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厳しい市場環境下での債券投資
2022/07/27

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概要

足元の厳しい市場環境下における、ピクテの債券投資の運用方針をご紹介します。



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債券投資家にとって直近数ヶ月は、信じがたいほど困難な時期でした。ほぼすべてのサブセクターで債券価格が下落したため、投資家に資産の退避先はありませんでした(図1)。

このような状況は、1990年代の米国のシチュエーションコメディ「となりのサインフェルド」を想起させます。登場人物の一人であるジョージ・コスタンザが、これまで自分が下してきたすべての決断は間違っており、自分の人生はあるべき姿とは正反対になっていると言います。友人のジェリー・サインフェルドは、「自分の直感に基づく行動がすべて間違っているなら、その反対の行動を取ればうまくいくはずだ」と彼を説得します。その結果、コスタンザは自分の直感と正反対の行動を取るようになり、大きな成果を得ます。

この6ヶ月間、多くの債券投資家はコスタンザと同じように、「平常時と間逆の行動を取っていれば、債券をショート(空売り)していれば」と考えたことでしょう。しかしながら、今後コスタンザのように自分の直感と間逆の行動を取れば、成功が保証されるのでしょうか。利回りが上昇し、スプレッドが拡大している今、債券をショートすることがリターンに繋がるのでしょうか。

図1:債券の年初来パフォーマンス

出所:Pictet Asset Management, Bloomberg(2022年1月1日~2022年7月1日)

世界金融危機(GFC)以降、投資家が堅実にリターンを獲得するために役立った考え方が、この6ヶ月間においては全く役に立たなかったことは明らかです。例えば、市場のストレス時に中央銀行が金融市場を救済し続けるとの期待は、長期債を保有することが不況に対する保険として機能するという考え方と同様に、投資家に大きな代償を支払わせることになりました。

これらの課題を解決するためには、まず我々が現在どのような情報を持っているかを整理しなければなりません。ピクテ・アセット・マネジメントのグローバル債券チームは、投資家にとってより賢明な道は、短期的な景気循環の動向に注目することではなく、金利、債券スプレッド、通貨に影響を与える構造的な動向に注目することであると考えています。

その構造的な動向とは、低金利環境の長期化、欧州危機(統合と分裂を繰り返す地域として)、中国の構造転換(輸出主導経済から内需主導経済へ)の3つです。

低金利は今後も続くのか?

この3つのうち、「低金利環境の長期化」は、最もみなさんの賛同を得にくいテーマかもしれません。ほとんどの先進国でインフレ率が8%に達している今、低金利環境が今後も継続すると考える人は少ないでしょう。

高齢化の不可逆的な進展、膨れ上がる債務残高、中央銀行の独立性向上、慎重な財政政策はいずれも、先進国経済の潜在成長率を抑制し、デフレ圧力に繋がりやすいファクターであることから、当初このテーマを採用しました。さらに、冷戦の終結を受けて「平和の配当」とグローバル化が進んだことにより、金利が長期にわたって低水準で推移するための環境が整いました。

しかしながら、パンデミック以前から、この仮説には問題がありました。ドナルド・トランプ大統領により、米国では数十年にわたる慎重な財政運営に終止符が打たれ、欧州危機によりマーストリヒト条約は保留となりました。同時に、米中間の貿易摩擦がグローバル化の進行を脅かしました。また、ウクライナ戦争は「平和の配当」の終わりを告げ、コモディティ価格を非常に高い水準に押し上げる可能性があります。

図2:米国10年債利回り(%)

出所:Pictet Asset Management, Bloomberg(1962年1月5日~2022年7月1日)

その一方で、人口動態の傾向に変化はなく、依然として長期的な経済成長率の低下を示唆しています。 生産年齢人口は、先進国では少なくとも数十年前から着実に減少しています。生産性の成長率も(パンデミックによる歪みを除けば)鈍化しています。また、政府債務残高の高止まりは、今後も生産性の向上を抑制する要因になると考えられます。

成長のために投資をするのではなく、債務を返済していくことは、概して生産的であるとはいえないでしょう。オンショアリング(国内移転)やサプライチェーンのリスクマネジメントにかかる追加コストも、一部の産業では生産性の向上には繋がりません。

従って、低い実質金利は長期的に続くと考えられます。また、どの程度中央銀行が利上げを実行できるかは、各国の経済情勢次第といえますが、既に悪化の兆しを見せている先進国経済はウクライナ戦争や中国の不動産危機、厳格なロックダウン政策等により一層痛めつけられており、その着地点はさほど高くないでしょう。

本当に未知数だといえるのはインフレ動向でしょう。世界金融危機以降、中央銀行はデフレと戦っており、パンデミック前まではその戦いに敗北しているように見られました。

パンデミックによってサプライチェーンが崩壊し、中央銀行および中央政府が金融、財政の両面から過剰な刺激策を導入したことによって、インフレ率は中央銀行の目標を超えて急上昇し始めました。インフレ率が持続的に上昇したのは、多くのアナリスト、エコノミスト、投資家を驚かせました。2022年1月には、高いインフレ率が想定以上に長期化してしまっただけではなく、インフレが食料品、エネルギー、住宅以外にも広がっていることが明らかになりました。

