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ロシア・ウクライナの戦争のもたらす長期的な影響
2022/05/13

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概要

元フィナンシャル・タイムズ紙編集長のライオネル・バーバー氏による、ロシア・ウクライナ戦争とその地政学的及びマクロ経済への長期的な影響の見通しについてご紹介いたします。



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ロシアとウクライナを取り巻く地政学的、経済的リスクが高まり続けています。

ロシア連邦のプーチン大統領は、相手国の弱点を利用し、脆弱化させることに長けています。しかしながら、今回はプーチン大統領の思惑通りに事は運んでいません。EU(欧州連合)は往々にして官僚的で意思決定に時間がかかると思われがちですが、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まると驚異的な俊敏さと決断力で対応しました。

プーチン大統領が、欧米諸国がロシアを利用してきたとして、不満を感じているということが重要な焦点と言えます。

2019年6月にクレムリンにてプーチン大統領へのインタビューを行った際、プーチン大統領は、欧米諸国側が末期的な衰退期にあると感じており、自由主義は「時代遅れ」であるとの考えを示しました。プーチン大統領が政権をとってから20年が経ち、より大きなリスクをとれるようになったか、という質問に対し、彼は半ば否定しつつも、「ロシアには、『リスクを取らない者はシャンパンを飲めない』という言葉がある」と述べました。そして、今回、ウクライナへの本格的な侵攻というリスクを取る決断を下しました。

当戦争において、ロシア軍の状況はかなり拙劣なものとなっています。

適切な戦術がとられず、空、海、陸軍の連携の不備などから、ロシア軍は新しい将軍を任命しなければならないほど、拙劣なパフォーマンスを見せました。

欧米諸国のメディアでは、プーチン大統領が政権内で困難に直面しているという報道もあります。

まだこれを確信するには至っていないものの、完全に安全だと感じているリーダーならば、侵攻の直前にプーチン大統領が行ったように、国家安全保障チームを召集し、カメラに向かって忠誠宣誓を求めたりはしないでしょう。また、数名のオリガルヒ(新興財閥)がこうした報道を肯定するような発言をしています。

ロシアは現在、世界から孤立しています。

現在行われている経済制裁は、撤回されるまで相当な時間を要することが見込まれます。今後、和平交渉が行われる場合、和平協定において制裁緩和は1つの焦点となり、欧米諸国とウクライナ側がロシアに対して大きな影響力を行使することができるでしょう。

プーチン大統領の当初の狙いが達成できなかった時、彼はどのような行動に出るか。不透明要素は依然として残ります。

プーチン大統領はウクライナの東部地方と南部海岸の多くを占領し続けるのではないかと予想されます。その場合、ウクライナも戦いを続けるものとみられますが、どちらかと言えば、現状ではウクライナ人が開戦から自国の戦いぶりを見て、自国優勢であると過信している危険性があります。

もし金融市場が、この戦争が徐々にエスカレートしていることを認識できなければ、大きな間違いを犯すことになるでしょう。

ウクライナを支援する国々が続々とより高性能な武器をキーウに供給しています。一方、ロシアは初期段階に非常に拙劣といえる戦いをしていましたが、まだ配備していない強力な武器を保有しています。もしロシアが、ポーランドなどの周辺国を通じた欧米諸国の供給ラインを標的にしようとすれば、ウクライナを超えて戦争が拡大する危険性があるといえます。核戦争に発展するとまではいかないものの、化学兵器を使用する可能性は大いにあると考えられます。

現在はヨーロッパ全体において非常に重要な時であると言えます。

当戦争はドイツにとって大きな警鐘であり、軍国主義に対するドイツの見解は根本的に変化しています。ドイツは現在、防衛により真剣に取り組む必要に迫られています。メルケル前首相の、ロシアを経済的な結びつきで包み込み、それにより和平的な行動を促すことを目指した政策は成功せず、より危ういものとして疑問視されるようになりました。また、メルケル前首相が原子力を放棄し、発電所を閉鎖したことにも関連しますが、ドイツのロシアへのエネルギー資源の依存についても大きな不安が残ります。当初、ドイツでの社会民主党、緑の党、自由民主党の三党連立は難しいものとみられていましたが、実際には、多少のぐらつきはあったものの、概ね一体感をもって政権運営がされています。ドイツは現在再軍備を進めており、国防費を増やし、ウクライナに重火器を送ることに合意しました。

フランスでは、マクロンが大統領選挙で勝利し、再選されましたが、これはヨーロッパの安定を維持するために非常に重要なこと言えます。独仏関係は緊密で、依然としてEUの基盤となっています。欧州におけるもう1人の重要な人物は、イタリアのドラギ首相です。彼は制裁措置に関して欧州理事会での多数決を強化するよう呼びかけるなど、イタリアをEUにおける指導的立場へと押し上げました。

スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟を申請していることも大きなニュースとなりました。

これにより突然、NATO東側の軍事力が大きく強化されたため、プーチン大統領にとって計算外であったと予想されます。

ロシアに対して、今後更なる制裁を加える余地はあるとみられます。

EUはロシアからの石油の輸入禁止を提案していますが、より影響の大きいガスの輸入禁止を実施する予定はまだないようです。ドラギ首相が、ウクライナの自由か、この夏の冷房の増設か、どちらかを犠牲とするかを選ばなければならないと述べたのは興味深いことでした。風力と太陽光を除けば、ほぼ完全にロシアのエネルギーに依存している国の首相としては、非常に大胆な発言と言えます。もし、全面禁止となれば、第4四半期には欧州全体が不況に陥ることが予測されます。

欧州が目指すネット・ゼロ(大気中に排出される温室効果ガスと大気中から除去される温室効果ガスが同量でバランスが取れている状況)実現へのプロセスは長期化すると思われます。

今回のロシア・ウクライナ戦争は、特に欧州において、ロシアへのエネルギー依存に対する認識を根底から覆しました。欧州諸国は今後、石油やガス、特に石油への依存度を減らしていくものとみられます。北海油田のように、これまで見放されていた地域がエネルギー資源の生産地として再注目される可能性もあります。今後エネルギー依存とエネルギーの多様化について、より慎重な議論が交わされることになるでしょう。

中国は現状をロシアの弱みにつけ込む絶好の機会と捉えるでしょう

当戦争が終わる頃には、中国がロシアのエネルギー関連企業へ投資し、ロシアの地位は中国の後塵を拝することとなる可能性もあります。

プーチン大統領と中国の習近平主席は、当戦争の前に強力なパートナーシップを宣言しました。しかしながら、中国はこれまでロシアに武器の提供は行っておらず、中国企業も制裁のためロシアからの輸入に神経を尖らせており、ロシアに対して非常に慎重な姿勢をとっています。今後中国がより積極的にロシアを支援する姿勢を見せる可能性はありますが、習近平主席は非常に重要な党大会を控えており、そこで政権3期目を確保したいという狙いがあることから、国内での支持を集めることに注力しています。中国国内では、どこまでロシアや欧米諸国側に傾くべきかをめぐって意見が分かれていることからも、今後中国がどのような方向性をとるのかまだ分からない状況です。

欧米諸国のウクライナに対する決意表明から中国がどのような結論を導き出し、そしてそれが長続きするかが今後重要な焦点となります。この戦争が続き、制裁が強化されるのであれば、不況が見込まれる冬頃に何が起こるのか注視していく必要があります。


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