業に提起することで変革を促すことが可能であり、そのことが、企業の様々な利害関係者(ステークホルダー)にとっての長期的、かつ、大きな改善をもたらし得ると考えるからです。

ピクテのテーマ株式運用は、投資家による影響の創出に、特に有効な手法です。運用チームが、特定分野に焦点を当て、他との差別化を図ったポートフォリオを構築し、投資対象企業の長期的な投資家となっているからです。こうした運用手法は、企業との間に、信頼に基づいた長期的な関係を確立するものであり、エンゲージメントに際しての対話を容易にします。また、ポートフォリオの規模が大きく、エンゲージメント対象企業の株主名簿の上位20位に入る大株主であることが多いため、企業との対話に際して、経営陣に影響力を行使し易いというメリットがあります。

エンゲージメントのプロセスには、ピクテのテーマ株式運用チームの4つの信念(焦点、長期、独立、責任)が深く根付いています。 

 

「運用機関としての我々の役割は、良好な投資収益をあげることに留まらないと考えています。ピクテは、すべての利害関係者を大切にする責任ある投資と、スチュワードシップのアプローチを通じて、世界にポジティブな変革をもたらすことを目指しています。」

 

02 エンゲージメントで何を行うか?

アクティブで、かつ長期の株主(アクティブ・オーナー)であるピクテのテーマ株式運用のエンゲージメントの焦点が、マイナスの影響を抑制することに留まらないのは、リスクの軽減だけを重視しているわけではないからです。ピクテは、ポジティブな変革、換言すると、価値の創出にも焦点を当てており、両方の目標を、エンゲージメント戦略に組み込んでいます。リスクの軽減は(ESGを含む)重要な非財務的リスクの管理および開示の改善を目標にします。また、価値の創出は、持続可能な経営を目指すビジネスモデルへの転換ならびに価値を創出するベスト・プラクティス(最善の慣行)の促進を通じて株主、および利害関係者への影響を高める戦略的な機会の特定を目標にします。

 

03 エンゲージメントの対象企業と課題をどのように特定するか?

戦略的エンゲージメントの対象企業の特定は、ピクテのエンゲージメント・プロセスの中核を成すものであり、持続可能性の実現のための重点分野との整合性を勘案して行われます。戦略的エンゲージメントには、テーマ運用戦略に固有のものと、ピクテ・グループのエンゲージメント・プログラムの優先課題に分類されるものの双方が含まれており、検討すべき課題には、以下が挙げられます。


・エンゲージメントの課題が、対象企業にとって、財務的、長期的にどの程度重要であり、従って、株主にとってはどの程度重要か。

・エンゲージメントの課題が、対象企業の幅広い利害関係者にとってどの程度重要か。ここでは、ピクテが独自に構築した「ESGのマテリアリティ(重要性)の枠組み」が課題の特定に重要なツールとなっています。

・対象企業の株式の大量保有、あるいは、対象企業との強力かつ長期的な関係を通じて得られたピクテの影響力はどの程度のものか。




エンゲージメントの課題の一部は、「ピクテ・グループ・エンゲージメント・フォーカス」とも整合するものです。これは、気候変動、水、栄養および長期思考の4つの主要テーマを重視した、ピクテ・グループのトップダウン型のエンゲージメント・プログラムです。

この他、企業からの対話の要請、ESGスクリーニングから提起された警告信号、論争の的となっている課題、データ提供機関が指摘する潜在的な持続可能性リスク、あるいは、企業イベントに起因するリスクや懸念などの様々な理由を勘案し、特定の目的のための一時的なエンゲージメント(アドホック・エンゲージメント)を行うことも可能です。


 

エンゲージメントの重要課題

ピクテは、6つの主要な利害関係者グループに焦点を当て、エンゲージメントの課題の候補となり得る以下の課題を特定しました。




 

04 エンゲージメントをどのように行うか?

