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米金融当局の引き締め終了はまだ先か
2022/11/02

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概要

米国経済と金融政策の見通しをピクテが考察します。



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政治圧力が高まり(パウエル議長宛ての民主党上院議員による書簡の公開など)、一部の経済先行指標も悪化している中、米連邦準備制度理事会(FRB)は引き続きインフレ対策を優先し、今週の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決定すると考えられています。米国債市場への流動性懸念は高まっていますが、FRBは金利をさらに75bps引き上げ、量的引き締めによるバランスシートの縮小も現在のペースを維持すると思われます。

コアCPIは依然としてFRBが最も重視している指標の一つであると言えるでしょう。FRBの課題となっているのは、9月のコアインフレ率が6.6%と高水準であり(ヘッドラインインフレ率は8.2%)、インフレの強い粘着性を示唆していることです。

インフレ指標以外では、雇用者数の堅調な増加もFRBの注目を引いています。一部の先行指標から2023年の失業率は上昇すると予測されていますが、9月の失業率は3.5%と非常に低い水準でした。

頑強なインフレ期待もFRBの大きな懸念の一つです。ミシガン大学が10月に発表した1年先のインフレ期待は5%の高水準となっており、FRBは1970年代のようにインフレが定着してしまうことを懸念しています。これはパウエル議長が金融引き締めを現時点で終了させる可能性が低いと考える理由の一つとなっています。

米国住宅市場の急激な悪化がFRBの議論の中心となることはないと考えます。FRBの中では、新型コロナ後の住宅市場には多少の落ち込みが必要だと考えているメンバーもいるからです。また、住宅市場の減速は、物価上昇の主因の一つである賃料インフレを沈静化する効果が期待できます。

金融市場は2023年5月までにFF金利が4.95%でピークに達すると予想しており、FRBが9月に示した4.6%のターミナルレートを大きく上回っています。FRBによる最新の金利見通しは12月14日の連邦公開市場委員会で発表されます。

FRBが近々金融引き締めを終了させる可能性は低いと考えます。利上げペースの鈍化が示唆される可能性はあるものの、直近のインフレデータに影響され、それ以上の金融政策スタンスの変更は考えにくいでしょう。しかしながら、特に債務状況が悪化し、流動性が低下する環境下で、政策ミスのリスク(「引き締めすぎ」のリスク)は高まると思われます。注視すべきリスクは、住宅市場がFRBの予想以上に住宅ローン金利の急上昇の打撃を受け、経済全体にその影響が波及することです。その一方で、住宅ローン市場が2008年のような世界的な金融危機を再び引き起こす可能性は低いと考えます。ここ数ヵ月に急速な金融引き締めが行われた上、さらなる利上げが見込まれているため、FRBが経済を2023年にソフトランディング(軟着陸)させることはより困難になっていると考えています。


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