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極端な米ドル高の進行
2022/10/18

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概要

米国とその他主要国の経済動向や金融政策動向を踏まえ、米ドルの見通しについてピクテが考察します。



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米ドルの上昇ペースが加速

ここ数週間、米ドルは上昇し続けており、歴史的にも米ドルは過大評価されているとみられています。強い回復力を持つ経済と米連邦準備理事会(FRB)の積極的な金融引き締め姿勢は、米ドルの支えとなっています。さらに、FRBによる金融引き締めはリスク資産に重くのしかかり、代わりに安全資産であり、高利回りを提供する米ドルへの需要が高まっています。米国のインフレ率が高止まりし、労働市場の逼迫が続く限り、FRBはタカ派的な姿勢を維持し、ドル高傾向は続くと思われます。また、米国金融市場の安定性に対する懸念がFRBを慎重にさせる可能性はありますが、このような懸念は短期的にドル高をさらに進行させる要因にもなり得るでしょう。

図1:米ドル指数と200日移動平均線とのスプレッド推移

出所:Pictet WM CIO Office & Macro Research Refinitiv(2022年10月3日時点)

米ドルの短期見通し:引き続き堅調に推移

FRBが金融引き締めのペースを落とした場合、ドルの上昇圧力は軽減されると思われますが、他国の景気悪化による通貨の下落は、ドル高につながる可能性があります。過去には、過度なドル高を是正するために中央銀行が協調介入を実施したことがあります。ドル高は今後一定期間継続すると考えられますが、米国のインフレ率が高止まりしている限り、米当局の為替介入意欲は限定的となり、今後数カ月に為替介入が実施される可能性は低いと思われます。米国インフレ率の急低下や通貨流動性の大幅な低下などがみられた場合、協調介入は検討されるでしょう。

金融政策の乖離による円・人民元への打撃

金利差は為替を変動させる重要な要因の一つです。インフレ率が低く、中央銀行がハト派的な姿勢を維持している国の通貨は、大幅に下落しています。実際、日本の財務省は急激な円安を受け、為替介入(ドル売り・円買い)に踏み切りました。しかしながら、日銀のイールドカーブ・コントロールにより、長期金利は0%程度で推移しており、世界的に金利が上昇している中、このような為替介入による影響は限定的になると考えられます。

中国では、中国人民銀行(PBoC)が的を絞った金融緩和に取り組んでいることから、米国との金利差が拡大し、人民元も大きな打撃を受けています。直近数週間、PBoCは人民元の中心レートの日次微調整、一部の外国為替フォワード取引における準備金制度の再導入、口頭介入を通じて、人民元の対ドル下落圧力を緩和しようとしてきました。これらの措置により人民元の下落圧力はある程度緩和されますが、中国通貨がバスケットの構成通貨に対して安定して推移していることから、PBoCが米ドル/人民元レートの目標値を設定する可能性は低いでしょう。

しかしながら、今後円と人民元が上昇するカタリストが出現する可能性もあります。インフレ圧力が高まり、今後数週間で日本の経済活動が全面的に再開すれば、黒田東彦総裁が退任する来年4月には日銀が金融政策を見直す可能性があります。また、(経済活動を抑制している)中国の厳格なゼロコロナ政策が緩和されれば、中国経済の先行きへの懸念が軽減される可能性もあります。今後数カ月に政策が大きく変更されることはないと思われますが、来年3月の全国人民代表大会で政策への再評価が行われる可能性はあり、特に医療体制の強化がそれまでに進んでいれば、その可能性はさらに高まるでしょう。

エネルギー価格の高騰は、ユーロとポンド相場の重しとなる

しかしながら、中央銀行が利上げを実施している国でも、通貨は金融引き締めによる経済の脆弱性の高まりに晒されています。英国政府の財源の裏付けがない減税政策の発表による英国債利回りの急上昇は、金融市場の安定を脅かしています。イングランド銀行(BOE)による直近の国債買い入れは、長期国債の利回りの上昇圧力を緩和することになるでしょう。その一方で、BOEが市場の政策金利に対する期待に応えることは困難であると考えます。(政策金利2.25%に対し、市場のターミナルレート期待値は5.75%超、9月30日時点)。その結果、外貨資金需要の増加はポンド回復の重しとなり、海外投資家に対して英国債の魅力を維持することは非常に困難になるでしょう。

ポンドと同様に、ユーロもウクライナ紛争によるスタグフレーション懸念の高まりに見舞われています。予想を上回る欧州中央銀行の積極的な金融引き締め姿勢がかろうじてユーロを支えていますが、ユーロ圏経済は依然としてエネルギー価格の高騰と利回りの上昇に晒されています。経済協力開発機構(OECD)のレポートによると、ユーロ圏のエネルギー危機がこれ以上深刻化せず、冬を乗り切ることができれば、ユーロの下落圧力はある程度緩和されるでしょう。しかしながら、エネルギー輸入価格の高騰がこの冬以降の経済活動にどのような影響を及ぼすかはまだ明らかになっていません。

ユーロ圏において利回りの上昇は、その他の悪影響をもたらす可能性もあります。特に、イタリアのような債務問題を抱える国にとって、借入コストの上昇は大きな課題となるでしょう。ECBの伝達保護措置(TPI)は信頼性の高いバックストップ政策となるはずですが、この新しい政策は金融市場が大きなストレスに直面している場合にのみ導入される可能性が高いため、ユーロがさらに大幅に下落しない限り発動されないと思われます。

米ドルの短期見通し

米ドルは現在極めて割高な水準となっており、米ドルの下落につながるカタリストはいずれ出現すると考えていますが(FRBによる金融引き締めの終了等)、今後2ヶ月間で米ドルが大幅に下落する可能性は低いでしょう。直近のユーロ/米ドルレートは、0.97米ドル前後で推移していますが、極めて短期的な時間軸で投資を行っている投資家が米ドルを売却するには時期尚早である可能性が高いと考えています。


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