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タカ派姿勢がピークに
2022/05/10

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概要

米国連邦準備制度理事会(FRB)は、高インフレを抑制するため、タカ派的な姿勢のピークを迎えている可能性があります。



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FRBのタカ派姿勢への傾斜は直近でピークに達する可能性があるものと考えられます。世界で最も重要な中央銀行であるFRBが、今回のインフレサイクルにおいて、最もアグレッシブな姿勢を示す時期が近いということです。今後数ヶ月の間で、物価上昇圧力が緩和され始めるだけでなく、最近の債券利回りの急上昇は、FRBのタカ派的なレトリックが、すでに一定の影響を与えていることを示しています。

FRBが5月の政策会合で50bpの利上げを行うことを発表し、今後も50bpの利上げを検討することを示唆したのは、市場の予想を裏付けたことにすぎません。しかし、今後投資家の金融引き締めに関する最も悲観的な予想は外れる可能性が高いと考えています。

米国のインフレ率は第2四半期から上昇し、8.6%でピークを迎えると予想されます(図1)。新型コロナウイルスのパンデミックに対する積極的な政策対応、とりわけ巨額の財政刺激策の導入により、米国のインフレ率は他先進国より高くなっています。しかし、財政支援の蛇口は閉まりつつあり、FRBは異例の緩和政策を解除し始めました。同時に、商品価格やその他資材価格の高騰を招いた供給制約の一部も緩和され始めています。ウクライナ紛争によってエネルギーや原材料の価格が再び高騰する可能性はありますが、世界経済の成長が鈍化し、緊急備蓄が先細りになるため、高値を再び更新することはないと考えます。

図1:ピークに達するインフレ率

米国消費者物価指数(CPI)と予測、前年比増減率

出所:CEIC, Refinitiv, ピクテアセットマネジメント 期間:2011年1月1日ー2022年4月1日
ARIMA予測と原油価格の予測に基づく

原油価格は物価上昇圧力の主要要因でしたが、高値からの下落はすでに総合インフレ率に影響を及ぼしています。原油価格が維持され続ければ、つまり140ドル弱のピークから107ドル前後で推移すれば、総合インフレ率ベースではすでにディスインフレとなっています。従って、欧米の対ロ制裁によってロシアのエネルギー供給がさらに大きく減少することを前提としても、エネルギー価格は短期的にはインフレを引き起こす要因にはならないと考えます。

変動の大きい食品とエネルギーの価格を除いたコアインフレ率は、ベース効果により、緩やかに推移すると思われます。 財価格はすでにピークに達しており、その中で、耐久消費財価格と投入価格は下落しています。 直近の購買担当者への調査によると、納期が短縮され始めており、供給のボトルネックが解消され始めていることがうかがえます。加えて、FRBが推奨するインフレ指標であるコア個人消費支出(コアPCE)はすでにピークに達しているようです。 新型コロナウイルスの感染状況に敏感な消費財と耐久消費財の減少により、3月の前年比は5.2%に低下しました(2月は5.3%)。

一方、市場が米国の利上げを予想したことで、資金調達環境が悪化しました。米国債(30年債)は、FRBの金融引き締めへの期待を受け、ピーク時の3分の1まで値下がりしました。また、住宅ローン金利にも影響が及び、30年固定金利の平均は過去1年間で約220bp上昇し、約5.4%に上昇しました。そのため、住宅ローン需要は冷え込み、ローンの申し込み・借り換えは激減しています。

図2:長期的にアンカー

ミシガン大学の期待インフレ率(1年先・2-5年先)の前年比%

出所:CEIC, Refinitiv, ピクテアセットマネジメント 期間:1979年2月1日ー2022年4月1日

米国経済における住宅の重要性を考慮すれば、FRBはこのような住宅市場の変化に注目しているものと考えられます。一方で、第1四半期の実質GDPは、年率1.1%増の予想に対して速報値では1.4%減となり、パンデミック後初めてマイナス成長に転じました。しかしながら、FRBが金融政策を決定する上で重視する実質国内最終需要については、前四半期の年率1.7%から2.66%に加速しています。今後、経済成長に対するリスクは確実に高まっており、今後軟調な経済指標が発表された際には、昨年「一過性のインフレ」という見解から「インフレの長期化」との見方に変わったように、FRBは再び今後の政策を見直すことを検討するでしょう。

以上を踏まえると、FRBは、期待インフレ率が依然としてアンカーされていると考えている可能性が高いです。調査によると、来年の期待インフレ率は物価上昇の現状を反映して急上昇していますが、2年後と5年後の期待インフレ率はFRBの目標である2%を少し上回る程度で収まっています(図2)。1970年代後半の高水準の期待インフレ率とは対照的なことが図表から分かります。

FRBが「タカ派傾斜のピーク」に達したことを示す最も重要なサインのひとつは、大物ハト派であるサンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁が、中央銀行の次の動きは、オーバーナイトの借入金利を2.5%前後に迅速に戻すための75ベーシスポイント引き上げになるとの見通しを示した発言だと考えます。この金利は、米国経済の中立金利として広く受け入れられており、景気刺激策でも景気縮小策でもないことを意味しています。

デイリー氏はFRBで最も発言力のあるハト派の一員であり、彼女が75bpの引き上げについて話すことは、たとえ自ら提唱していないとしても、FRBにおけるタカ派のコンセンサスを示唆しています。このハト派による屈服は、FRBがタカ派傾斜のピークに近づきつつあると推測されるもう一つの理由です。パウエル議長は5月の利上げ後のコメントで、これほど大規模な措置(75bpの利上げ)は積極的に検討していないことを明らかにし、市場をある程度落ち着かせました。タカ派への傾きがピークを迎えると、短期債は魅力的になり、投資家は特に米国債、新興国債券、投資適格債の回復を期待することになると考えられます。

インフレは重要な政治問題になっています。FRBが反インフレのスタンスでコンセンサスを固めていることを考慮すると、インフレが一過性のものであることを示唆する証拠が現れれば、FRBのタカ派的姿勢がピークに達し、金融引き締めが解除に向かうと考えられます。


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