Article Title
米ミーム株に漂う陶酔感
田中 純平
2023/01/19

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

S&P500指数は年初来でリバウンド基調となっているが、米ミーム株やビットコイン、米国株式市場全体のファクター・リターンの動向を見る限り、短気的な「リターン・リバーサル」の範疇を超えていないと考えられる。



Article Body Text

米国株式市場では「リターン・リバーサル」が強まる

米国株式市場は今年に入ってからリバウンド基調になっている(図表1)。きっかけは1月6日に発表された2022年12月の米時間当たり賃金と米ISMサービス業景況感指数がともに市場予想を下回ったことだ。特に、警戒されていた賃金インフレに鈍化の兆しが表れたことで、「米インフレ・ピークアウト」→「FRB(米連邦準備制度理事会)による年後半の利下げ」が連想され、売られ過ぎの株が急反発する「リターン・リバーサル」現象が顕著になった。象徴的なのは米ミーム株(はやりの株)の急騰だ。

経営再建中の米生活雑貨販売大手の「ベッド・バス・アンド・ビヨンド」が、連邦破産法11条(チャプター11)の適用申請を検討中と報じられたのは1月5日だった。これを受けて、同社の株価は1月4日の終値(2.41ドル)から1月6日の終値(1.31ドル)まで45.6%も急落したが、その後は1月12日の終値(5.24ドル)まで300%も急騰した(図表2)。

破産申請を検討中と報じられる前よりも株価が高騰した背景には、買収観測やショートカバー(空売りの買戻し)などが指摘されているが、いずれにしても極端な値動きであることに変わりはない。これによって、ミーム株の代表格とされる米映画館運営のAMC株や米ゲーム販売のゲームストップ株も、ベッド・バス・アンド・ビヨンド株に連れ高する展開となった。

ビットコイン価格も上昇

急激な「リターン・リバーサル」は米国株式市場だけに起こった現象ではない。昨年11月11日に起きた米国の暗号資産(仮想通貨)交換業者FTXによる米連邦破産法11条の適用申請などによって、暗号資産のビットコイン価格は一時16,000ドルを割る水準まで急落していたが、今年に入ってからは21,000ドル台まで急回復している(図表3)。概ね1月6日前後から上昇トレンドが形成されていることを考えると、FRBの利下げ期待が高リスク資産を全般的に押し上げた可能性は否めない。

米国株上昇のけん引役は必ずしもグロース株ではない

利下げ期待が高まる局面では、金利低下→グロース株物色という展開が描きやすいが、足元では必ずしもグロース株が株式市場の上昇をけん引しているわけではない。米国株式市場における年初来(~1月18日)のピュア・ファクター・リターンを計測すると、最も高いファクター・リターンは「ボラティリティ(株価変動率が高い銘柄群)」(+1.0%)となっており、「グロース(成長率が高い銘柄群)」はむしろマイナス(-0.1%)だった(図表4)。また、最もファクター・リターンが低かったのが「モメンタム(過去1年間の株価上昇率が高かった銘柄群)」(-2.8%)であったことも、足元のリターン・リバーサル相場を色濃く反映している。

通常、ボラティリティ・ファクターが長期間にわたって相場のけん引役になることはまれであり、いつ足元の株価上昇が失速してもおかしくない状況だと言える。ボラティリティ・ファクターのリターンが上昇し、モメンタム・ファクターのリターンが低下している現状を踏まえると、年初来で見られた株価上昇はまだ短期的な「リターン・リバーサル」の範疇を越えていないと考えられる。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?

S&P500指数が急反発した理由と当面の注目点

日経平均株価が乱高下 パニック相場の真相

米中小型株の復活か?ラッセル2000vsナスダック100