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ノーベル賞受賞者かつベストセラー作家のエコノミスト、ジョセフ・スティグリッツが語る世界が抱える4大リスク
2022/06/24

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概要

現在、世界は、経済、地政学、地理経済学の分野で現在進行中の様々な事象がどのように展開されるかを含め、かつてないほど予測不可能で不確実な時代となっています。世界的に重大な影響を及ぼす可能性のある4つの重大なリスクとして新型コロナウイルスの感染状況、ロシア・ウクライナ情勢、中国および米国の状況が挙げられます。ノーベル賞受賞者かつベストセラー作家のエコノミスト、ジョセフ・スティグリッツがこれらのリスクを考察します。



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1.  新型コロナウイルスの感染状況

新型コロナウイルスの感染状況に関して、収束するまでの期間、新たな感染拡大の波やウイルスの変異など、未知な部分が多くあります。また、新型コロナウイルスの影響による経済的な余波も未だ不透明であるといえます。

米国、欧州、日本はいずれも的確な政策を迅速かつ効果的に実施し、景気後退を可能な限り防ぐことができました。一方、新興国は財政が脆弱で巨額の債務があることから、特に金利の上昇に大きな影響を受けるため、債務をどのように管理するかという点がひとつのリスクとなっています。我々は世界での平等なワクチンの普及を実現することができず、将来のウイルスの突然変異に対して脆弱な状態のままとなっています。一方、現在、WTO(世界貿易機関)では、ワクチンの知的財産を開放し、公平な普及を目指す案について議論が重ねられています。

 

2. ロシア・ウクライナ情勢

ロシアによるウクライナ侵攻は、欧州をはじめ、米国を含む世界の多くの地域で強力な連帯感を生んでいますが、この侵攻は食料とエネルギー、そしてグローバリゼーションの未来に大きな経済的影響を及ぼすものとなっています。侵攻開始当初は、ほぼ全世界からウクライナへの支持がありました。しかし、現在、この支援の経済的負担を感じている新興国もあり、世界からの支援に軋みが生じ始めています。紛争に関して、支持、不支持、双方の異なる立場によって見え方が変わります。新興国では、すでに新型コロナウイルスワクチンの確保の不平等さから欧米に対する不満が噴出していました。今回の紛争でエネルギーや食料の価格が高騰しており、これは現在、新興国が抱えている多額の債務負担への更なる重荷となります。このように世界では多くの問題が連動していることが分かります。

 

3. 中国の状況

中国には2つの側面があります。ひとつは、中国が抑制に失敗した新型コロナウイルスを巡る問題で、これは世界的なサプライチェーン(供給網)に深刻な影響を及ぼしています。経済は、一度停止して直ちに再開するような構造にはなっていません。市場はわずかな調整を行うことはできますが、中国の経済停止は市場の調整力を上回る、非常に大きな影響を与える問題でした。世界の生産国である中国のロックダウン(都市封鎖)は、世界経済な甚大な影響を及ぼしています。

もう一つは、中国の政治的な不安で、これには様々な側面があります。中国の習近平国家主席は当初、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻を支持しました。現在、中国が制裁を回避するかどうか、またそれがどのような影響を及ぼすかについて、議論を続けられています。もし制裁を回避すれば、米国は対抗措置を取らざるを得ず、世界経済に深刻な影響を与えることになります。しかし、中国の政局は一枚岩ではなく、習主席を中心とした勢力の他に、習主席の考え方を共有しないメンバーも多く、ウクライナ戦争で欧米と敵対することを避けたいと考えています。このため、新型コロナウイルスとウクライナ情勢の両方を巡る問題で政局と習主席の間に対立が生じ、政治的不確実性の要素が生まれ、それが影響を及ぼす可能性があります。

 

4. 米国の状況

米国においても、2つの大きなリスクが存在します。ひとつは金融政策、すなわち米連邦準備制度理事会(FRB)がどの程度迅速に政策金利を引き上げるかという点です。現在のインフレが需要側ではなく、供給側に起因するものであることを考えると、政策金利の引き上げがインフレ抑制に与える影響は限定的です。中古車も含めた自動車価格の上昇は輸送船舶の不足とも関係しており、石油などエネルギー資源や食料の不足も世界的な問題であるため、政策金利を引き上げても直接的な解決には至るのは難しい状況です。しかし、金利が上がればGDP(国内総生産)成長やイノベーションの推進に悪影響が出ることから、今後FRBでの議論を経て利上げ幅が縮小し、むしろ、すでに効果が出ている量的金融緩和の解除に注力することになるとみています。

第二は、国民の間で政治的な分断が進み、過激派が拡大しているという問題です。米国では多くの若者が「米国憲法は無意味であり、かつ違法である」という考えを共有しています。現在の民主主義体制の存続が危ぶまれており、政治的な行き詰まりがみられます。

 

今後の展望

インフレに対処するためには、供給側の対策が必要です。なぜなら、こうした供給側の問題を解決するためには投資が必要であるものの、現在世界的に進んでいる金利の上昇は投資に向けた動きを抑制するからです。このまま金利上昇が進むと、インフレに対処できないまま、経済成長やイノベーションが阻害され、スタグフレーションを引き起こすことにつながります。

現状の解決策のひとつとして、再生可能エネルギー大規模な拡大が挙げられます。これに関しては、エネルギー価格の高騰に対処するために比較的早く実現可能であると見込まれます。短期的には、米国でのフラッキング(主にシェールガスなどの採掘方法)の規制を緩和することです。これは迅速な対応が可能で、資源供給の改善が見込めます。労働面においては、米国は先進国で唯一保育に関する法規定がなく、今後保育の提供を拡充することで女性の労働比率を高めることが期待できます。また、現在、移民に関する制限が労働力低下の大きな要因となっていますが、海外から労働力流入を再開させることは政治的に困難であるとみています。


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