インフレはどこで終わりを迎えるのでしょうか。ブルームバーグの調査では、米国のインフレ率は2022年に4.9%から9%、2023年に2%から5.2%と予想されており、中央値はそれぞれ7.5%と3.4%です。欧州の予測値も同様に、幅広のレンジで予想されています。 その一方で、2012年から2020年にかけては、米国の消費者物価指数(CPI)は0〜3%、基準金利は0〜2.5%の間で推移してきました。

ピクテの運用哲学では、常に一般的なマクロ経済予測に過度に依存しないことを重要視しています。その代わり、インフレ率が高水準で推移するシナリオと、インフレ率が徐々に低下していくシナリオとの間で、ポートフォリオのバランスを取りたいと考えています。

同時に、アセットミックスの中で債券の果たす役割が根本的に変化していることを理解することもとても重要です。

より高い水準で長期化するインフレは、国債とリスク資産の相関関係を崩れさせました。言い換えると、インフレ率の上昇はリスク資産価格の下落につながり、インフレ率の低下はリスク資産価格の上昇につながります。

図3:米国債のボラティリティを表すICE MOVE指数

出所:Pictet Asset Management, Bloomberg(1988年6月12日~2022年7月3日)

ボラティリティもまた、再び激しさを取り戻していますが、これは世界経済の不確実性の高まりだけに起因するものではありません。中央銀行はもはや、量的緩和の発動や、株式市場で「FRBプット」を実施することによってボラティリティを抑制する意図はないようです。

相対的に大きいボラティリティは今後も続くと思われており、中央銀行はインフレ抑制に注力するでしょう。政治的には、量的緩和は社会的な格差を拡大させる恐れがあり、正当化することが難しくなっています。そのため、ピクテは国債と社債の投資において、それぞれポートフォリオのリスクを低減しています。

インフレ率が中央銀行の目標値を上回って推移する限り、債券資産間の相関は、ボラティリティと同様に高い水準で推移すると思われます。

中央銀行の信頼性に疑義

これらの課題に対して、中央銀行の対応は大きく異なります。例えば、イングランド銀行(英中央銀行)は景気後退を非常に恐れているようであり、欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏内の分断化リスクを懸念しています。一方で、オーストラリア準備銀行(オーストラリア中央銀行、RBA)は、住宅バブルを懸念しています。三行とも安定性を維持するためにより多くのリスクを取る可能性があり、その結果、インフレ対策という点では市場の信頼を失うかもしれません。

1970 年代からの教訓から、このようなアプローチには欠点があることが分かります。FRB はアーサー・バーンズの指揮の下、1973 年の第 1 次オイルショックの後のインフレを抑制することに失敗しました。インフレ期待が高まったため、バーンズの後継者であるポール・ボルカーは、1979年に第2次オイルショックが起きた際に、思い切った措置を取るほかなく、政策金利を20%まで引き上げました。他国のイールドカーブがかなりスティープであるのに対し、米国のイールドカーブがこれほどフラットなのは、FRBが40年前と同様にインフレの抑制を優先し、インフレを抑え込むことに成功することによって、米国金利が早期に安定すると市場が考えているためでしょう。 債券投資家の観点からは、インフレ対策に関して信頼の置ける中央銀行が存在する市場に投資することが好ましいと思われます。

一方で、ECBにとって、すべての選択が困難だといえるでしょう。ECBは、(イタリアなど)より財政が脆弱であり、債務を多く抱える国の借入コストが高まることを防ぐためのバックストップ策を生み出せるでしょうか。同時に、ユーロ圏がウクライナ戦争により、貿易面で大きな課題を抱えている時期に、信頼性の高いインフレ対策を導入できるのでしょうか。

完全なる「逆コスタンザ」ではない

ここで、ジョージ・コスタンザに話を戻し、2022年以前の数十年間にわたり正攻法とされてきた運用を今後も行うべきかどうかを考えてみましょう。今まで、デュレーションをオーバーウェイトし、投資適格クレジットをロングすることで、「低金利環境の長期化」という考えを投資行動に反映していました。今後、我々は金利とクレジットをショートすべきなのでしょうか。答えは、中央銀行の信頼性に基づき判断すべきだと考えます。

米国のように中央銀行が信頼に値する市場であれば、その国の通貨をより多く保有し、デュレーションを長期化させ、質の高い投資適格債を保有する価値があると考えます。

中央銀行の信頼性が低い場合、その国の通貨、債券、社債をショートするというコスタンザと同様な戦略が有効だと考えられます。ただし、市場が不安定な時期に、投資の方向性を転換することは、高いボラティリティに直面することに繋がります。

また、様々な可能性が存在する経済予測を信用するのは、ギャンブル的であると考えます。

長期的に、債券価格の変動要因は、視認性の低いインフレ動向と中央銀行の信頼性に集約されると考えており、行動は言葉よりも雄弁に語るでしょう。


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