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2022年のプライベートエクイティ市場ー利回りの上昇はパフォーマンスを悪化させるのか
2022/08/16

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概要

プライベートエクイティ市場を取り巻く環境とその見通しについてピクテが考察します。



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プライベートエクイティ市場は順調に成長、ベンチャーキャピタルには減速の兆候

Burgissは7月中旬に2022年第1四半期のプライベート・エクイティ(バイアウトファンドとベンチャーキャピタル)の時間加重収益率(TWR)を発表しました。プライベート・エクイティのパフォーマンス・データは、通常公開株式のデータより3~4ヶ月遅れて入手可能となりますが、最新のTWRは第2四半期のプライベートアセットのパフォーマンスを測定するために利用可能です。

第1四半期のプライベート・エクイティのリターンはほぼ横ばいでしたが、ベンチャーキャピタル(VC)のリターンは悪化(-2.7%)し、少々足を引っ張るような形となりました。期待を下回る結果ではありますが、その一方で、VCは2020年に56%(米ドル建て)、2021年に47%と傑出したリターンを提供しています。

図1:セクター別 全世界VCのディール総額(10億米ドル)

出所:PWM-CIO Office & Macro Research, Pitchbook(2022年6月30日時点)

Pitchbookデータベースは、2022年6月末までのディールフローに関する情報を提供しています。興味深いことに、2021年上半期の3320億ドルに対し、2022年上半期のVC取引は2900億ドルと非常に活発に行われ、2018年上半期と2019年上半期の約2倍の金額となっています。このような結果は、2022年第2四半期にVCのリターンの源泉である企業のイノベーションが抑制されたにもかかわらず、投資家が一定のペースでVCへの投資を継続していることを示しています。しかしながら、イノベーションの波は勢いを失いつつあり、VCのリターン創出に大きな困難を与えています。利回りが上昇し始めた2022年上半期に、ナスダック100(VCと同様にイノベーションに大きく依存している)が約30%下落したことは、VCもまた第2四半期に同様の下落圧力に晒されたであろうことを示唆しています。

図2:米国ベンチャーキャピタルとナスダック100の高い相関性

出所:PWM-CIO Office & Macro Research, Factset, Burgiss(2022年6月30日時点)

プライベートアセットも景気循環に左右されやすい

伝統的資産と同様、プライベートアセットは好況時に優れたパフォーマンスを提供し、不況時にはパフォーマンスが悪化する傾向があります。ピクテが長期的にモニタリングしているプライベートアセットも、景気後退期にはマイナス、それ以外の期間にはプラスのリターンを記録していますが、伝統的資産と大きく異なる点もみられています。全世界プライベートエクイティ(Global Private Equity)の場合、不況期の年率平均四半期リターンは-5.3%であり、不況期以外では同+19%という突出した結果を残しています。

図3:景気後退期とその他期間におけるプライベートアセットの年率平均リターン(1980年~2022年)

出所:PWM-CIO Office & Macro Research, Burgiss(2022年3月31日時点)

上場株式の下落時に、プライベート・エクイティはどのようなパフォーマンスを見せるのか

S&P500と米国および世界のバイアウトの四半期ごとのパフォーマンスを比較して分析すると、プライベートエクイティは一般的な株式指数よりも市場のストレス時にドローダウンが小さい傾向にあることが示唆されています。

図4:株式市場の下落局面におけるS&P500 VS. 米国と世界のバイアウト投資パフォーマンス(四半期)

出所:PWM-CIO Office & Macro Research, Pitchbook(2022年3月31日時点)

2001年のITバブル崩壊時と、2008年から2009年の世界金融危機時における実績ベータとドローダウンレシオに基づき、2022年上半期のパフォーマンスを予想しました。S&P 500の-20%の下落に対し、米国のバイアウトは-10%から-14%の下落に留まり、MSCI AC Worldの-20.3%の下落に対し、世界のバイアウトは-9.5%から-12%の下落に留まると予想されます。また、同期間中、米国と世界のVCの下落幅は-12%から-20%程度になると考えられます(ナスダック100は-29%下落)。

