Article Title
中国:新型コロナウィルス感染状況と経済への影響について
2022/05/06

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今年に入り、中国における新型コロナウィルスの感染状況は著しく悪化しています。これを受けて、政府はいくつかの地域で積極的な都市封鎖を実施し、「ゼロ・コロナ」政策を強化しました。
感染抑制策の強化は、逆風として中国における短期的な経済成長に大きな影響を与えています。現在の抑制策は、中国のGDPを押し下げる可能性があると考えます。
特にインフラ投資への財政刺激策という形で、経済成長への下押し圧力を緩和するためのより具体的なマクロ政策による支援を期待しています。 しかし、持続可能な回復のためには、中国政府の「ゼロ・コロナ」政策への見直しが必要だと考えます。



Article Body Text

新型コロナウィルスの感染拡大により都市封鎖策を強化

中国は現在、パンデミック発生以来最大の感染者急増という事態に直面しています。 2020年4月から2022年2月までの1日あたりの新規感染数は平均で200人程度でした。しかし足元では、1日あたりの新規感染者数は数千人にのぼり、複数都市に広がっています(図1)。この厳しい状況に立ち向かうため、中国当局は「ゼロ・コロナ」政策に従って都市封鎖策をさらに強化しました。

図1: 中国における1日あたりの新規感染者数の推移

出所:PWM - AA&MR, 中華人民共和国国家衛生健康委員会, Wind, 2022年4月25日時点

中国各地での感染者数急増は、デルタ株の感染が広がり始めた昨年の後半から頻発するようになりました。中国政府は、初期段階で集団PCR検査、接触者追跡・隔離を積極的に行い(いわゆる「ダイナミッククリアリング戦略」)、限られた社会的および経済的コストでウイルスの拡散を阻止することに成功しました。 この方法はまた、国民の支持も得ていました。

しかし、感染力の高いオミクロン株の登場により、従来の対策は意味を持たなくなってしまいました。 「ダイナミッククリアリング戦略」の目的を達成するために、中国各地では、都市封鎖策への取り組みを強化せざるを得なくなり、結果的に多くの地域での完全なるロックダウンに繋がりました。 具体的な例としては、3月6日の吉林省の完全封鎖に続き、合計6%のGDPを貢献している中国の最も重要な製造および資金調達ハブである深と上海でも、3月にロックダウンが発表されました。

短期的には経済成長の逆風となる「ゼロ・コロナ」政策

大多数の感染者は無症状であり、報告されている死亡率は低い状況ですが、現在の感染者急増と厳格な都市封鎖策の実施は中国の経済に大きな打撃を与えています。今回の感染拡大の波と政府の「ゼロ・コロナ」政策(主に後者)は、短期的には、中国の経済成長にとってきわめて強い逆風となるでしょう。

表1:中国における都市封鎖レベルとその詳細

出所:PWM - AA&MR, 中国政府

推定によると、現在何らかの制限の対象となっている地域は、中国のGDPの約51%を占めています(表1)。 約2週間前の60%から減少したものの、依然としてGDPの半数を超える地域が対象となっています(感染状況が完全に落ち着いてはいないため、この数値は再び上昇する可能性があります)。都市封鎖策の実施は全国的に広がっており、国家レベルでの経済活動の減速に繋がりました。 特に、すでに低迷している国内消費は、3月に入り、サービス業を中心にさらに悪化し、Caixin(財新) サービス業購買担当者指数(PMI)は2月の 50.2 から 42.0 に急低下しました。 3月の小売売上高は、前年同期比3.5%減となり、1月から2月にかけての6.7%増から減少しました。 3月はロックダウンの影響を全面的に受けていなかったため、4月の小売売上高データはさらに悪化する可能性があります。

図2:中国主要都市の住宅販売成長率(床面積ベース)

出所:PWM - AA&MR, Wind, 2022年4月24日時点

厳格な都市封鎖策の影響は、小売業や不動産業に止まりません。一部の製造業系企業では、製造過程の混乱を軽減するために「クローズドループ」(封鎖期間中は全従業員がオフィスや工場で生活することが求められる)が認められていますが、ほとんどの中小企業ではそうした要件を満たすことはできません。また、輸送の制限や港湾での感染予防措置の強化により、物流産業も大きな影響を受けています(図3)。物流産業への影響は、これまで新たな新型コロナウィルスの感染者が発生しなかった多くの地域を含め、全国的に及んでおり、世界的なサプライチェーンの混乱が再び起こりうると考えています。

図3:中国におけるロジスティクスネットワークの指標

出所:PWM - AA&MR, Wind, 2022年4月25日時点

国内需要の低迷が労働市場にも影響を及ぼしており、3月の失業率は4ヵ月連続で上昇し5.8%となり、全人代で発表された予想の5.5%を上回りました。 家計所得の伸びが鈍化し、貯蓄超過額が減少していることも、今後の消費意欲の減退を示唆しています。

都市封鎖策が強化されていくことを踏まえると、中国のGDPは減少する可能性があります。規制措置が長引くほど、あるいは適用範囲が広がるほど、経済への打撃は大きくなると考えています。

持続的な回復のためには政策調整が必要

物価の上昇や、都市封鎖を受けた国民の不満の声が高まっているにもかかわらず、中国政府が「ゼロ・コロナ」政策を諦める動きは現状見られていません。実際、習近平国家主席は3月17日の最高指導部会議で、人々の生活を守ることの重要性を理由に、「ゼロ・コロナ」政策を堅持する必要性を改めて強調しました。また、経済への打撃を抑えるため、バランスのとれた科学的なアプローチで政策を進めていくことを呼びかけましたが、新型コロナウィルスの蔓延を抑えることが最優先であることに変わりはありません。

10月に開催される中国共産党第20回全国代表大会の前に感染拡大を抑制する政治的必要性から、「ゼロ・コロナ」政策は当面維持される可能性が高いと考えられます。

経済成長率に対する大きな下押し圧力を緩和するために、当面はより具体的な政策支援が期待されます。財政政策は、インフラ投資や、場合によっては家計消費を支える上で重要な役割を果たすと思われます。習近平主席は先日の金融経済委員会で、中国における近代的なインフラの建設に全力を挙げるよう呼びかけました。さらに、零細・中小企業や今回の感染拡大で大きな影響を受けた産業を支援するために、より的を絞った金融政策が展開される可能性があります。

しかし、このような景気刺激策は、厳格な移動規制が解除されて初めて効果を発揮するものであると考えています。従って、持続的な景気回復のためには、中国政府は、「ゼロ・コロナ」政策を完全に廃止しないにせよ、調整は必要となるでしょう。今後、期待されているような調整が行われるかは未知数ですが、その一方で、中国の経済成長率予測は下振れリスクを抱えていると考えられます。


●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら




関連記事


AI(人工知能)の普及に伴い、その将来性を精査する時が来ている

新興国市場:AI投資への別ルート

半導体業界が環境に及ぼす影響 

中国債券市場の振り返りと見通し(2024年3月)

新興国社債市場の振り返りと見通し(2024年3月)

新しい産業革命