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米国マネー・サプライから米国株を読み解く
田中 純平
2023/02/27

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概要

米国のマネーサプライを示すM2の伸び率は2022年12月時点で前年比1.3%減となり、1960年の統計開始以降、初めてマイナスとなった。米国M2の伸び率はS&P500指数の市場予想PERと連動性が高いため、当面は株価バリュエーションの低下に警戒が必要だ。



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FRBによる金融引き締めの影響が端的に現れた米国M2

先週1週間のS&P500指数は、FRB(米連邦準備制度理事会)による金融引き締め期間の長期化等が嫌気され、週間騰落率は2.67%安と3週連続の下落となった。また、S&P500指数は2月24日(金)に50日移動平均線を割り込む展開となり、急速に株価トレンドが悪化している(図表1)。

材料視されたのはS&Pグローバルが算出する2月米国PMI(購買担当者景気指数、速報値)と1月米国PCE(個人消費支出)デフレータだ。これらの指標がいずれも市場予想を上回ったことから、FRBの政策金利であるフェデラル・ファンド金利のターミナル・レート(最終到達点)は先物市場において5.4%(今年7~9月時点)まで上昇、S&P500指数のバリュエーションが低下する要因となった。

FRBの金融引き締めの影響が端的に現れているのが米国のM2(エムツー)だ。M2は通貨供給量(マネーサプライ)の一種であり、現金通貨や各種預金、個人向けMMF(マネー・マーケット・ファンド)などが含まれる。このM2は2022年12月に前年比1.3%減となり、1960年の統計開始以降、初めてマイナスとなる「異例」の事態となった。これだけ通貨供給量が縮小すれば景気後退が疑われてもおかしくない状況だが、実はそう単純ではない。過去の米国景気後退期と米国M2の伸び率を重ね合わせると、90年代前半は今回のようにM2の伸び率が鈍化していたにもかかわらず、景気後退入りはしていなかった。M2の伸び率鈍化が必ずしも景気後退を引き起こしている(又はその状態を示す)わけではないことが分かる(図表2)。

むしろ、足元のM2の状況は、コロナショックを背景としたFRBによる大規模な金融緩和によって引き起こされたマネー膨張の「反動減」と捉えるべきだろう。実際、2013年1月から2020年2月までのM2の増加ペースを長期トレンド(線形)と仮定すると、2020年3月から2022年3月にかけてM2が長期トレンドを大幅に上回っていることが見て取れる。コロナショック後の未曾有の金融緩和がそもそも「異例」だったと言えるだろう(図表3)。

米国M2の縮小は米国株のバリュエーション低下を示唆?

米国M2の縮小が米国の景気後退を引き起こす前提条件ではないと分かっても、M2の伸び率はS&P500指数の市場予想PER(株価収益率、12ヵ月先)に影響を及ぼす傾向があるため油断はできない。米国M2の伸び率が2020年2月時点の前年比+6.8%から2020年8月時点の同+23.0%へ急加速した際、S&P500指数の市場予想PERは16.8倍から22.9倍へ急上昇していた。反対に、FRBが金融引き締めに転じ、米国M2の伸び率が2021年12月時点の同+12.4%から2022年9月時点の同+2.6%へ急減速した際は、S&P500指数の市場予想PERは21.4倍から15.3倍へ急低下していた(図表4)。

2022年9月以降の状況を見ると、米国M2の伸び率が低迷する中、S&P500指数の市場予想PERはむしろ上昇する展開となっており、過去5年間では見られなかった乖離が生じている。FRBの金融引き締め期間の長期化観測が広がる中、米国M2の伸び率とS&P500市場予想PERとの連動性が再び高まるリスクについては警戒が必要だろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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