利回りとバイアウトの関連性

プライベートエクイティ資産の半分以上を占めるバイアウトは、企業買収の資金を調達するためにレバレッジを使用することがあります。財務レバレッジの使用は、プライベートエクイティのリターンが上場株式を大幅に上回ることを可能にする最も重要な要因です。バイアウト投資の資金に占める債務(借入金)の割合は、過去20年間で44%から60%の間で推移しており、中央値は52%でした。2021年のプライベート・エクイティの資金調達に占める債務の割合は歴史的に低い水準の44%となり、2022年には50%まで上昇しました。

図5:バイアウト資金調達コストー米国変動金利加重平均(2010年~2022年)

出所:PWM-CIO Office & Macro Research, Pitchbook(2022年6月30日時点)

バイアウト投資のための融資は、定期的に金利水準が見直される変動金利を採用している場合が多く、Pitchbookのデータによると、2010年以降の平均金利は6%前後と相対的に安定しています。この金利と米国のハイイールド債券の利回りは正の相関にありますが、相関性は低く、融資金利はより安定している傾向にあります(図6)。直近の米国債券の利回り上昇により、米国バイアウト投資の融資金利は、現在の6%をやや上回る長期平均の6.3%前後に回帰する可能性があります。このように、今までほど低利の恩恵に預かれるわけではないものの、市場金利の上昇がバイアウト投資の環境を根本的に悪化させるとは考えにくいでしょう。これは債務の返済満期を2023年末に予定しているファンドの中で、2016年から2018年のヴィンテージ年(プライベートエクイティファンドが初期投資を行う年)のファンドが大きな割合を占めていることが主な要因となっています。

図6:変動金利加重平均 VS. 米国ハイイールド債券最終利回り

出所:PWM-CIO Office & Macro Research, Pitchbook(2022年6月30日時点)

バリュエーション:上場市場とプライベート市場を比較

2005年以降、プライベート・エクイティのバリュエーションは上場株式より高い水準で推移しています。しかしながら、パンデミック時とその後に上場株式のバリュエーションが急上昇したのに対し、プライベート・エクイティのバリュエーションはほぼ横ばいに推移しています。2022年6月末時点で、全世界のプライベート・エクイティの「企業価値(EV)/EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)」倍率は12.7倍でした。プライベート・エクイティのバリュエーション・プレミアムが長期の中央値に回帰すると仮定した場合、この倍率は約5%低下することになります。より厳しいシナリオでは、バリュエーションが上場株式の水準に収束し、倍率は約12%低下すると考えられます。以上を踏まえると、2022年上半期の金融市場の下落を考慮した最も現実的なシナリオでは、プライベート・エクイティのバリュエーションは5~10%低下すると考えられます。米国のプライベートエクイティのバリュエーションは第2四半期に大きく上昇したため、今後は市場の変化を注視する必要があると思われます(ただし、新規案件の数が少ないため、このような懸念は限定的)。

図7:上場株式とプライベートエクイティのEV/EBIDA

出所:PWM-CIO&MR, Pitchbook(2022年6月30日時点)

結論

バイアウトは通常企業買収の資金を一部借り入れ、投資を行います。長期ソブリン債券の利回りが低水準であることが多かった中、バイアウトの融資金利は相対的に高い水準で推移してきました。従って、直近の資金調達コストの上昇は、バイアウトのパフォーマンスにポジティブな影響は与えられませんが、プライベートエクイティの投資環境を急速に悪化させるゲームチェンジャーでもないと考えます。

上場株式市場において、セルオフ(大量の売り)が進んだことで、プライベート・エクイティの第2四半期(9月末に発表予定)のリターンは低調になると予想されます。その中でもVCが-12%から-15%と最も苦戦し、バイアウトは-10%の損失を計上する可能性があります。これらの予測値は、過去の上場株式のドローダウンのデータと、バリュエーション低下のシミュレーションを組み合わせた分析を基に算出されています。

プライベートエクイティへの投資は、長期的な視点を持つことが必要とされています。プライベートエクイティは投資家に傑出したリターンをもたらしており、今後リターンが多少低下することが予想されるものの、(特に長期的には)上場株式から得られるリターンを上回り続けると考えられます。今後10年間でプライベートエクイティとベンチャーキャピタルは、それぞれ平均9.2%(米ドル換算)の年間リターンを創出すると試算されています。10年前に期待されていたような年間15%のリターンを達成することは現実的ではない一方、MSCI AC World指数に対して+3%のプレミアムを提供する可能性は高いと思われます。


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