ピクテは、エンゲージメントが直線的な経路を辿る公算は低いことを認識しつつ、体系的なプロセスに沿って活動を行います。こうした手法は、エンゲージメントの目標を確実に達成する助けとなるからです。

 

・高い質   - ファンダメンタル・リサーチと社内の他の運用チームとの連携を通じて、
         エンゲージメント対象企業の経営陣への影響力を高めます。

・強力な影響 - 有意義かつ実現可能な目標を設定し、プラスの成果をあげる可能性を高めます。

・透明性   - 設定した目標の実現に向けたやりとりや進捗状況を正確に記録することで、
         透明性を確保し、投資家を監視します。

 



戦略の策定



手法の定義

テーマに固有のエンゲージメント戦略を策定します。

優先順位付け

ピクテの影響力の程度に基づいて、エンゲージメントに優先順位を付けます。また、企業および利害関係者にとっての課題の重要性も考慮します。


 

エンゲージメントの準備


ボトムアップ・リサーチ

初回調査の結果と社外のデータ・プロバイダーから入手した情報に基づいて、優先順位の高い企業のそれぞれにエンゲージメントの課題を設定します。

・連携

ピクテの単独エンゲージメントの場合は、社内の他の運用チームと、また、協働エンゲージメントの場合は、社外の投資家と連携します。

初回の実態調査

エンゲージメントの対象企業との最初の話し合いを行い、討議を通じてエンゲージメントの課題を精緻化し、潜在的なリサーチ・ギャップを解消します。

 

エンゲージメント 


目標の設定

エンゲージメントの目標要件である5項目(具体的、測定可能、実現可能、適切、期限)を定義し、エンゲージメントの対象企業と共有します。

・エンゲージメント

エンゲージメントの対象企業ならびに利害関係者と面談し、エンゲージメントの課題に対処し、目標の実現に向けて取り組むとの確約を得ます。また、次のステップのための行動計画を策定します。

・記録

社内外の関係者とのやりとりを記録することで、説明責任および監査可能性を確保し、財務報告の基盤とします。通常、5段階のマイルストーン(初回のエンゲージメントの実施、対話の確立、課題の対応に係る誓約、課題を解決するための戦略の策定、戦略の実施状況)に沿って、エンゲージメントの進捗状況を記録します。

フォローアップおよびエスカレーション

当初設定の目標に照らして進捗状況を記録し、目標の実行期間が終了した時点で、エンゲージメントの成果を評価します。また、成果に基づいて、エンゲージメントの対象企業への投資を再評価し、ポートフォリオへの目標組入比率を変更する場合もあります。

 


エンゲージメントの進捗状況が十分ではないと判断した場合には、協働エンゲージメントに転換する、会社提案に反対票を投じる、経営陣宛に正式な書簡を作成し送付する、株主提案を提出する等、様々な手段を講じることが可能です。様々なエスカレーション手段を講じても進捗状況に改善が見られない場合には、ポートフォリオの組入比率の引き下げあるいは株式の全売却を行う場合があります。

 

成果


・最終判断・終了

ピクテは、単独で行う的を絞ったエンゲージメントの進捗状況を追跡します。企業が目標を達成したことが確信出来た場合には、エンゲージメントを終了し、成果を記録します。

・報告

ピクテは、社内の記録様式を用いて、エンゲージメントに係るデータや事例報告を顧客に提供する他、ポートフォリオの見直しやデューデリジェンスの要請に対応します。顧客と共有する情報については、可能な限りの透明性の確保を目指す一方で、その機密性を配慮し、(企業名を伏せる等)慎重に取り扱います。

 


05 議決権行使に係るエンゲージメント

 ピクテのエンゲージメントの手法は、社内の議決権行使に係る指針と密接に関連しているため、一方の必要性がもう一方の必要性をもたらすことがあります。 



議決権は、テーマ株式ポートフォリオの組入企業の株主総会で、ピクテの議決権行使指針に従って、行使されます。議決権に係る意思決定は、テーマ株式運用チームが行うボトムアップ分析に基づいて行われます。運用チームは投票が可能な議題について精査し、議決権行使助言会社であるインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の投票推奨を検討します。運用チームの判断がISSの推奨と整合する場合には、議決権行使代理人が議決権を行使します。一方、ピクテが会社提案に反対票を投じた場合、適切だと判断すれば、投票後、経営陣と連絡を取ることもあります。議決権行使の議題について、エンゲージメントの対象企業から明確な追加情報を入手した場合やエスカレーションの手段を講じたこと等に基づいて、ISSよりも企業を理解していると判断した場合、ピクテは、ISSの推奨に従わないこともあり、そのような場合には、的を絞ったエンゲージメント新規に計画する必要性が生じることもあります。

