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新興国債券市場アップデート
2022/06/10

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概要

投資資金が新興国から流出していく中、ドル高はさらに進んでいます。現在のマーケットの動きと新興国のマクロ経済から、新興国債券の投資機会について分析を行います。



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今週のチャート

  • 新興国債券投資家として、ドルサイクルを理解することは、あらゆる時間軸で新興国ソブリン債券市場を読み解く上で必要不可欠です。
  • 直近数ヶ月、ドル対先進国通貨では、取引額加重平均ベースで非常に高い水準で推移しており、対新興国通貨では2020年第2四半期のパンデミック初期以来の水準にとどまっています。また、実質実効為替レートや名目実効為替レート(主要貿易相手国のバスケットと比較した際の通貨価値)など、様々な指標で、ドルのバリュエーションが上昇していることが示唆されています。
  • 過去12ヶ月間、新興国債券市場の低迷の一因となったドルの上昇が抑制されることが、今後の新興国債券のリターンを上昇させるカタリストとなる可能性があります。
  • 金利差は通貨への資金流出入、通貨のパフォーマンスに影響を与える要因の一つとして考えられています。国内と世界のインフレの動きを受けて各国で金融政策が進展するに連れて、金利差が生まれやすい環境になっています。
  • 直近のサイクルでは、新興国(総体的に)はより早い段階でタカ派的な政策へ移行しており、そのため一部の新興国通貨は先進国通貨と比較して魅力的な利回りを提供しています。このような魅力的な利回りは様々な投資活動に影響を及ぼしています:まず、現地通貨建て資産に投資する投資家は、フォワード市場で通貨を売却する際のヘッジコストが高額なため、為替ヘッジを行うインセンティブが低下します。また、現地の銀行に預金をすることで高い利回りを得ることや、利回りが高い現地通貨建て資産に投資するなど、「キャリートレード」のような投資活動を行うインセンティブも働きます。為替ヘッジのインセンティブが低いため、資本移動と通貨パフォーマンスの相関性が高くなることで、新興国への資本流入を促進する要因の一つとなり得ます。次に、こうした高い利回りは、新興国への投資に伴うリスクプレミアムを示すことが多いため、名目利回りの差のみに注目することは、必ずしも新興国通貨の見通しを分析する有効的な手法とは言えないでしょう。しかしながら、一つのアプローチとして、ボラティリティ調整後の金利差に着目し、通貨のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)を見ることで、1単位のリスクを取るためにどれだけの「利益」を得ることができるかを把握することができます。この指標では、新興国通貨の魅力はますます増し、いわゆる「キャリー・トゥ・ボラティリティレシオ」は比較的高い水準にあるように見えます。特にラテンアメリカと中東欧の通貨でこのような傾向は顕著であり、アジア通貨ではあまりみられていません。先進国通貨もこの指標では低調であり、直近では主要先進国通貨が対ドルだけでなく、対新興国通貨でもパフォーマンスが低下していることを説明することができます。
  • ドルの圧倒的な優位性、タカ派的なFRB、ウクライナ紛争への懸念などがドル買いの材料となっているため、これらの要因も考慮する必要があります。しかしながら、モメンタムは急変する可能性があり、上記の要因のいくつかは、ドル高の今後の行方を決定する重要なカタリストだと考えています。

図1:地域別 キャリー・トゥ・ボラティリティレシオ

出所:Bloomberg, Pictet Asset Management

図2:通貨別 キャリー・トゥ・ボラティリティレシオ

出所:Bloomberg, Pictet Asset Management

経済データの動向

国内総生産(GDP)

  • インドの2022年第1四半期のGDPは予想をやや上回り、前月比では堅調なモメンタムを維持しました。サービス業の継続的な回復と政府の積極的な設備投資が寄与しました。
  • チェコ共和国の2022年第1四半期のGDPは投資により予想を上回りました。
  • トルコの2022年第1四半期のGDP(前年同期比)は市場の予想通りでしたが、前期比では消費と輸出の低迷により鈍化しました。
  • ブラジルの2022年第1四半期のGDPは予想をやや下回りました。主に投資が低迷していたことと、南部での旱魃により大豆生産が不調だったことが影響しています。

購買担当者景気指数(PMI)

  • 中国の製造業および非製造業PMIは予想を上回りましたが、景況改善・悪化の分岐点をわずかに下回る水準にとどまりました。製造業では、ロックダウン(都市封鎖)の解消に伴い、生産指数と新規受注指数は小幅に改善しましたが、依然として景況悪化域にとどまっています。大企業のPMIが51であるのに対し、中小企業のPMIは46.7と、回復のペースには差があり、このことは数日後に発表された財新製造業PMIが予想を下回ったことからもわかります。サービス業では、建設業PMIが引き続き緩やかなペースで拡大し、インフラ投資が継続していることを示唆しました。

消費者物価指数(CPI)

  • ユーロ圏のHICPは、エネルギー価格の上昇(前年比39.2%)にけん引され、予想を上回りました。また、食品価格とコアCPIが予想を上回り、物価上昇圧力が高まっていることを示唆しています。
  • 韓国のCPIは予想を大幅に上回り、需要側と供給側で価格圧力がみられました。食品とエネルギー価格が引き続き上昇し、サービス業でのコスト・インフレの上昇は外食費と個人向けサービスのコストの増加によってもたらされました。
  • インドネシアの消費者物価指数は、食品と運輸価格にけん引され、予想を上回る水準となりました。前月比では、ラマダン関連の支出が減少したことを受けて、インフレ率の上昇が鈍化しました。コアCPIは前年同月比2.6%と安定した水準を維持しました。
  • ポーランドのCPIは、エネルギー価格とコア・インフレ率にけん引され、予想を上回る結果となりました。
  • トルコのCPIは予想を大幅に下回りましたが、総合インフレ率は前年比73.5%上昇しました。コア指標B、Cも高水準となり、緩やかな上昇傾向を維持しました。PPIは前年比132.2%と高水準で、コストプッシュの圧力が大きいことを示唆しており、今後数ヶ月のインフレ率は上昇傾向を維持すると思われます。
  • ペルーのCPIは予想を下回り、1988年以来初めて8%の大台を超えました。市場コンセンサスを下回る結果となったものの、コア・インフレ率は前月比0.6%上昇、総合インフレ率は前年比で4.26%上昇しました。

中央銀行

  • 新興国中央銀行の中で、ハンガリーは予想通り政策金利を50bps引き上げ、ケニアは据え置きの予想に反して50bpsの利上げを実施しました。
  • ハンガリーでは、中央銀行が予想通り政策金利を50bps引き上げましたが、前回の会合から利上げは急減速しました。中央銀行は預金金利の引き上げを継続すると示したほか、ユーロ/ハンガリーフォリントのボラティリティが上昇した場合、あらゆる手段を用いてボラティリティを抑制する意思を表明しました。

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