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ドイツ・スイスのソブリン債-インフレと景気減速の狭間で揺れる
2022/08/01

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概要

欧州中央銀行とスイス国立銀行のインフレを断固阻止する動きなどから、景気後退懸念が強まり、ドイツ、スイス国債の利回りは低下しました。しかしながら、インフレと金融政策の不確実性が高まっているため、債券市場のボラティリティはしばらく高止まりするものと思われます。



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景気後退懸念による利回りの低下

ドイツとスイスの10年国債利回りは、6月21日にそれぞれ1.76%と1.46%でピークを迎え、その後経済成長懸念を背景に低下しました(図1)。商品価格の高騰、ガス供給不足への不安、中央銀行のタカ派的な言動などから、欧州景気後退懸念が一段と強まったことにより、インフレが加速しているにもかかわらず、長期国債利回りは低下しました。

ドイツ・スイス10年国債利回り

出所:Pictet Wealth Management – CIO Office & Macro Research, Factset(2022年7月27日時点)

欧州中央銀行(ECB)とスイス国立銀行(SNB)は、それぞれ7月21日と6月16日に政策金利を50bps引き上げ、インフレ抑制を重視する姿勢を強化しました。これにより、ユーロ圏のマイナス金利は解除され、スイス国立銀行の政策金利は-0.25%となりました(図2)。両中央銀行のインフレを断固阻止する動きから、市場参加者は政策金利の大幅な上昇を期待していましたが、景気後退懸念から政策金利に対する見通しは引き下げられ(図3)、ドイツ10年債金利は0.93%に、スイス10年債金利は80bps以上低下し、0.55%となりました(6月21日~7月27日の期間中)。

図2:欧州中央銀行(ECB)およびスイス国立銀行(SNB)の政策金利とその見通し

出所:Pictet Wealth Management – CIO Office & Macro Research, Refinitiv(2022年7月27日)

市場参加者の6月中旬時点の利上げに対する期待は高かったものの、直近の18ヶ月後の金利見通しはそれぞれ1.04%、0.57%に低下しています(図3、6月27日時点)。

図3:欧州中央銀行(ECB)およびスイス国立銀行(SNB)の利上げ見通し

出所:Pictet Wealth Management – CIO Office & Macro Research, Bloomberg Finance L.P.(2022年7月27日時点)

欧州経済成長の下振れリスクが高まり、ドイツとスイスの10年国債利回りが今後数ヶ月間低水準で推移することも考えられますが、ガスの供給不足が続く限り、インフレ率は高止まりする可能性が高いと思われます。ECBとSNBにとってインフレ抑制は唯一の重要課題となっているため、恐らく政策金利のさらなる引き上げは年末まで続くでしょう。また、堅調な労働市場、パンデミック時に蓄積された貯蓄、エネルギーコストの上昇圧力を低減するための財政支援により、景気減速は緩やかなものにとどまると考えられます。

インフレ率の上昇により、利回りの低下は限定的

インフレと政策金利の先行きを予測することは非常に困難なため、債券市場のボラティリティはしばらく高止まりするものと思われます。ECBは7月21日の金融政策決定会合で「会合ごとに金利を決定するアプローチ」に移行すると述べており、政策金利に関するフォワード・ガイダンスを廃止しました。SNBはこれまでフォワード・ガイダンスを示さず、市場参加者を驚かせることを好んでいましたが(6月16日の利上げ)、スイスフランに対する方針は大きく変化しました。SNBは輸入インフレを抑制するためにスイスフラン高を維持しようとしており、6月16日の会合で「スイスフランが下落する場合、外貨準備の売却も検討する」と述べているように、バランスシートの縮小も視野に入れていることを示唆しています。

スイスフランはSNBの金融政策の急激な方向転換により、6月15日から7月27日の期間にユーロに対して6.09%、米ドルに対して3.61%と、大幅に上昇しました。輸入に利用される主要2通貨に対してスイスフランが上昇したことによって、スイスはエネルギー(電力とガス)をユーロ圏から輸入しているにもかかわらず、インフレ率は近隣諸国を大きく下回ることになるでしょう。

このような環境下、景気後退や金融市場の混乱が生じた場合でも、欧州中核国のソブリン債は安全資産としての役割を果たすことが可能だと思われます。また、インフレ率の上昇により、中央銀行が政策金利の引き上げを続けているため、利回りの低下は限定的となる可能性がありますが、欧州が穏やかな景気後退に陥る場合、長期金利は年末にかけて緩やかに上昇すると考えられます。一方で、景気後退に至らず、インフレ率が高止まりした場合、ドイツとスイスの10年債利回りはさらに上昇すると考えられ、景気後退が深刻化した場合、利回りは再び低下し、ECBとSNBは利上げサイクルの短縮を迫られる可能性があります。


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