Article Title
米国株式市場のコンセンサスを読み解く
2022/05/30

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米国株式市場において、年初に強気であった予想コンセンサスの勢いに陰りがみられます。悪材料はすでに織り込み済みなのか、市場のコンセンサスを読み解きます。



Article Body Text

強気のコンセンサス・シナリオが崩壊

主要な市場のストラテジストは、エコノミストがすでに経済成長率予想を下方修正し、インフレ予想を上方修正していたにもかかわらず、年末のS&P500の目標値を5,000ドル前後に維持しています。

経済成長率予想が苦戦しているのは、主にグローバルな製造業のサプライチェーンにおける供給不足が続いていることや、賃料の上昇などによって、インフレ圧力が当面高止まりすると予想されていることに起因しています。予想コンセンサスの悪化が続く中、市場ストラテジストが米国株式の年末の見通しと目標をどのように調整したかみていきましょう。

 

ダボス会議では、企業や政府の有力者らが経済の見通し悪化を警告

年内景気後退の可能性は当面低いままとなっている一方で、ダボス会議に出席している企業や政府の有力者の発言に関する報道から、彼らの慎重な姿勢が見受けられました。消費者心理を悪化させ、金融政策の転換を当初の予想より早く、かつ急速に進めることになったインフレの高止まりによる世界的な景気後退のリスクに関わる内容のメッセージが発せられました。またロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴うエネルギーや食料の価格高騰、そして中国でのロックダウンの影響もあり、世界的な見通しを悪化させました。

これらの懸念は、ドイツのハベック副首相が「我々は少なくとも、高インフレ、エネルギー危機、食糧危機、気候危機など4つの危機に直面しており、それらは互いに絡み合っている。もし、これらの問題が解決されなければ、世界の安定に甚大な影響を与える世界同時不況に突入するのではないかと私は深く憂慮している。」と述べたことによく現れています。

先月、国際通貨基金(IMF)はロシアによるウクライナ侵攻を理由に今年2回目の世界成長見通しを下方修正し、インフレが多くの国にとってあきらかな危機となっていることを指摘しました。IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、ダボスでの講演において、特に戦争、金融引き締め、食料価格の高騰は、世界的な経済危機を引き起こしたと述べました。しかしながら、彼女はまだ景気後退は予想しているとは述べていません。

下図は、景気後退に対するコンセンサスが年初から倍増したことを示しています。

米国景気後退に対するコンセンサス

出所: FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月24日現在

 

最新の経済予測のコンセンサスでは、従来予測通り米国と欧州の大きな乖離なし

以下の表は、2015年以降の米国とEUの実質GDP(国内総生産)成長率とインフレ率を示す消費者物価指数(CPI)前年比の推移と、エコノミストによる2022年、2023年、2024年の予想コンセンサスを示しています。ロシアによるウクライナ侵攻がユーロ圏に大きな影響を与えるという見方が強いものの、欧州のGDP成長率は年末には米国とほぼ同等になり、インフレ率に関しても米国が欧州より高い水準を維持すると予想されています。

米国 – GDP&CPIの予想コンセンサス

出所: Bloomberg Finance L.P.、Pictet Trading Strategy 2022年5月24日現在

 

米国のGDPに対するコンセンサスの見通しは悪化

世界経済の回復に伴う需要の増加や、サプライチェーンの混乱などから、年初にはすでにインフレ圧力は継続するものと考えられていました。

その後、ロシアによるウクライナ侵攻がインフレ圧力をさらに高め、エネルギーや農産物・工業製品などの商品価格が高騰していることから、経済成長への悪影響とそれに伴うスタグフレーションのリスクが懸念されています。

以前は米国の方がスタグフレーションのリスクが低いというのがコンセンサスとなっていましたが、現在米国のGDP成長率予想が欧州の経済成長予想に近づいています。

下図に示すように、米国のGDP成長率予想の下方修正は2022年の予測で最も顕著となっており、中央値は2021年9月の4.3%という高値から1月の3.9%まで低下し、現在は2.7%となっています。

2022年の米国実質GDP成長率予想コンセンサスが低下し、欧州の経済成長予想に接近

出所: FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月24日現在

 

インフレは未知の領域へ

米国のGDPを押し下げる圧力が強まっている一方で、インフレ予想は高まり続けています。

昨年末の時点で、2022年のインフレ率のコンセンサスはすでに、米連邦準備制度理事会(FRB)の許容範囲を大きく上回る3.75%となっていました。それ以降、政策担当者は一貫して2022年の予想を7.1%に引き上げています。2023年、2024年のインフレ予想も上昇しているにもかかわらず、インフレのピークに近づいていることを示唆しており、ロシアによるウクライナ侵攻などより特異なインフレ要因が沈静化し、正常化するというのが基本的な予想シナリオとなっています。

2022年、2023年および2024年の米国インフレ率のコンセンサス

上:2022年 中央:2023年 下:2024年

出所: FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月24日現在

 

米国の国債利回りとFRBの利上げ動向

エコノミストの予想中央値によると、米国2年国債および10年国債の金利は今後3%を少し上回った後、2024年にやや鈍化すると予想されています。また、FRBの実効金利については、2024年に3%超まで上昇し続けると予想されています。

 

市場アナリストの主張

大半の市場アナリストが、最近株価予想を下方修正し始めたことから、市場は現在、主要なサポートを失いつつあります。目標株価を引き下げた企業の数は162社を超え、2020年3月以来の高水準となりました。

これは、第1四半期決算後に上方修正されてきたEPS(1株当たり利益)の修正と相反するものです。しかし、市場アナリストによるEPSの引き上げ幅は最近のシーズンと比較すると縮小傾向にあります。それでもなお、EPSの上方修正は減速しているとはいえ、2022年、2023年ともにプラスを維持しています。

 

S&P500市場アナリストによるEPS上方修正の推移

出所: FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月24日現在

S&P500市場アナリストによる予想EPSの推移

出所: FactSet、Pictet Trading Strategy 2022年5月24日現在

 

 


●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら




関連記事


2024年7月の新興国株式市場

持続可能で再生可能な未来に貢献する建物

中央銀行はなぜ金を保有するのか?

2024年6月の新興国株式市場

新興国市場:メキシコ初の女性大統領~選挙戦の後の株価調整は中長期的な投資機会とみる

イベント・ドリブン戦略に好機を提供するアジアの肥沃な土壌