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プライベート・マーケット:テクノロジーセクターの魅力は健在
2022/10/26

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概要

テクノロジーセクターは現在好ましい投資先ではないと考えられているかもしれませんが、成長を支える環境は整っており、特にプライベートマーケットでは、投資家に魅力的な投資機会を提供できると思われます。



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インフレ率の上昇、金利の引き上げ、経済成長の鈍化など、マクロ経済環境が非常に厳しい中で、テクノロジー企業のバリュエーションはピーク時から急落しています。9月末現在、ナスダック指数が年初来で34%の下落となっている一方で、BVPナスダック・エマージング・クラウド指数の下落幅は51%に及んでいます。年初来25%下落したS&P500と比較すると、ハイテク産業は世界的に最もパフォーマンスの悪いセクターの一つとなっています。

では、テクノロジーセクターの全盛期は過ぎ去ってしまったのでしょうか?決してそうではないとピクテは考えています。

まず、ハイテクセクターの企業は現在のバリュエーションが示唆するほど脆弱ではないと考えます。2021年に記録的な規模の資金調達が行われ、企業の手元資金は潤沢であるため、2000年代初頭のITバブル時のような、多くの企業が倒産する状況に追い込まれることはないと思われます。

さらに、ユニコーン企業(評価額10億ドル超の未公開企業)の年間売上高は、ITバブル期に上場した企業の売上高が平均で1,800万ドルに過ぎなかったのに対し、1億800万ドル程度となっています。言い換えると、現在のハイテク企業は、より健全な経営をしており、また、より多くの収益を上げているため、景気悪化などへの備えも万全だと言えます。また、ハイテク企業の創業チームはより高い能力を持つ人材から構成されるようになり、より多くの起業家が斬新なアイデアをもとに事業を立ち上げています。

テクノロジーセクターの成長を支える基盤が整っていることも重要な要素の一つです。

企業のイノベーションのペースはより加速しています。オンライン上で自由にアクセスできるツールが増加する中、テクノロジー関連の事業を立ち上げるのはかつてないほど容易になりました。デジタルエコシステムの基幹であるクラウドインフラ産業は、前年比約50%成長を遂げています。一方で、インターネットの利用も拡大し続けるでしょう。それに加えて、IoTはさらに進化し、5Gを含む次世代の無線技術は、情報通信を未知の領域へと導くと考えられています。

企業の ITへの投資額も引き続き堅調に推移すると思われます。コンサルティング会社のガートナー(Gartner)は、2023 年に企業のソフトウェアへの投資はさらに1000億ドル増加し、年間 9000 億ドルに達すると予想しています。近年、サイバー攻撃の件数の増加に伴い、企業や政府はこれまで以上に高度なサイバーセキュリティ対策を講じるためにセキュリティ関連予算を増やしています。

小売セクターでは、eコマースの市場も拡大し続けるでしょう。 小売業者は数年前までは考えられなかった方法で商品を直接顧客に販売することができるようになりました。世界のeコマース市場は今年5兆5500億米ドルに達し、小売市場全体の5分の1を占めると予想されています。小売業界のリーディングカンパニーであるアマゾンは、2時間ごとに100万個の荷物を配送しており、37万台以上のロボット(2017年の10万台から大幅に増加)を倉庫に配備しています。

非上場ハイテク企業の成長とイノベーションを支援するための投資資金が十分にあることも非常に重要です。米国のベンチャーキャピタルは2900億ドル以上のドライパウダー(投資待機資金)を抱えています(図1)。

図1:米国ベンチャーキャピタル ドライパウダー(投資待機資金)推移 (10億米ドル)

出所:PitchBook-NVCA Venture Monitor(2021年1月1日~2022年6月30日)

