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急落した暗号資産の考え方
市川 眞一
2022/11/25

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概要

暗号資産価格が急落した。FTXトレーディングの破綻が直近の背景だが、それ以前にFRBなど主要中央銀行が急速な利上げを行ったことにより、デジタル情報のバブルが崩壊したとも言える。財・サービスに対する通貨価値の低下が続くなか、ヘッジ手段として実体のある資産が物色される可能性は強い。ただし、それは株式、不動産、金などであって、暗号資産ではないだろう。



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暗号資産:急上昇と急落の背景

11月11日、仮想通貨取引所を運営するFTXトレーディングが米国連邦破産法第11条の適用を申請した。旧経営陣の杜撰な経営実態が報じられ、顧客資産の管理にも懸念が生じたことから、暗号資産価格は軒並み急落している。

もっとも、それ以前より、代表的な暗号資産であるビットコインは対ドルで大きく値下がりしていた(図表1)。


 

新型コロナ禍を受けた主要中央銀行の金融緩和により、2019年末に7,158ドルだったビットコインの価格は、2021年11月9日に6万7,734ドルの史上最高値を記録している。しかし、FRBなど主要中央銀行による利上げが、実体価値を持つとは言い難いデジタル情報の価格に大きく影響したのだろう。むしろ、暗号資産の大幅な下落が、FTXを破綻に導いたのではないか。

暗号資産の誕生は、既知の通り2008年11月1日、Satoshi Nakamotoなる人物がWeb上の”The Cryptography Mailing List”に論文を発表、ハッシュ関数を利用した暗号化の概念、即ちブロックチェーン技術を使った決済・送金システムの可能性を発表したことが始まりだ。当初の趣旨は、国際銀行間通信協会(SWIFT)を通じた銀行の送金サービスを活用する場合、高い安全性が確保される一方で、送金手数料が高額であることへの代替手段を提供することだったと言えよう。

もっとも、何等かの資産に裏打ちされているわけではなく、国家権力が価値を担保しない暗号資産は、フェアバリューの分析が困難なため、ボラティリティが大きくならざるを得ない。その値動きの荒さが投機の手段として好都合であり、2017年頃から送金・決済手段ではなく、専ら活発なトレーディングによるマネーゲームの対象になった。しかし、中央銀行の利上げによって、再び大きな転機を迎えているのではないか。


 

通貨価値下落:ヘッジの王道は実体価値を持つ資産の保有

為替市場において、ドルの実質実効レートは上昇し、1985年3月の史上最高値を窺う勢いだ(図表2)。


 

これは他の通貨に対してドルが相対的に強いことを意味している。ただし、消費財・サービスに対してドルの価値は低下を続けてきた。即ち、通貨価値の下落(=インフレ)が起こっているわけだ。

新型コロナ禍を受けた金融緩和期に暗号資産価格が急上昇したのは、既存通貨の価値下落に備えたヘッジの意味もあったと言えるかもしれない。もっとも、暗号資産は単なるデジタル情報であり、それ自体が価値を持つわけではない。本来、インフレのヘッジ手段にはなり得ないのではないか。

敢えて高いボラティリティを受け入れ、投機と割り切れば、暗号資産は便利な金融商品と言えるかもしれない。一方、通貨価値下落に対するヘッジを考えるのであれば、それ自体が本源的価値を持つ株式や不動産、金を持つべきだろう。通貨価値下落のリスクを本源的価値のより曖昧な暗号資産で回避しようとするのは、合理的な行動とは言えないからだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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