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マイケル・グロナガー氏が仮想通貨業界の基盤作りに取り組む理由
2022/10/19

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概要

ブロックチェーン・データ・プラットフォームを提供するブロックチェーン分析企業、チェイナリシス社の共同最高経営責任者、マイケル・グロナガー氏は、同社の急成長を維持するため、プライベート市場から多額の資金を調達しています。



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2014年は、グロナガー氏にとって転機の年でした。同氏は、その数年前から仮想通貨の可能性に注目しており、2011年には、今では世界最大級の暗号資産取引所に成長したクラーケンを、ジェシー・パウエル氏が設立するのを助けています。ところが、2014年2月に起こった事件が、仮想通貨業界に急速な連鎖反応を引き起こしました。東京を拠点とし、当時は世界最大級のビットコイン交換所だったマウントゴックスが、セキュリティー侵害により数十万ビットコインが「消失した」として、破産申請を行ったからです。事態の進展を驚愕の念で眺めていたというグロナガー氏は、「法執行機関を含む誰もが、『ビットコインはインターネット上の魔法のお金であり、消えてしまったというのなら、消えてしまったのだろう。どこにあるかなんて分かるはずがない。』と感じていたはずです。」と述べています。

グロナガー氏は、マウントゴックス事件に対するこうした反応を、「ばかげていると感じていた。」と言い、「かつてないほど透明な金融システム内で起こったことなのに、ビットコインがどこに消えたのかが誰にも分からなかったなんてどうしても理解出来ませんでした。」と述べています。デンマーク工科大学で量子力学の博士号を取得し、スウェーデンのリンショーピン大学構内にあるスウェーデン国立スーパーコンピューター・センターの理事を務めたこともあるグロナガー氏は、ビッグデータの能力を熟知していたからです。同氏は、何十億件もの取引に目を通すことが出来たなら、取引パターンを特定でき、そうしたパターンから取引者間の仮想通貨の流れが把握出来たはずだ、ということを理解していました。「何十億件の取引ではなく、百万人のユーザー、いくつかの大きなサービス、個人のウォレット、時系列の資金の流れがあれば、そういう状況が見方を変えるのです。突然、資金の流れに何が起こっているかが理解出来、仮想通貨業界の地図が入手出来るからです。」

「突然、何が起こっているか理解出来、仮想通貨業界の地図が入手できるのです。」

こうした考えは、2014年末にグロナガー氏が設立したチェイナリシス社の創業当時の中核概念でした。当時の仮想通貨交換所はいずれも小規模な新興企業で、人材も限られていたため、同社の初期の顧客は、法執行機関でした。法執行機関は、仮想通貨がマネーロンダリング等の違法活動に悪用されていることは概ね理解していながら、それでも仮想通貨を理解不能な「魔法のインターネット・マネーである」と見なすこともよくありました。こうした顧客がチェイナリシスのソフトウェアに飛びついたのは、それが、ブロックチェーン上の行動や取引きを正確に監視し、追跡する手段を提供するものだったからです。

現在、チェイナリシスの顧客には、仮想通貨交換所、政府機関、金融機関、保険会社、サイバーセキュリティ会社等が名を連ねています。また、顧客が増え、データ量が増すにつれて、同社の製品も改良されています。グロナガー氏は、「弊社の製品は機械学習に基づいたものですが、顧客との長年の協働を通じて、アルゴリズムは極めて精度の高いものに改良されております。ですから、優れた世界地図を作ることが出来るのです。」と説明しています。 

グロナガー氏は、チェイナリシス社の使命は、仮想通貨業界に信用と信頼を築くことであると考えています。2010年代半ばには、金融機関や各国政府が、明らかに正体不明で、犯罪組織がセキュリティー侵害を起こしそうなシステムに、いとも簡単に怯えてしまうのを目の当たりにしたからです。仮想通貨には最初から透明性が組み込まれていたのに、チェイナリシスより前に、真の意味でこれを活用した人はいなかったのです。新しいデジタル経済が繁栄するには、信頼が不可欠です。「私は、『これは業界の発展をどのように促すのか、とか、誰もがリスクを軽減しつつ、これまで以上に自由に取引出来るような世界を構築するには、これをどう導入したらよいか』ということを常に考えています。」とグロナガー氏は述べています。チェイナリシス社は急成長を続けており、社員数は毎年倍増しています。社員数は、現在、600人ですが、グロナガー氏は、2022年末までに更に500人の入社を見込んでいるようです。また、成長を加速するため相当額の投資を行っており、2020年11月以降、3回の増資を通じて、それぞれ1億米ドルを調達しています。2021年6月の直近の資金調達で同社の時価総額は40億ドルに達し、余剰資金の多くは「グローバル市場進出戦略」に充てられています。「弊社は世界中に顧客を抱えており、多くの拠点を持つ必要があるのです。また、グローバル規模で製品を販売するには、『グローバル市場進出戦略』に沿った多額の投資が必要です」とグロナガー氏は述べています。  

チェイナリシス社とブロックチェーン分析業界が急成長を遂げているとはいえ、グロナガー氏は、世間や投資家の多くは仮想通貨業界に対する完全な理解を欠いていると感じており、「これは、メガトレンドでありながら、必ずしも、誰もが認識しているトレンドではありません。公開市場には、仮想通貨が一時的な流行りに過ぎないと考える投資家がいるべきではないし、そういう状況は好ましくありません。」と述べています。

猛烈なスピードで成長を続ける一方で、新規株式公開(IPO)に向けての準備を進めることが極めて困難であることに加え、仮想通貨に対する世間の理解が十分ではないという事実が、チェイナリシスがこれまでプライベート市場から資金調達を行ってきた主な理由です。「現在のところ、弊社のビジョンを理解し、評価出来る投資家には、公開市場よりも非公開市場でアクセスする方が容易なのです。」とグロナガー氏は述べています。同氏は、将来、いずれかの時点で状況が反転し、公開市場が仮想通貨への理解を深め投資意欲を増すことを確信していますが、投資についての議論は、今のところ圧倒的に非公開市場で行われています。

「これは、メガトレンドでありながら、必ずしも、誰もが認識しているメガトレンドではありません。」

グロナガー氏の自信は、ブロックチェーン技術の変革力に対する揺るぎない信念の上に築かれています。同氏は、非代替性トークン(NFT)が希少性を生み出し、デジタル・アートの領域で価値の概念を覆した手法に触れて、「ブロックチェーン技術は、価値に関連するあらゆるものを変えていくと思います」と述べています。「インターネットが登場した時と同じ規模のトレンドが形成されています。何かを理解したと思っても、その10年後には、それが全く別物だったことに気付くことになるのですが、それは新しいトレンドが形を変え続け、桁違いの規模に拡大しているからです。」

グロナガー氏の見方が正しいならば、チェイナリシス社はそうした状況の恩恵を十分に享受する態勢を整えています。同氏は、仮想通貨業界にB2C型(企業と一般消費者間の取引き)の企業が現れ、一時的に注目を浴びる可能性を認識していますが、そんなことは全く気に掛けてはいません。「弊社はどんな企業とも協力していくつもりです。業界の基礎を構築することは有意義な仕事であり、私達は、基本的に、成長産業の基盤を築いているからです。」

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