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未来の医薬品発見・開発工場を建設するバイオテクノロジー企業
2022/12/12

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概要

エイコン・セラピューティクス社の画期的な技術を駆使した研究は、過去にノーベル賞の受賞につながっています。現在、最高経営責任者(CEO)を務めるロジャー・パールマッター氏は、同社がその潜在能力を最大限に発揮出来る態勢を整えるという責務を担っています。



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パールマッター氏は、100年前に開発された蛍光顕微鏡技術を使って細胞の活動をリアルタイムで観察するという注目すべき新プロジェクトについて知った日のことを正確に覚えています。それは、2012年、米国バージニア州のハワード・ヒューズ医学研究所に、画期的な研究を行っていた物理学者エリック・ベッツィグ氏を訪ねた日のことでした。「見たことのない、素晴らしい研究だと思いました。細胞の行動について私達が知っていることは、ほぼすべてが、冷凍標本または固定標本の静止画像を見ることから学んだことですが、ベッツィグ氏の研究は、生体細胞が活動する様子を見ることが出来るようになるだろうという期待を抱かせるものでした」。

ベッツィグ氏の研究が広い分野に及ぼし得る影響を、その時点で、すぐに、はっきりと理解したわけではありませんが、同氏の研究が大きな可能性を秘めていることを、パールマッター氏は確信しました。「細胞の研究に新しい技術を導入することで、これまでは測定不可能だったことが定量的に測定出来るようになれば、必然的に生物学について多くのことが学べるからです」。

パールマッター氏の直感は正しかったことが証明されました。その2年後、エリック・ベッツィグ氏とウィリアム・モーナー氏は、研究の成果が認められ、ノーベル化学賞を共同受賞したからです。スウェーデン王立科学アカデミーは、受賞理由として、研究チームが、「個々の分子の蛍光発光を点滅させる方法を解明することで、既存の光学顕微鏡の限界を『独創的な手法で回避』し、極めて詳細な超高解像度画像を実現しただけでなく、画期的な研究によって光学顕微鏡をナノ次元に到達させた」と述べています。一方、この技術を創薬に応用するための研究の先頭を切るエイコン・セラピューティクス社は、「今まで見えなかったものが見えるようになったのです」と説明しています。

エリック・ベッツィグが、2019年に、ロバート・チアン、ルーク・レイヴィス、ザヴィエ・ダルザックと共同設立したエイコン・セラピューティクス社は、当初は科学者と研究者が運営する小規模な新興企業でしたが、2021年に、パールマッター氏がCEOとして加わったことが飛躍のきっかけとなりました。かつて、製薬大手メルクで研究開発部門を率いていた同氏は、この研究が科学的に重要な意味を持っていることを理解し、「この研究は、すべてを一変させました。率直に言って、生物学的プロセスに対する私達の見方を一変させたのです」と述べています。パールマッター氏は、この研究が、医薬品開発分野で商業ベースに乗せられることを証明したいと考えました。同氏にとっては、「バイオ医薬品業界で長い年月を研究に費やしたことが役に立つかもしれないと思える、極めて重要な技術でした。ですから、そのことを目標に掲げたのですが、間もなく、超解像顕微鏡が医薬品開発に極めて大きな貢献をする可能性があることが明らかになったのです」。

                                                                                                                                     

                                                                                                                                                                       

パールマッター氏は、科学者やエンジニアが仕事に集中できるよう、数年間、万全の体制を整えておきたいと考えました。「科学者にとってもエンジニアにとっても、平和で静かな環境が大切なのです。ここでは、考えることに多くの時間が必要ですから、2ヵ月ごとに投資家向け説明会に出掛けなくて済むよう、十分な資金を準備したいと思いました」。

そうした状況を可能にするためには、プライベート・エクイティ・ファンドの資金が不可欠でしたが、普通の投資家だったら誰でもいいというわけにはいきませんでした。エイコン・セラピューティクスは、チームの研究に長期的な価値を見出し、投資の回収を待つ余力のある投資家を必要としていたからです。

「医薬品の発見や開発には、通常10年から15年という長い時間がかかりますから、『忍耐強い資本』が調達出来なければ、新しい研究を行うことは、基本的に、不可能です」が、幸いなことに同社は、間もなくプライベート・エクイティ・ファンドの支援を得ることが出来ました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

「私達の研究には説得力がありますから、研究について説明する機会さえ得られれば、資金を提供したいという投資家は大勢いたのです」。実際に資金調達は簡単でした。「ロボット工学、高性能コンピューティング、高度なデータ解析等を統合して、エイコンは未来の『医薬品開発工場』を作り上げたのです」。

エイコン・セラピューティクスの研究の現実的な応用例として、特定のがんを治療する方法の改善が挙げられます。例えば、乳がん患者は、現在の治療法では、エストロゲンの働きを阻害する薬を服用しますが、エストロゲンは、骨量、代謝能力、心臓病の予防等に不可欠のホルモンである一方で、特定のがん細胞の成長を促進することがあります。細胞に存在する個々のタンパク質分子の行動と反応をマッピングすることで、製薬会社は、初めて、エストロゲン作用をより選択的に阻害する、従来以上に洗練された薬剤を開発することが可能になるはずです。「こうした情報伝達プロセスは、すべてリアルタイムで見ることが出来ますが、とても印象的です。」

パールマッター氏は、創薬以外の分野にもエイコン・セラピューティクスの技術が応用されることを願っています。作物の収穫量や病虫害抵抗性の改善に関心があれば、同社のツールを植物生化学に応用することも可能です。「弊社のツールが光を当てるものは、ほぼすべてが、思いもよらなかった新しい何かを見出します。」

パールマッター氏は、「科学者が様々な分野でこうしたツールを使えるような態勢を整えるべきだと考えており、使い易いツール作りを支援する」ことに意欲的です。将来、同社の研究成果やツールが、現時点では想像出来ないような使われ方をする可能性があることを、彼は嬉々として認め、そういう状況こそがエイコンの魅力であり、力なのだと述べています。一例として見せてくれたのは、同氏のオフィスの外に設置され、顕微鏡が作り出した映像を映している、何台かの大きなスクリーンです。「オフィスの外に出るたびに、ほとんど毎日、何かびっくりするようなものが映し出されています。弊社のツールが光を当てるものは、ほぼすべてが、思いもよらなかった新しい何かを見出します。スクリーン上には実に多くの発見がある」のです。

 

 

 

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