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新興国の経済動向と金融政策
2022/07/27

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概要

経済データや現在のマーケットの動きから、新興国の経済動向と金融政策についてピクテが考察します。



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コモディティ価格 下落に転じる

直近数週間にわたり、幅広い商品の価格が弱含みで推移しています。ガス、石炭、木材などの一部を除き、直近1ヶ月でコモディティの価格は全面的に下落しました(図1)。コモディティ価格の下落は歓迎すべきことではありますが、世界的にインフレ率が低下し始めることを予想するのは時期尚早と思われます。コモディティ価格の下落、物流停滞の緩和、需要の減退などがインフレの低下につながることは考えられますが、賃金とコアインフレ率の上昇圧力により相殺される可能性があります。

多くのアジア圏の中央銀行は金融緩和を維持しているか、あるいは金融引き締めの初期段階にあります。タイやフィリピンなどの国では、インフレが直近で加速している一方、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどの国では、価格統制や補助金によってインフレは緩和されています。インド、マレーシア、フィリピンは今年5月に利上げを開始し、インドネシアとタイは2022年第3四半期に金融引き締めサイクルに入り、2023年まで引き締め姿勢を維持すると予想されています。シンガポール、台湾、韓国では、金融引き締めは2022年末から2023年初まで続くと思われます。

図1:1ヶ月間のコモディティ価格変動率(%)

出所:Bloomberg

ラテンアメリカのクラック・スプレッドは堅調に推移 製油企業の利益支える

原油価格の下落に伴い、一部地域(特にアジア圏)では製油企業の業績悪化が見られましたが、ラテンアメリカでは、米国と同様に石油製品の在庫が少ないため、クラック・スプレッド(原油価格と石油製品価格の差)が大きく、MC Brazilなどの企業の利益率は高い水準に保たれています(図2)。

図2:ブラジルバイア州におけるクラック・スプレッドの推移

出所:MC Brazil

中国 住宅ローン市場の信用リスク

7月13日の報道によると、50都市で100以上の不動産開発プロジェクトの住宅購入者が、建設の遅延を理由に毎月の住宅ローン支払いを停止する意向を表明する書簡を自治体や銀行に送付しました。中国の住宅ローン市場規模は、2022年第1四半期時点で388兆元(約5.6兆ドル)(ローン総額の19.3%、銀行資産の10.9%)でした。返済拒否されている住宅ローンの規模は最大で1兆元(約1450億ドル)、住宅ローン全体の市場規模の2.6%になると思われます。

しかしながら、本件が中国の住宅ローン市場のリスクを高める可能性は低いと考えています。まず、住宅購入者は契約破棄を望んでいるのではなく、建設工事が完了し、住宅が引き渡されることを期待しています。すでに30%~70%のローンを返済しているにもかかわらず、住宅ローンを返済している物件を諦めるということは、非常に高い機会費用が発生することを意味しています。次に、中国では、住宅ローンの償還請求権が認められており、返済拒否は住宅購入者の信用スコアを低下させ、電車のチケットの支払いができなくなるなど、深刻な影響を与えます。また、いかなる状況下でも、未完成の住宅に対してローンの返済を停止することは、現在建築中の住宅や、すでに受け渡しされた住宅で認められた前例がありません。その上、社会的安定性の観点から、契約済みの不動産開発プロジェクトの完成を保証するために、政府が介入する可能性が高いと思われていることも挙げられます。以上の理由から、仮にさらなる工期の遅延が発生したとしても、多くの住宅購入者が債務の返済を完全に放棄するという展開は想定しづらく、銀行の不良債権比率が高まるリスクは限定されていると考えられます。

図3:中国の住宅ローン不良債権比率は安定している

出所:Company data, JPM(2022年7月時点)

経済データの動向

中国

  •  全体として、中国の6月の経済データは直近数ヶ月のデータに比べ堅調さを示しており、ロックダウンによる低迷期から脱却したことを示しております。しかしながら、若年層の雇用現場では依然として構造的なミスマッチが解消されておらず、不動産産業も中小都市を中心に悪化し続けています。
  • 中国の第2四半期のGDPは予想を大幅に下回り、前年同期比0.4%増にとどまり、ロックダウンの影響により、前期比2.6%減となりました。
  • 中国の小売売上高は、自動車、衣料品、化粧品、宝飾品などの分野で強い回復を見せました。特に自動車の売り上げは、特定の都市における自動車購入税の減税と補助金の供給や、ロックダウン期間中の買い控えに続く繰延需要の発生により、回復モメンタムが目立ちました。
  • 中国の鉱工業生産は予想をやや下回りましたが、物流の再開と6月の好調な輸出を背景に、鉱業、製造業、公益事業が改善し、回復しました。ただし、セメントや鉄鋼の生産量は引き続き減少しており、不動産セクターの低迷を示唆しています。
  • 貿易収支に関しては、高付加価値製品輸出の大幅な伸びと、国内需要の低迷により輸入が伸び悩んだことから、予想を大きく上回る結果となりました。
  • 7月の信用統計は、政府の緩和支援策により、企業融資や家計向け融資が大幅に増加し、幅広い回復が見られました。

消費者物価指数(CPI)

  • チェコ共和国のCPIは予想をわずかに上回り、前年同月比17.2%増となりました。今回の上方修正と、チェコ国立銀行がチェコ・コルナを支援するために為替市場で大規模な介入を行ったことは、今後さらなる金融引き締めを行う必要性を示唆しています。
  • ルーマニアのCPIは、エネルギーと食品価格の高騰により、市場の予想通りの上昇幅となりました。コアCPIは前年同期比で上昇したものの、前期と比較すると鈍化しました。
  • インドのヘッドラインCPIは、市場予想を下回る結果となりました。コアCPIも予想を下回りましたが、インフレ圧力は依然として強いと思われます。

中央銀行

  • 中国人民銀行は、市場の予想通り政策金利を据え置きましたが、チリ、ハンガリー、フィリピンの中央銀行は利上げを実施しました。
  • チリ中央銀行は市場予想を25bps上回る75bpsの利上げを実施しました。その後の声明では、今後の利上げの参考となる経済データについて言及し、引き締めサイクルの巻き戻しの可能性を否定しました。
  • ハンガリーでは、政策金利を200bps引き上げ、1週間物預金金利と一致する9.75%としました。ハンガリー国立銀行の金融政策委員会(MPC)のヴィラグ氏は、中央銀行は引き続きインフレに取り組み、為替変動リスクを低減させると発言しました。
  • フィリピン中央銀行は75bpsの緊急利上げを実施し、政策金利の翌日物借入金利を3.25%に引き上げました。

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