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米労働市場の逼迫緩和 FRBは利上げ停止か?
田中 純平
2023/09/01

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概要

8月29日に発表された米労働省の7月雇用動態調査やコンファレンスボードの8月雇用調査からは、逼迫する米労働市場が緩和しつつある状況が確認された。これを受けて米10年国債利回りは急低下し、S&P500指数は急反発することとなったが、経済指標次第で一喜一憂する展開は今後も続くだろう。



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米労働市場統計の下振れが市場のサプライズとなる

8月29日に米労働省が発表した7月の雇用動態調査(JOLTS)では非農業部門の求人件数が882.7万件となり、市場予想の950万件を大幅に下回ったほか、前月(958.2万件から916.5万件へ下方修正)からの減少も顕著となった。

コロナ前の水準が概ね700万件前後であったことを考慮すると、直近の求人件数はまだまだ高水準と言えるが、労働市場の逼迫が徐々に解消しつつある状況がうかがえる(図表1)。

また、同日発表された米民間調査機関のコンファレンス・ボードの8月消費者信頼感指数は106.1となり、こちらも市場予想の116.0を大きく下回る結果となった。さらに、コンファレンス・ボードが行った雇用に関するアンケート調査では、「雇用は十分にある」(A)との回答比率が低下した一方、「職を得るのは困難」(B)との回答比率が上昇しており、両回答の差(A)-(B)から算出される労働市場格差は前月から大きく低下した(図表2)。

労働市場格差の低下は求人件数の低下と整合的であり、コンファレンス・ボードの雇用調査からも労働市場の逼迫緩和が確認される内容となった。

米労働市場の逼迫緩和観測から米長期金利は低下、米国株は上昇

逼迫した労働市場が緩和へ向かえば物価上昇圧力もいずれ低下する、そのような期待が金融市場で広がり、米10年国債利回りは急低下した一方、S&P500指数は急反発した(図表3)。

そもそも米10年国債利回りは、①フィッチ・レーティングスによる米国債の格下げ、②米国債の需給悪化観測、③好調な米国経済指標などを背景に、8月初旬から上昇圧力(S&P500は下落圧力)がかかっていただけに、米労働省のJOLTSと米コンファレンス・ボードの雇用調査による「ダブル・サプライズ」は、投資家の急激なポジション調整(米国債と米国株の買戻し)を余儀なくされたと推察される。

だが、23年11月時点のFOMCの利上げ観測は若干後退したに過ぎない

前述した労働市場統計の「ダブル・サプライズ」によって金融市場は大きく反応することとなったが、市場が織り込む11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利上げ観測は若干後退したに過ぎない。利上げ回数(1回=0.25%)に換算すれば、約0.7回から約0.5回へ低下した程度だ。おそらくFRBの判断材料としては不十分と市場で認識されたのだろう(図表4)。

8月25日のジャクソンホール会議でパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、「トレンド以上の(経済)成長が持続していることを示す新たな証拠があれば、インフレ率のさらなる進展がリスクにさらされ、金融政策のさらなる引き締めが正当化される可能性がある」と警鐘を鳴らした。となれば、今後発表される消費、雇用、住宅、物価等に関する経済指標の重要度がますます高まり、市場はその度に一喜一憂することになる。労働市場統計の「ダブル・サプライズ」は、その序章に過ぎないのかもしれない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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