Article Title
中国恒大問題で世界的に株式市場が急落 今後の注目点は?
田中 純平
2021/09/21

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国の不動産開発大手の中国恒大集団のデフォルト・リスクが高まったことなどを受けて、20日の世界の株式市場ではハンセン指数(香港株)が前日比3.30%安となったほか、NYダウ指数(米国株)は同1.78%安、STOXX600(欧州株)も同1.67%安と世界同時株安の展開となった。中国恒大のデフォルト・リスクが高まった背景と今後の注目ポイントについて論点整理する。



Article Body Text

中国恒大のデフォルト・リスクが高まった理由

中国共産党の習近平総書記は、社会格差を解消することを目標とする「共同富裕」の実現に向けて、今年から相次いで規制強化を打ち出している。中国国民にとって過度な負担となっている不動産価格や教育費、医療費の高騰を示す「新三座大山(新たな3つの山)」を是正すべく、今年1月からは商業銀行に対して不動産融資の総量規制が導入されたほか、今年7月には営利目的の個別学習塾が禁止された(もともと「三座大山」は中国人民を苦しめた帝国主義、封建主義、官僚資本主義の3つの反動勢力を表したもの)。鄧小平は1980年代半ばに「先に豊かになれる者から豊かになれ」という「先富論」を提唱していたが、習近平総書記による「共同富裕」の実現に向けた動きは、 「先富論」時代の終焉とも捉えられている。

中国の不動産会社に対する規制強化は、不動産融資の総量規制が導入される前から実は始まっていた。昨年9月には不動産会社のレバレッジを制限する「三道紅線(3本のレッドライン)」と呼ばれる規制が開始され、これらの基準に抵触する不動産会社は債務を返済しない限り、銀行から新規の融資を得ることが困難になった。こうした中で、中国不動産バブルの波に乗って急成長した中国恒大集団(China Evergrande Group)は、前述した不動産融資の総量規制と相まって財務基盤や資金繰りが急速に悪化した。

状況を悪化させたのは、財務レバレッジを活用した不動産事業とそれ以外の事業に多角化を推し進めた経営スタイルだ。中国恒大は中国最大級の民間不動産会社で、中国国内で約20万人を直接雇用する。不動産以外にも中国サッカークラブの広州FCの運営母体であるほか、電気自動車開発やメディア、テーマパーク開発、食品・飲料水の販売も行う。この結果、同社の負債総額は今年6月末時点で1兆9700億元(約33.5兆円)にものぼり、資産売却が進まない場合はデフォルト(債務不履行)に陥るリスクがあると中国恒大は警告した。しかし、その資産売却は滞っている模様で、報道によれば中国住宅都市農村建設省は中国恒大の主要債権銀行に対して今月20日が期限の利払いを中国恒大が行わない見込みだと伝えた。また、同社にとって重要な資金調達手段であった資産運用(理財)商品については、満期を過ぎたものに関して現金の代わりに不動産資産の大幅値引きという形で返済する手続きを今月18日から開始した。

中国当局による救済はあるのか?

中国恒大のデフォルト・リスクについては以前からささやかれていたものの、これまでのところ中国当局の方針が明らかになっていないことから金融市場では動揺が広がっている。気になるのは中国共産党機関紙である人民日報の系列紙、環球時報の胡錫進編集長によるSNSの投稿だ。同氏は大き過ぎてつぶせない企業はないとし、中国恒大は市場で活用できる手段を用いて自社を救済すべきだと今月16日に論じている。真意は定かではないが、中国共産党の方針に沿ったメッセージである可能性は否定できない。

習近平総書記は「共同富裕」の実現に向けて不動産価格の抑制を優先(中国恒大のデフォルトを容認)すべきか、それとも中国国内のシステミック・リスクを防ぐ目的で救済すべきか、難しい舵取りが求められている。中国の金融システムは比較的閉鎖的な市場であることから、(デフォルトした場合の)グローバル金融市場における波及効果はそれほど大きくないと言われているが、デフォルトになれば中国の銀行システムは不良債権の増加や融資基準の厳格化等によって銀行貸出が絞られることが想定されるため、グローバル経済は中国経済減速による実体経済の影響を受けることになろう。

目先は今月23日に控える中国恒大の社債利払い日が焦点になるが、それ以降も順次利払い日が到来するため、23日に利払いが無事履行されたとしても予断を許さない。グローバルな金融市場を投資対象とする投資家にとってみれば、この中国恒大のデフォルト・リスクに加え、今月21-22日開催されるFOMC(米国連邦公開市場委員会)や26日のドイツ連邦議会選挙が控えているため、世界株式市場のリスクオフを正当化するには十分過ぎる材料が揃ったと言える。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動

超長期の上値抵抗線を突き抜けたS&P500指数

最高値更新のS&P500均等加重指数が示唆するもの

いまはバブルなのか?米IPO市場からヒントを探る

米株高の「資産効果」で個人消費は上振れか?

米国株の上値余地は?利益成長率から考察