新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、「健康」を大いに脅かすものでした。こうした脅威から私たちの生活を守る1つの鍵となるのは、適切にデザインされ、適切なサービスが受けられる都市の構築にあると考えます。

真のスマートシティでは、人々の「健康」も守り・促進される

自動化の活用や近未来的なデザインだけがスマートシティではありません。真のスマートシティは、そこに住まう人々の健康を守り、促進するものでなくてはなりません。こうしたことは、人々が多く集い「密」な都市部において特に深刻な問題となった、新型コロナウイルスの感染拡大でより意識されるものとなりました。

ある調査報告書によると、スマートシティでは、既存の都市に比べて疾病負荷を15%削減、また、温室効果ガスの発生を10%削減といった効果が期待できるとされています。

ピクテのスマートシティ・アドバイザリーボードでは、スマートシティでは、人々が病気にかかった時などに利用する医療サービスだけでなく、病気になる以前の健康状態にも配慮がなされているべきであると考えています。つまり、健康的な生活を促進する環境づくりが重要であるということです。このことは、都市計画策定者や規制当局にとって最優先課題であると同時に、事業者にとってはビジネスチャンス、投資家にとっては良好な投資機会となる可能性があるとみています。

※ピクテのスマートシティ・アドバイザリーボードとは？｜豊富な経験を有する社外のスマートシティに関する複数の専門家により構成されています。彼らからインプットされる情報は、ピクテ・スマートシティ株式運用チームの銘柄選別などに生かされています。

人々の健康を害する大気汚染をどう減らすか

大気汚染は大きな問題の1つです。都市生活者の80%以上が、国際保健機関（WHO）が定める基準値を超える汚染された空気にさらされているとみられています。特に低～中所得国でこうした問題は急速に深刻化しています。大気汚染は、病気の原因となりうるものであり、こうして引き起こされた病により、年間でおよそ420万人以上が死亡しているとの調査もあります。

この問題に対処するためには、心身一体的なアプローチが必要であると考えられます。公園や環境配慮型の建物など、汚染物質の排出を減らすだけでなく、エネルギー効率性も高く、さらには、建設プロジェクトの中で、植物を大いに活用することが必要です。

中国・深センにある51階建てのJian Muタワーでは、1万平方メートルにおよぶ空中農場を備える予定です。そこでは、サラダのための野菜から果物まで様々な農作物が栽培され、およそ4万人を持続的に養うことが可能な食糧生産ができるとされています。これらの農作物は年間20万キロの二酸化炭素を吸収することが可能であるとともに、ビルを覆うことでエネルギー効率を高め、エアコンの使用率を下げる効果も期待されています。

このほかに、大気汚染を低減させていく方法としては、ガソリン車の利用から、代替手段の使用を人々に奨励していくことが必要であると考えられます。例えば、既存の公共交通インフラをよりうまく活用することや、混雑状況を確認しながら閑散期に旅行すること（これは、コロナ禍で模索され、今後も続くであろうより柔軟性のある「働き方」という考え方が浸透したおかげ）を促すアプリの利用など、様々な方策が考えられます。欧州の在来路線は平均で35%程度の乗車率で運行されています。ラッシュ時にはこれ以上であると推定されますが、それ以外の時間帯ではもっとうまく活用されてよいはずです。

自転車やスクーターなどの小型移動手段の活用も、自動車の利用を削減するだけでなく、利用者の健康促進にもつながると考えられます。小型移動手段の市場は今後大きく拡大することが予想されます。

加えて、小型移動手段の利用が増えれば、小型移動手段が安全・快適に利用できる都市設計に加えて、セキュリティ性の高い駐輪スペースや充電ステーションなどのインフラ整備も進むことでしょう。

さらに求められる医療インフラ・サービスの進化

都市においては、様々な医療が提供され、それに人々が容易にアクセスできることが求められます。IT（情報技術）の活用によって、各種アプリを通じた診療・診断など遠隔医療が可能となっています。日常的な症状に対して電話やビデオ通話などを通じての診療サービスを提供するテラドック・ヘルス（米国）などを含む遠隔医療（テレヘルス）分野は著しく成長しています。

高齢者介護サービスについても、特に高齢化が進む都市では重要です。OECD加盟国では65歳以上の高齢者2億3,800万人のうち、約43%が都市部に居住していると推定されています。彼らがなんらかの介助が必要になっても、自分の家に住み続けることができるように支援していくことが、特に求められています。例えば、スイスの非営利団体SPITEXでは、高齢者の自宅で様々な介護・介助サービスを提供しています。また、ここでも情報技術を活用することで、高齢者がより健康でより長く自立した生活を送れるような手助けができるはずです。スイス・ローザンヌ大学のiHome Labでは、こうした問題を研究しています。例えば、非侵入型電力データ分析技術（NIALM（Non-Intrusive Appliance Load Monitoring）を用いて電化製品の使用状況をモニターしていくことで、自宅にいる高齢者の健康状態の変化やなんらかの助けが必要となっている可能性などを、いち早く検知していくプロジェクトを行っています。

都市においては、新たな感染症の世界的流行（パンデミック）に備えたインフラの構築も必要となっています。これらには、検疫期間中の滞在施設の準備や、医療施設などにおいては直ちにICU病床を増やせるよう、隔離病床や減圧設備などしっかり備えていくことなど、様々なことが含まれます。また、マスクなどの医療用品やワクチンなどを迅速に流通させるためのインフラも必要です。

スマートシティ関連企業の株式への投資で、「サステナビリティ」を後押し

国際連合（UN）の持続可能な開発目標（SDGs）のひとつである「持続可能な都市」では、人々の「健康」は重要な要素です。新型コロナウイルスの感染拡大は、このことを改めて認識させました。スマートシティ関連企業の株式に投資を行うことは、地球規模で求められる「持続可能性（サステナビリティ）」を促し、多くの革新的な技術を生み出すことに寄与するものとなるでしょう。