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分散効果と魅力的な利回りが期待できる新興国ソブリン債券
2023/09/26

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概要

・年初来現地通貨建て新興国ソブリン債券のパフォーマンスは利回りが低下したことや、一部の新興国通貨が上昇したことなどを背景にプラスリターンとなりました。
・現地通貨建て新興国ソブリン債券の利回りは依然として長期平均を上回っており、年末にかけて一部の地域の中央銀行が利下げに転じると期待されているため、利回りがさらに低下する余地は十分にあると考えます。
・米国の経済成長が鈍化する一方で、新興国経済は強固な成長を見せると予想されており、現地通貨建て新興国ソブリン債券市場の下支えとなることが期待されます。



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年初来良好なパフォーマンス

現地通貨建ての新興国ソブリン債券は、利回りが低下(価格は上昇)したことなどから、年初来+6.3%のパフォーマンスを記録しました(JPモルガンGBI-EMグローバル・ディバーシファイド指数、9月1日時点)。一部の新興国通貨(特にラテンアメリカ)の上昇により、米ドル換算の場合、パフォーマンスは年初来+7.7%となりました。一方で、ユーロ換算のパフォーマンスは現地通貨建てのパフォーマンスとほぼ同水準となりました。現地通貨建て新興国ソブリン債券のリターンがポジティブだったのに対し、先進国ソブリン債券のリターンはネガティブとなりました。

その中でも、ラテンアメリカソブリン債券が非常に良好なパフォーマンスを見せ、現地通貨ベースで9.7%、米ドル換算では20.6%(JPモルガンGBI-EMグローバル・ディバーシファイド指数、9月1日時点)を記録しました。ラテンアメリカは、中央銀行が2021年年初から利上げを開始し、インフレ率が大幅に低下したことで、ブラジルとチリの中央銀行はすでに利下げを開始しています(図1)。一方で、アジア圏の中央銀行は利上げ対してより慎重であったため、中国を除いて、多くの国が今年も利上げを継続しています。

図1:新興国中央銀行の政策金利

出所:Pictet Wealth Management, Refinitiv, 2023年9月1日時点

長期平均を上回る利回り水準

新興国ソブリン債券の利回りは年初来から低下しているものの9月4日時点の現地通貨建て新興国ソブリン債券利回り(6.4%、JPモルガンGBI-EMグローバル・ディバーシファイド指数)は2010年以降の長期平均を上回っています(図2)。ラテンアメリカの利回りが長期平均を上回る水準にある(コロンビア、ブラジル、メキシコでは約10%)ことから、インフレ率の鈍化を背景に利下げに転じる可能性や、チリやブラジルにおいてはすでに利下げを開始しており、今後も継続すると思われるため、債券利回りはさらに低下することが想定されます。

図2:新興国債券の足元の利回りとその長期平均

出所:Pictet Wealth Management, FactSet, 2023年9月5日時点

その一方で、アジア圏の中央銀行は、域内全体で総合インフレ率が低下している(中国やタイのインフレ率は約0%)ものの、下半期には政策金利を据え置く可能性が高いと考えています。インドは足元の経済活動が活発である上、7月には主に食料品価格の上昇によりインフレ率が再び7.4%まで上昇したことなどから、例外となり得るでしょう。しかしながら、コアインフレ率が引き続き低下傾向にあるため、インド準備銀行(RBI)は年内まで政策金利を6.50%に据え置くと考えられます。

アジア圏ソブリン債券利回りが長期平均水準で安定すると予想されている一方で、ラテンアメリカの利回りは低下するとみているため、現地通貨建て新興国債券の利回りは、足元の6.4%から年末にかけて低下していくと考えられます。ただし、中央銀行が市場織り込み済みの水準を超える大幅な利下げを実施した場合、利回りがさらに低下する可能性があります。

分散効果が期待される新興国ソブリン債券

パンデミック、ウクライナ戦争、高まる中国の地政学的リスクを背景に、マイクロチップから天然ガス、通貨などのあらゆるモノが「武器化」されています。グローバル化が最も進んでいた時期の欧米企業によるオフショアリングは、今ではリショアリングまたはフレンド・ショアリング(ある国が同盟国や友好国など近しい関係にある国に限定したサプライチェーンを構築すること)の道を辿っています。この「フレンド・ショアリング」から恩恵を受ける国には、インド、ASEAN加盟国、メキシコ、一部の中央ヨーロッパ諸国が含まれます。海外からの直接投資は、これらの新興国通貨の競争力を中期的に強化するとみています。

短期的には、中国経済の失速がアジア経済に波及効果をもたらし、今年においてはアジアの新興国通貨が米ドルに対して概ね下落していますが、米国の経済成長が鈍化する中、一部の新興国の経済成長が金融緩和への転換などを背景に、より強固な成長を見せた場合、より広範的な通貨に対して米ドル安が進行する可能性があります(図3)。

図 3:新興国通貨の対米ドルパフォーマンス

出所:Pictet Wealth Management, Refinitiv, 2023年9月4日時点

平均6%を上回る魅力的な利回り水準に加え、先進国ソブリン債券と低相関であること、新興国通貨が対米ドルで上昇する可能性などは、現地通貨建て新興国ソブリン債券の良好なパフォーマンスを支える要因となるでしょう(図4)。

図 4:新興国ソブリン債券指数利回りと新興国通貨指数

出所:Pictet Wealth Management, FactSet, Bloomberg Fi-nance, L.P., 2023年9月4日時点

 


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