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合成生物学によるサステナブルな材料の開発

合成生物学が世界を救う?

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自然界の「革新的なデザイン力」を活用し、新世代企業や大学からスピンアウトしたベンチャー企業が、あらゆる素材を再構築しようとしています。



絹でできた飛行機や、化学汚染物質を食べるように設計された微生物など、合成生物学(シンセティック・バイオロジー)の革命は研究室から現実の世界へと進みつつあります。

合成生物学とは、簡単に言えば、DNAの命令を変更することで細胞が特定の物質を作ったり、汚染物質浄化などの新しい能力を獲得することです。その命令は合成された人工的なものですが、細胞にとっては自然なものです。細胞自体は変更されず、ただ様々な物質を作る役割を与えられます。

インペリアル・カレッジ・ロンドンのバイオメディカル・システム・エンジニアリングの教授リチャード・キトニー氏は、「その背景には、効果的かつ迅速、かつ低コストでDNAを正確に配列し、合成DNAを書けるようになったことが挙げられます」と述べています。

代替素材を使ったファッションを展開するスタートアップ企業Bolt Threads社の創業者兼CEOのダン・ウィドマイアー氏によると、革新の成功は「生物学のメカニズムを観察して理解しようとするのではなく、エンジニアが機械を見るように生物の機能を使って別のことをする」という考え方の転換がもたらしたものと語ります。

今日、合成生物学は、材料、燃料、食品を作る全く新しい方法を提供することで、環境問題への取り組みに最も影響を与える可能性があります。

例えば、ファッション業界は、世界のGDPの約1〜1.5%を生み出す一方で実は環境への負荷が大きく、世界銀行によると、製品の焼却や埋め立ての割合が高いこの業界から排出される二酸化炭素(CO2)は、世界の約10%を占めています。また製造過程で発生する何百万トンものマイクロファイバーが海に流れ込み、食物連鎖に入り込んでいます。

Bolt Threads社は、合成生物学を用いて持続可能な素材を開発し、それにKering社、lululemon社、adidas社などの大手企業が独占的な権利を確保するために投資してきました。「Mylo」と呼ばれる新素材は、キノコを作る菌糸体を活用し、温度、CO2、空気の流れをコントロールすることで生まれた代替レザー製品です。

「完全に循環している物質経済の完璧な例、それは40億年の寿命を持つ地球と生物です」とウィドマイアー氏は言います。「生命はあらゆるものをリサイクルする素晴らしいメカニズムを進化させてきました」。彼はその例として、クモの糸を挙げています。それは天然のスーパー素材で、重量に対して鉄鋼の5倍から10倍の引張強さを持っています(図参照)。

Bolt Threads社は、クモの糸にヒントを得たタンパク質を開発しています。バイオ・エンジニアリングの技術を応用して、遺伝子を酵母に組み込み、発酵によってタンパク質を大量に生産します。 そうして得られたシルク・プロテインを精製して紡績し、繊維にします。絹に含まれる長い分子鎖は強度の源であり、ファッションのみならず様々な分野で活用されています。例えばAirbus社は、クモの糸を合成して飛行機を作り、機体の重量を大幅に減らすことによって、消費燃料が削減できるかどうかを検証しています。



農業・食品分野もまた、資源の消費量やCO2排出量が多い分野です。新興企業のBeyond Meat社、Impossible Foods社、Better Dairy社は、合成生物学の技術を用いて、従来の肉や乳製品に比べてわずかなCO2排出量と環境負荷で済む代替品を生産しています。

また、環境浄化のための微生物を開発している企業もあります。廃棄物処理を行うAllonia社は、多くの製品や製造プロセスに含まれ、分解されにくく、健康に悪影響を及ぼす可能性のある化学物質パーフルオロアルキル物質やポリフルオロアルキル物質(PFAS)を食べる微生物を開発しています。大手企業では、Bayer社やBASF社などがこれらのベンチャー企業との提携・買収により、化学・農業分野での生産量の維持と環境負荷の低減に取り組んでいます。

 

製造業としての性質と課題

現在、合成生物学をリードしている市場は、英国、米国、シンガポール、中国ですが、取り組みは世界的に行われています。1990年代半ばに合成生物学が始まって以来、この業界に携わってきたGingko Bioworks社の共同創業者トム・ナイト氏は、iGEM(International Genetically Engineered Machine)財団が技術革新の強力なエンジンになっていると言います。彼らが開催するシンセティック・バイオロジー・コンテストには、毎年世界中から何千ものエントリーがあります。イノベーションにとって競争が重要であり「合成生物学の分野で活躍している多くの人々が、このプログラムから生まれています」とナイト氏は言います。また、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」で示されている世界的な課題も、次世代の研究者の注目の的となっています。

現在、重要な目標となっているのは、材料の信頼性と再現性を高めることです。キトニー教授は、1960年代に信頼性の面で課題に直面していた半導体産業が、品質の均一化により問題を解決したこととの類似性を示し、合成生物学の分野でも、自動化と標準化を行い、製品の試作・実験・大量生産を可能にすれば、その目標の実現が期待できると言います。

楽観的な見方がある一方、この分野にも課題はあります。過去、新分野としてのバイオが期待を集めたものの、関心の高まりや社会普及には繋がりませんでした。例えば「バイオ燃料革命」が注目された2018年、世界の航空燃料消費量に占めるバイオ燃料の割合はわずか0.1%止まりでした。そこには、ベンチャー・キャピタルの時間的制約や、石油に対する価格競争力の欠如などの課題があったのです。シンセティック・バイオロジーのスタートアップ企業にも、このようなジレンマに見舞われる可能性がありますが、社会への貢献が認められることがモチベーションになるとBolt Threads社のウィドマイアー氏は言います。「この素材革命が成功すれば、経済全体が一変するでしょう。シリコンバレーを生み出し、世界を変えた半導体産業と同じように」。




エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)著

ザ・エコノミスト・ニュースペーパー・リミテッドの系列会社であるエコノミスト・グループの調査分析部門。1946年に設立されて以来、企業や金融機関、政府が絶え間なく変化する世界情勢に対応するための支援を行う。世界で最大かつ最も経験豊富なアナリストチームの1つであり、190人以上の専任の国別専門家、業界アナリスト、エコノミストを擁する。




本ページは2021年7月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。


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