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新興国社債市場に好機到来か
2025/08/13

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概要

新興国の社債には、魅力的な利回り、借り手の信用力の向上、多様な投資対象、そして力強い国内成長やドル安の恩恵を受ける可能性があります。



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経済成長の見通しと、企業のファンダメンタルズとの両方において、新興国市場の状況は一段と好転しています。実際、現在の見通しは過去10年間で最も前向きなものと言えるでしょう。この10年間は、米国の突出した経済成長と海外からの継続的な資本流入、それに伴う米ドル高が支配的な時期でした。

当社のエコノミストは、2025年と2026年における新興国のGDP(国内総生産)成長率をそれぞれ4%程度と見ており、米国との成長率の差が2024年の1.5ポイントから2.8ポイントへ拡大すると予想しています。

一方で、新興国ではインフレ率が着実に低下しており、さらなる利下げも視野に入りつつあります。

米国の関税政策によって米ドル安が進むとの見通しを加えると、当社のSecular Outlook 2025(ピクテの長期的展望2025)で、新興国社債への投資比率を高めることが推奨されているのも無理はありません。

このチャンスは必ずしもリスクの増加を伴うものではありません。例えば、貯蓄額が増加したことで現地投資家からの需要が高まり、トランプ米大統領が「解放の日(Liberation Day)」と呼んだ2025年4月2日の後に金融市場が混乱していた中でも、新興国社債の価格は比較的安定して推移しました。4月第一週に、米国国債に対するスプレッドが米国ハイイールド債は120ベーシスポイント(bp)上昇したのに対し、新興国社債では55bpの上昇でした(図表1参照)。



この強い耐性は、新興国の企業債務が管理しやすくなっていることなど、ファンダメンタルズの強化を反映しています。債券が債務水準に対してどれだけのプレミアムを得ているか、つまり、レバレッジ1倍あたりのスプレッドは、B格付けを除くすべてのカテゴリーで米国企業より高く、また新興国の過去の水準と比較しても高くなっています(図表2参照)。投資家は比較的低いリスクで魅力的な利回りを享受できていると言えます。

さらに、新興国社債のデュレーションは約4〜4.5年と、米国投資適格社債の7年と比べて短くなっています。これはタームプレミアム(満期までの期間が長い債券を保有する場合に、投資家が要求する追加利回り)の上昇に対しても影響を緩和します。



新興国社債市場に好機が訪れていると言えますが、この資産クラスはまだ十分には保有されていない状況にあります。そのため、今後大幅な資金流入が生じ、好循環が生まれる可能性があります。これは、海外の個人投資家が2021年以降投資、この資産クラスから資金を引き揚げてきたためです。

国内成長の可能性

こうした状況下で、最良の投資先はどこでしょうか?私たちは新興国社債への投資家として、常に流動性を意識し、幅広い国やセクターに十分に分散して投資することが重要だと考えています。

世界的な貿易摩擦の高まりや、米国の政策・マクロ経済の見通しに対する不透明感がある中、私たちは現在、力強い国内経済の恩恵を受けられる地域に注目しています。そのひとつがラテンアメリカです。この地域の国々は、GDPに占める輸出の割合が低く、さらにその中でも米国向けの輸出割合が低いため、米国の関税の影響が限定的と見なされるからです。例えば、ブラジル、アルゼンチン、ペルーがこのカテゴリーに該当します。また、中国との緊密な関係も重視しており、ラテンアメリカの多くの中央銀行がすでに利下げ局面にあることも、この地域の魅力を高めています。

アルゼンチンでは、ミレイ大統領による改革によって経済状況は大幅に改善しており、200億米ドルの新たなIMF融資契約やインフレの低下とも相まって投資環境が整いつつあります。これにより、アルゼンチンの準国営企業や公益事業会社への投資機会が生まれています。実際、債券の発行額が増え、それに伴い投資家からの堅調な需要が見られます。

一方、コロンビアでは政治的混乱により、資産のバリュエーションは割安な水準にあります。来年の選挙で政権の方向性が変わる可能性が高まりつつある中、すでに多くの財政リスクが織り込まれていることもあり、今後12ヵ月間で同国には興味深い投資機会が生まれる可能性があります。

また、中国のテクノロジー企業が発行する債券にも将来性を感じています。これらの企業は潤沢な現金を有し、信用格付けの見通しも改善しており、バリュエーションも魅力的な水準にあります。中国政府はAIを優先事項と位置づけているため、規制環境も追い風になると見込んでいます。

一方で、私たちは一部の金属・鉱業企業や多角化した複合企業、さらにアジアの一部地域など、世界経済の成長鈍化や貿易摩擦の激化による影響を受けやすい地域やセクターへの投資を縮小しています。

ウズベキスタンの金、ペルーのガス

私たちは、マクロ経済指標を非常に重視していますが、最終的には企業のファンダメンタルズこそが新興国社債市場で魅力的なリターンを生み出す鍵であると考えています。企業のバランスシートやバリュエーションを綿密に精査し、債券の買いと売りの両方の機会を見極めています。ここで重視しているのは、米国の関税問題の影響をほとんど受けない安定した収益です。

私たちは、従来あまり注目されてこなかった分野にも目を向け、現地を実際に訪問したことで、ウズベキスタンにこの条件を満たす企業が存在することを確認しました。同国は、米国向けの輸出が全体の0.8%ということもあり関税の影響をほとんど受けておらず、GDP成長率が6%、外貨準備高は輸入の15カ月分に相当し、債務水準はGDP比33%と比較的低く、WTO加盟交渉の進展など改革の勢いも高まっています。企業のファンダメンタルズを詳しく分析すると、主に金鉱業やガス分野の国営企業に魅力的なバリュエーションと高い成長可能性が見られます。

一方、ラテンアメリカでは、最近の例として、ペルーの主要ガス会社による社債の新規発行が挙げられます。この企業の収益は固定された国内ガス価格や、今後3年間の最低量が保証されるテイク・オア・ペイ契約によって保護されています。さらに、低い生産コストや豊かなガス田、大規模な埋蔵量も魅力を高めており、このような企業は、石油・ガスセクターにおいて低コストで生産を行う現地有力企業に焦点を当てるという私たちの投資テーマにも合致しています。

このような企業は、魅力的なバリュエーションと堅固な企業ファンダメンタルズに加え、良好なマクロ環境やディフェンシブな特性も兼ね備えています。分散投資ポートフォリオの一部として組み入れることで、新興国社債市場にとって一段と好ましくなる環境を活かし、魅力的なリスク調整後リターンの実現に貢献することができます。


■ ピクテ・アセット・マネジメントにおける新興国社債投資

私たちは新興国社債投資において、分散、流動性、信用リスクに注視し、バランスの取れた運用を目指しています。その投資手法はアクティブかつ現地重視、そしてリサーチ主導であり、投資判断においては企業のファンダメンタルズを重要視しています。

私たちの投資プロセスは、まず新興国のマクロ経済、セクター、信用格付け、デュレーションなどを分析することから開始します。次に、約800社に及ぶ幅広い企業の社債を対象に、スプレッドやレバレッジ、相対価値などの様々な指標を考慮して評価します。

そして、バランスシートやキャッシュフロー、資本構成、契約条項、コーポレートガバナンス、ESGなどを含むファンダメンタルズ分析を行うことで、投資対象を約300社の社債に絞り込みます。

これをもとに、最適な流動性、分散、リスク管理を目指して、100〜150社の社債でポートフォリオを構築しています。


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