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新興国債券市場におけるサステナビリティ投資
2022/08/12

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概要

債券の発行体と投資家にとって、厳しい環境が続く中、新興国債券市場では、サステナビリティ投資が注目されています。



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世界的な金利の上昇とボラティリティの高まりにより、特に新興国を中心とした債券の需要が低迷しています。一方で、ピクテの調査によると、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素を取り入れた債券は、発行体と投資家の注目を集め続けています。

このようなトレンドは、新興国債券の需要回復につながり、最終的には新興国債券市場のより理想的な発展につながると思われます。

新興国債券市場では、2022年上半期で合計819億米ドルのESGラベル付き債券が発行され、前年同期比2%増の結果となりました。

新興国におけるESGラベル付き債券市場が回復している一方で、債券市場全体では全く異なる動きがみられています。新興国債券市場全体の発行額は48%減少しました(ただし、アジアの現地通貨建て債券発行額は約25%増加)。新興国を含む世界の債券市場の発行額は前年同期比で14%減少し、4兆8,000億米ドルとなりました。

新興国が先進国よりもESGに取り組む必要性が高い傾向にあることは、投資家が新興国のESG債券に投資する理由の一つとなっています。その結果、ESG債券への需要が高まり、資金の借り手(発行体)の供給を促します。また、発行体はESG債券の発行により、「グリーニアム」の恩恵を受ける可能性があります。「グリーニアム」とは、同条件の他債券と比べて、ESG債券の利回りが相対的に低くなる現象を指しており、これにより発行体は低コストで資金調達をすることができます。

ESGラベル付き債券の中でも、新興国投資適格格付の発行体(上半期の発行額の半分以上を占める)の債券は投資家の間で高い人気を集めています。先進国のハイ・イールド債券に匹敵する利回りを持ちながら、信用リスクは相対的に低いため、金利の上昇や、ボラティリティの高まりに晒されている市場環境下では、魅力的な投資先となっています。

図1:新興国ESGラベル付債券のタイプ別発行額(単位:10億米ドル、各年上半期データ)

出所:Pictet Asset Management, Bloomberg(2015年1月1日~2022年6月30日)

説明責任と透明性の確保

長期的には、ESGラベル付き債券市場の成長は持続可能な社会への移行を促し、ソブリン債券のファンダメンタルズの改善につながると考えます。

しかしながら、全てのESG債券が同じ特徴を持つとは限らず、投資には厳格な管理が必要です。ピクテは投資家として、新興国発行体と積極的に連携し、新興国投資家連盟(Emerging Markets Investors Alliance・EMIA)によって公表されている強化版原則(EMIA原則)への賛同と、EMIA原則に準ずるESGラベル付き債券の発行を促進しています。

ESGラベル付き債券を発行するための強固なフレームワークを構築することは、結果的にESG債券が発行できなかった場合でも、政府(または発行体)の政策の優先順位や改革目標をよりよく理解することを可能とします。

発行体が説明責任を果たし、情報公開の透明性を向上させることは、投資の好循環を生み出すことにつながると考えています。また、第三者によるモニタリングを参考にすることは非常に重要ですが、現時点では、ESG債券発行のフレームワークとそれに基づき債券を発行している発行体の信頼性を投資家自身で評価することも必要とされています。

ESG社債投資の優先課題

データをさらに掘り下げると、発行体の中でも新興国の企業部門はより広範にESGラベル付き債券の恩恵を受けています。今年上半期の新興国企業によるESGラベル付き債券発行額は約560億米ドルに到達し、前年同期比で約40%増加しました。

ESG債券の発行は金融やエネルギーセクターに集中していますが(発行額全体の54%、7%を占める)、資本財、公益、一般消費財などのセクターにもこのトレンドは広がっています。

直近2年間でESG債券の発行が急増した結果、JPモルガン新興市場社債インデックス(CEMBI)の約7.5%をESG債券が占め ています。セクターや発行体によって大きく異なりますが、投資ユニバースが拡大した結果、一般的には「グリーニアム」の縮小がみられています。 韓国の公益セクターや中国の金融セクターなど、ESG債券の供給が増加しているセクターでは、「グリーニアム」は相対的に低い水準にあります。一方で、インドネシアのグリーン・スクーク債(イスラム債)のように、投資の選択肢が限られているセクターでは、「グリーニアム」は拡大しており、今後も継続的に拡大する可能性があります。

チリの事例

チリはESGソブリン債券市場のリーダーとして、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドを先んじて発行しています。チリは持続可能な社会への移行を目標とする発行体の一例であり、炭素排出量の削減を戦略的目標として掲げていることや、パンデミックによって顕在化した社会課題の解決が急務となっていることから、今後もサステナビリティを重視する姿勢は維持されると思われます。

また、チリのESG債券はドル建てやユーロ建てで発行されるほか、現地通貨建てでも発行されていることが特徴です。現地通貨建てのESG債券市場は今後成長していく可能性のある分野の一つだと考えています。

ソブリン債の発行額が前年比で若干の減少にとどまる中、国際機関債の発行額は大幅に減少しました。昨年パンデミックによる社会経済への打撃を緩和させる施策のために、債券が大量に発行されましたが、ワクチン接種が進んだことにより、施策に充てる資金の需要が低下し、国際機関債の発行は減少しました。

このような傾向はESGラベル付き債券市場にも表れています。ソーシャルリンク債の発行は2021年に比べて急減している一方で、企業による発行が活発なグリーンボンドの発行額は12%近く増加し、サステナビリティボンドは40%増加しました。これは、熱波や山火事などの異常気象による被害の続発により、世界中で気候変動や環境保護が最重要課題として注目されていることが背景にあります。

新興国におけるESGラベル付き債券市場は継続的に成長すると予想しています。ピクテと国際金融協会の調査によると、新興国におけるESGラベル付き債券の年間発行額は2023年までに3600億米ドルに到達する可能性があるとされています。これは新興国経済が2030年までに、国連の持続可能な開発目標を達成するために必要な資金をより多く集めることにつながります。

ESG債券市場の活発化は新興国の発展と持続可能性の向上を促進するため、新興国経済と投資家の両者にとって朗報と言えるでしょう。


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