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スイス:金融政策と通貨
2022/06/27

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概要

スイス国立銀行(SNB)は6月16日の会合で、政策金利を50bps引き上げ、市場に大きなサプライズを与えました。金融引き締め姿勢に転じたことや、インフレ率の低下、堅調な経常収支から、スイスフランの見通しは明るいと思われます。



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スイス国立銀行のサプライズ利上げ

スイス国立銀行(SNB)は6月16日の会合で、政策金利を50bps引き上げ-0.25%とし、主要中央銀行による利上げに追随する形で市場に大きなサプライズを与えました。これは2007年以来の利上げとなりました。このような異例の利上げは次の3つの要因によって実施されたと考えられます。一点目は、米国連邦準備制度理事会(FRB)が先週政策金利を75bps引き上げたこと、二点目は、欧州中央銀行(ECB)が7月に利上げと同時に新たなバックストップ策を導入し、金融市場の分断化を阻止すると発表したこと(これによりECBは利上げを加速することができる)、三点目は、直近の貿易加重スイスフラン(CHF)が(特に実質ベースで)下落していることです。

今回の利上げについてSNBは「インフレがスイスのモノやサービスに一段と広範囲に波及するのを防ぐのが目的だ」と発言していたことから、SNBはインフレを重要視するようなったと思われます。

また、SNBは条件付きインフレ見通しを大幅に引き上げました。2022年は2.1%から2.8%、2023年は0.9%から1.9%、2024年は0.9%から1.6%に上方修正されました(図1)。注目すべきは、2025年第1四半期でインフレ率は2.1%と、中央銀行が定義する物価安定水準(消費者物価指数の上昇率が年率2%未満)をわずかに上回ると予想している点です。こうしたインフレ見通しの修正を踏まえると、SNBが追加利上げを実施する可能性は高いと考えます。

SNBはスイスフランを上昇させることによって、輸入価格の上昇を抑え、インフレ圧力を軽減するために、金融引き締め姿勢をさらに強める可能性があります。利上げの実施は他の主要中央銀行の動きに大きく依存すると考えられます。SNBの次の会合は9月22日に予定されていますが、それ以前に開催されるFRBの7月27日と9月21日の会合、ECBの7月21日と9月8日の会合を注視する必要があります。

図1:スイス条件付きインフレ見通し

出所:Pictet WM-CIO office and Macro Research, Swiss National Bank(2022年6月21日時点)

バランスシートの縮小はSNBの金融政策正常化において大きな役割を果たす可能性がある

6月のSNB会合では、大幅な利上げとともに、SNBの通貨政策が変更されことが注目を集めました。SNBは会合後の声明で、スイスフランが「高く評価されている」という文言を削除しました。また、トーマス・ジョルダン総裁はスイスフランが下落した場合、SNBは外貨準備の売却を検討していると発言しました。

近年のSNBの為替介入はフラン安を目的としていたことを考慮すると、このような動きはSNBがフラン高を支えようとしていると捉えられます。現段階では、SNBが外貨準備を売却する環境はまだ整っておらず、実施されるとしても、2023年になるでしょう。しかしながら、SNBのバランスシートの規模と構成を考慮すると、今後もSNBの動向を注視する必要があると思われます。

フラン高に注目

SNBが金融引き締めを開始したため、スイスフランは他国との金利差の拡大によって大きく下落する可能性は低いです。さらに、相対的に低いインフレ率は、今後数四半期にわたってスイスフランの下支えとなると考えられます。過去1年間ユーロなどの他の通貨に比べて、スイスフランの物価上昇に対しての下落幅は小さく、スイスフランの価値が名目と実質で大きく乖離していることを示しています。

ジョルダン総裁の発言から、SNBは輸入価格の上昇によるインフレを抑制する手段の一つとして、フラン高を好んでいることが分かります。また、実質ベースでフラン安がここ数ヶ月続いていますが(図2)、名目為替レートが比較的高い水準を維持できれば、スイスの輸出に大きな悪影響を与えることはないでしょう。

図2:スイスフラン貿易加重指数(実質/名目)

出所:Pictet WM-CIO office and Macro Research, Refinitiv(2022年6月21日)

インフレ率の上昇に加え、スイスの経常黒字はスイスフラン上昇の追い風となっています。特に、経常収支の主な構成要素である貿易収支は、スイスのエネルギーミックスと高付加価値製品の輸出によって、外部環境の悪化(特にエネルギー価格の高騰)に対しても強い回復力を持つと考えられます。

これらの要因(金利差の縮小、インフレ率の低下、堅調な経常収支)を考慮すると、スイスフランが大きく下落する可能性は低いと考えます。また、スイスフランの主なリスクは、世界のリスク選好度が今後上昇し、安全資産であるスイスフランから投資資金が流出することでしょう。


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