 

06 結論および追加情報

アクティブ・エンゲージメントは、ピクテのテーマ株式戦略の投資プロセスに必須の要素です。組入企業に対するインベストメント・マネージャーの理解を深めると同時に、企業に対して事業価値を引き出し、リスクを軽減するような変革を促すことが可能だからです。また、運用チームには、環境や社会にポジティブな変革をもたらすための重要なツールでもあります。ピクテは、アクティブ・エンゲージメントが、今後も重要性を増し続ける可能性が大きいと考えており、エンゲージメント活動の定期的な報告を行っていくことを決定しています。

 

 

◆エンゲージメントのケース・スタディ


企業名         :  Tettra Tech,Inc.(テトラ・テック・インク) 

ESGの課題      : 取締役会および経営陣の機能および構成 

エンゲージメントの目標: 取締役会の刷新と取締役の多様性の改善

 

戦略の策定


テトラ・テックは、「ピクテ・ウォーター・ファンド」および「ピクテ・グローバル・エンヴァイロメンタル・オポチュニティーズ・ファンド」が長期にわたって投資対象としてきた中堅企業です。ピクテは、同社の株主名簿の上位5位に入る大株主であることから、エンゲージメントに際して十分な影響力が行使出来るものと判断しました。エンゲージメントの課題とした取締役会の構成の刷新は、同社が、長期的な事業戦略上の課題に挑戦し、好機を活かす上で必要となるスキルと経験を積むための重要な項目になると判断しました。 

 

エンゲージメントの準備



非執行取締役7名のうち、2名は在任期間が、それぞれ28年および33年に及んでいました。両者が、豊富な経験と優れたスキルを有し、テトラ・テックの傑出した実績に貢献してきたことは確かですが、取締役会を刷新する機会が到来していることも事実だと考えました。取締役会の刷新は、任期の変更に留まらず、取締役会の多様性を図ることにもつながることに加えて、1)環境汚染防止や社会的弱者のための公共施設の整備に必要な資金の増額等、バイデン政権の意向に示される「環境正義」の趨勢の人的側面に取締役会が理解を深めることが可能となる、2)収益源のグローバル化が進む現状を、従来以上に取締役会の構成に反映させることが可能になる、3)従業員構成にも同様の状況を反映させることが可能になる、という3つのメリットがあると考えました。

 

エンゲージメント


テトラ・テックとのエンゲージメントを開始したのは、在任期間が長期に及んでいた社外取締役2名の再任議案に、ピクテが反対票を投じた直後の2021年のことです。1名は2022年の総会時点で既に退任していましたが、ピクテは、更なる改革が必要だと考え、指名委員会委員長の再任議案に反対票を投じる意向を会社側に伝えると同時に、ピクテの意向を説明するため、取締役会宛に書簡を送付しました。同社とは、その後も建設的な対話を続け、2022年5月1日付で新たに独立社外取締役を指名することを含め、今後も取締役会の刷新プロセスを進めていくとの確約を得ました。同社とは、その後も建設的な議論を交わしています。

 

成果



エンゲージメントの開始以降、取締役会の構成は大きく変わっています。テトラ・テックは、多様性に加えて、豊富な専門知識を同社にもたらすことが期待される取締役候補の推奨を特に重視しています。2022年下半期にも有能な候補者が指名されていますが、同社は、取締役の指名および選任のプロセスに在任期間の制限を組み込むと同時に、在任期間が長期に及ぶもう1名の取締役が、取締役会の移行プロセスを支援した後、2024年中に退任することを確約しました。取締役会の刷新は、計画通りに実行され、2021年に設定したピクテの目標は実現しました。従って、エンゲージメントは、成功裏に終了しました。


 



 



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