プライベートマーケットでの投資経験がある投資家にとって、ハイテクセクターは魅力的な投資先の一つです。

ハイテクセクターの中でも投資すべき企業を見極めることは非常に重要です。優良な企業とそうでない企業の差はさらに拡大し、投資先の選別に失敗する可能性もあるでしょう。しかしながら、過去の不況時にその時代の象徴となるようなテクノロジー企業の創業を目の当たりにした経験から、目の前の景気減速期でも同じようなことが起きると考えられます。

将来性のある企業を見極めるには、ビジネスモデルの持続可能性に注目する必要があります。事業成長のために低コストで資金を調達することがもはや難しい市場環境ですから、企業は大きな成果を上げるために必死に努力しなければなりません。金利が上昇し、投資家が「グロース」より「バリュー」を選好するようになったため、企業の収益性や、継続的に収益を生み出す能力がより厳しく評価されるようになりました。

また、投資リターンを安定的に得るため、ポートフォリオ構築上の工夫も非常に重要です。アーリーステージのベンチャーキャピタルからグロースキャピタル、バイアウト取引など、異なるステージの企業に投資することで、現在の市場環境におけるリスクを分散することができます。さらにファンドへの投資と企業への直接投資を組み合わせることで、大きな可能性を秘めた魅力的なリスク・リターンを持つポートフォリオを構築することができます。

投資を成功させるため、ファンドマネージャーの質も重視すべきです。単に企業に資金を提供するだけでなく、ハンズオンでの経営のサポートなどの様々なリソースや付加価値の高いサービスを企業に提供できるファンドマネージャーが好ましいでしょう。

採用、市場開拓、財務、取引先の紹介などの側面からサポートするために、ベンチャーキャピタルは各分野のプロフェッショナル人材を擁しています。プライベート・マーケットでの投資企業は、成長の初期段階にあることが多いため、育成する余地が十分にあり、投資の成功の可能性を高めることができます。

有力な投資セクター

テクノロジー業界では、特に以下の5つの分野が有力な投資先になり得ると考えます。

  • エンタープライズ向けソフトウェア – 多くの企業は業務プロセスの効率化、コスト削減、将来性を考慮したビジネスモデルの構築、さらには優秀な人材の確保を目的として、デジタル化を推進するインセンティブがあると考えます。このような変革において、ソフトウェアは重要な役割を担っています。
  • フィンテック – あらゆる金融サービス領域においてテクノロジーが進化し続けている中で、大手金融サービス業者以外のプレイヤーも金融業界に参入しつつあります。SaaS(Software as a Service)、またはBaaS(Banking as a Service)は金融サービスのバリューチェーンに大きな変革をもたらすことになるでしょう。
  • サイバーセキュリティ - サイバー犯罪は、複雑さ、発生件数、サイバー攻撃の被害規模において、急速に拡大しています。また、個人デバイスを使用して在宅で仕事をする人が増加しているため、サイバー攻撃を受けるリスクは高まっています。サイバーセキュリティは、今や企業のIT予算の中でもかなり大きな割合を占めており、データプライバシーも重要な成長分野の一つとなっています。
  • コンシューマー向けインターネットサービス - 新型コロナ・パンデミック時、人々は仕事、勉強、買い物、運動、娯楽などの活動をオンライン上で行うようになりました。このようなトレンドは、特にテクノロジーに精通した若い世代に浸透しており、若年層の消費者の経済力が増していく中で、このセクターは今後も大きく成長すると思われます。
  • インダストリー4.0 – 製造業では、ソフトウェア産業においてもハードウェア産業においても、新しいテクノロジーの導入を積極的に進めています。例えば、オートメーションは、物流や梱包を含む製造やサプライチェーンのプロセス全体、さらには建物や道具の設計に活用されています。

この5つのハイテクセクターは、成長の初期段階にあるものの、現在多くの投資資金と人材の注目を集めているブロックチェーン技術の発展からさらなる恩恵を受けると考えています。

これらのセクターは、プライベート・マーケットの投資家に豊富な投資機会と非常に魅力的なリスク調整後リターンを提供する可能性があるでしょう。


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