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中国経済は4月のロックダウンで大打撃
2022/05/26

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概要

経済成長の急減速を受け、中国当局は政策支援を強化していますが、ゼロ・コロナ政策にこだわるあまり、政策の効果は限定的なものになると思われます。



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広範囲のロックダウンで経済に大きな打撃

一部の主要都市におけるロックダウン(都市封鎖)などにより、中国経済は4月に急減速しました。工業生産は、主に製造業を中心に、前年同月比2.9%減少(3月は5.0%増)しました。特に自動車セクターでは、上海や吉林など、中国の主要な自動車生産拠点での、長期にわたる操業停止により、前年同月比31.8%減少し、大きな打撃を受けました(3月は1.0%減)。

図1:中国 小売売上高成長率(名目・実質)

出所:Pictet Wealth Management, National Bureau of Statistics of China, Wind
2022年5月時点

ロックダウン(都市封鎖)の影響を受け、4月の消費も大幅に落ち込みました。小売売上高の前年同月比は、3月の3.5%減からさらに悪化し、11.1%減となりました。また、実質ベースでは、14%減少しており(図1)、2020年3月以来の低水準となりました。

固定資産投資(FAI)でも、政府債の前倒し発行を通して、インフラ投資への財政支援を実施したにもかかわらず、大きな打撃を受けました。 3つの主要セクター(製造業、インフラ、不動産)への投資はいずれも急減速し、特に不動産セクターで大きな落ち込みがみられました。4月の不動産投資は前年同月比10.1%減となり、上記主要セクターへの投資はすべて下降線をたどり続けています(図2)。特に、デベロッパーの土地取得は今年1〜4月の間にほぼ半減(累計で前年同期比46.5%減)しており、デベロッパーのセンチメントが極めて弱く、財務状況が脆弱であることが分かります。

図2:主要な不動産セクター関連指標

出所:Pictet Wealth Management, National Bureau of Statistics of China, Wind
2022年5月時点

輸出の成長率も4月には前年同月比3.9%増と、パンデミック以来最も低い水準となり、3月の14.6%増から大幅に縮小しました。

経済成長を支える消費、投資、輸出がいずれも急減速しているため、中国の労働市場はますます大きな圧力にさらされています。4月の失業率は前月の5.8%から6.1%に上昇し、政府が目標とする5.5%を大きく上回りました。31の主要都市での失業率は6.7%に達しました。

金融緩和政策だけでは対抗できず

中国当局は経済成長の急減速に対応するため、政策支援を強化しましたが、経済成長に対する強い逆風を相殺するには不十分だと思われます。中国人民銀行は4月に商業銀行に対する法定準備率(RRR)を25bps引き下げましたが、政策金利(中期貸出金利:MLF)は2.85%で据え置きました。これは、人民元安や資本流出への懸念から、より積極的な金融刺激策に踏み切れなかったことを示唆しています。

中国人民銀行(PBoC)は住宅販売支援策を矢継ぎ早に打ち出しており、住宅ローンの基準となる5年物ローンプライムレート(LPR)を15bps引き下げたほか、直近では一次取得者向けの住宅ローン下限金利を20bps引き下げました。これらの支援策は新規住宅購入者に恩恵をもたらす可能性はありますが、住宅市場全体への影響は限定的だと思われます。住宅市場の現在の苦境は、主に昨年強化されたレバレッジに関する規制により、多くのデベロッパーが深刻な流動性問題に直面していることに起因しています。一部過剰な債務を抱えるデベロッパーによるデフォルトは、市場のセンチメントを悪化させました。それに加えて、長期化するロックダウン(都市封鎖)が住み替えや消費者需要を抑制したことによる影響も受けています。従って、小幅な利下げが住宅販売の大幅な回復に繋がる可能性は低いと考えています。

財政面では、年初からの政府債の前倒し発行は、インフラ投資の下支えとなりました。しかしながら、4月には移動制限やオフィス閉鎖の影響で、インフラ投資の成長率は前年同月比2.9%となり、2月の8.1%、3月の8.8%から減少しました。地方政府の土地売却による収益の低迷は、今後さらにインフラ投資を抑制する可能性があります。

図3:セクター別 固定資産投資(FAI)の成長率

出所:PWM - AA&MR, Wind
2022年5月時点

最後に、共産党政治局は4月の会合で「インターネット・プラットフォームの健全な発展を促進する」と発表し、テクノロジー分野に対する規制緩和を示唆しましたが、新たな動きはまだみられていません。

ゼロ・コロナ政策は依然として成長の強い逆風に

中国政府は、経済コストが上昇しているにもかかわらず、先日開催されたハイレベル会合で、ゼロ・コロナ政策を堅持する方針を重ねて示しました。ここ1週間で1日当たりの新規感染者数は著しく減少しましたが、中国のGDPの約60%を占める地域では、依然として移動が制限されている状態にあります。複数の高頻度データからも、経済活動が停滞していることが分かります。例えば、労働節休暇中の映画館売上は前年同期比87%減少しており(7日間移動平均)、8大都市の地下鉄利用客は2021年5月中旬の50%程度でした(7日間移動平均)。上海などの一部の都市での移動規制は、規制がやや緩和されているに過ぎず、その一方で、北京では規制が強化されています。規制のピークはすでに過ぎ去ったと思われますが、規制が継続される限り、経済活動の回復は遅れると考えられます。

政策支援の面では、経済成長を促すような動きがみられましたが、これまでに発表された景気刺激策がやや控えめなため、影響力は限定的であると考えられます。さらに、短期的に中国政府がゼロ・コロナ政策を撤回する見通しはなく、オミクロン株が高い感染力を持つことから、ロックダウンは今後も繰り返される可能性が高いです。従って、5月には景気の改善が見込まれるものの、規制の期間と頻度を考慮すると、中国経済の回復には時間がかかり、回復幅も限定的なものになる可能性が高いと思われます。


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