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長期金利上昇のリスクシナリオ:過去事例からの検討
大槻 奈那
2026/02/26

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概要

1970年代以降の長期金利上昇の事例を辿ると、殆どが需給ショックが発端であり、次の景気後退まで続くことが多かった。今回のように市場が財政不安を一因と捉えたケースは少ない。これが沈静化しない場合、経済財政政策の方向性を考えても、金利上昇は続くとみるのが自然だ。
現在は企業財務への影響は限定的だが、今後は、企業の優勝劣敗がより明確になり、金融機関に与信費用の負担が生じる可能性もある。地域金融機関の含み損拡大も続いている。過去には金融機関の損失が市場動揺の起点になったケースもあるため、当面は注視が必要だろう。



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■債券価格の動向とその要因

日本の長期・超長期国債利回りは一時期よりは落ち着いているものの、依然として高水準にある。2月25日には、日銀の審議委員候補として、財政拡張推進・リフレ派とみられる2名が発表されたことで、長期国債利回りは、再び2.1%程度まで上昇した。これに伴い、一部の超長期債の価格は、一般的な会計処理では減損が必要とされる額面の50%を下回るレベルまで低下している(図表1)。



この背景には、期待インフレ率の高止まり、日銀の購入減額、生保等国内投資家の買い意欲の低下、財政拡大への懸念等、様々な要素が混在しているとみられる。

このうち、最も今回の上昇に特異なのは、少なからず日本の将来の財政不安が背景にあるとみられる点である。

日本国債の信用力を市場で取引するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と国債利回りを比較すると、過去半年でこれらの相関が高くなっていることがわかる(図表2)。過去1年間のCDSプレミアムの上昇幅は先進国中最も高い。CDS市場は参加者が限られるとはいえ、主として機関投資家が取引する市場である以上、価格形成には一定の理由があり、市場の信用力への認識の変化を無視するわけにはいかないだろう。



■日本の過去の金利上昇期のパターン

日本は、数年前までの過去30年間、構造的な長期金利低下トレンドを経験してきた。特に90年代後半以降はデフレ圧力、量的緩和による日銀の国債大量購入、少子高齢化による潜在成長率の低下等が重なり、長期金利は概ね低下基調にあった(図表3)。



それでも、過去、金利が一時的に上昇した局面はみられた。そして、その殆どが市場のショックにより発生している(図表4)。
例えば、87年はタテホ化学工業の国債先物による運用の失敗が景気となった。94年の金利上昇は、米FRBの予想外の利上げによる世界的な債券暴落が発端とされる。日本の景気拡大も金利急上昇の背景の一つだった。その後、兵庫銀行の破綻等から金利は低下に転じた。
03年6月には、リスク管理モデル(バリューアットリスク、VaR))による金融機関の多額の国債売りが発生するというVaRショックが発生した。景気の回復もあり、この後も長期金利はしばらく高止まりが続いたが、07年以降のサブプライム危機・リーマンショックで終息した。



このように、過去の日本の金利上昇は、多くの場合、国債需給に大きな変調が見られた時に発生し、その後景気の明確な後退が訪れるまで金利上昇が続くというトレンドを辿ってきた。

今回はどうか。始まりは、日銀の購入減額や生保の買い需要減速等の緩やかな需給悪化であり、過去の多くのケースと似ている。しかし、これに財政への疑問符が加わっている点で、今回の金利上昇はより粘着性が強い可能性がある。さらに今後、高市政権の積極的な成長戦略への期待というプラスの側面も加わり、金利は上昇傾向が続くと考えるのが自然だろう。

■リスク要因:企業よりも、金融機関への影響を注視

では、金利上昇継続は実体経済にどのような影響をもたらすか。今のところ企業の利払い費の対営業利益率はさほど上昇していない(図表5)。企業全体でみれば、利払い費等のコスト上昇を価格に転嫁できていることを示している。



一方、金融機関には別の問題がある。金利上昇は銀行の資金利益を押し上げており、25年の第3四半期の上場地銀の資金利益は前年同期から約16%増加した。

しかし、地域金融機関の中には、債券含み損が資本をむしばんでいるところも存在する。25年12月末時点の上場地銀の有価証券含み損は合計で約3.5兆円に達した(図表6)。Tier1資本に対する比率も拡大しており、12~18%程度と推定される銀行が多く、30%以上の銀行も数行みられる。(図表7)。今後、価格転嫁力が低い中小企業の破綻による与信費用増加も想定され、金利上昇の直接的・間接的な財務影響は緩やかに増加すると思われる。




最悪の場合、過去の金利上昇は銀行にどんな影響を与えたのか。例えば、94年の金利上昇局面では、銀行はまだ保有国債の時価評価を求められていなかったが、国債金利の上昇が預金コストを大きく押し上げた。また、それまで享受してきた国債の益出しが難しくなったことで、不良債権処理が遅れたことが、翌年からの金融機関の破綻発生の一因となった。

なお、2001年から、保有国債が時価評価されるようになり、その影響は、03年のVaRショックで明らかになった。ただこの際は、その直前に行われたりそなへの公的資注入に伴う市場のマインド回復や銀行の収益増加の恩恵で、国債含み損の不安はさほど広がらなかった。

一方、米国では、金利上昇が金融システム不安を招いたケースもある。3年前の23年3月に米国で破綻した米シリコンバレー銀行のケースでは、IT業界の不振とともに、金利上昇による銀行の国債含み損の拡大が預金の急激な流出を招いた。

現在の銀行への信頼感をみる限り、同様のケースが日本で発生するリスクは考えにくいが、何らかのヘッドラインで小規模な地域金融機関等に動揺が走るリスクは完全には排除できないだろう。

■今後の見通し

例年4月以降は、金融機関が総じてリスクオン・モードに切り替わり、ある程度、債券からリスク資産にシフトするという市場の季節性がみられる。このため、再び、国債が売られ金利が上昇する可能性もある。

更に、今後の国民会議等における政策議論で、消費税減税や給付付き税額控除の財源問題がクローズアップされると、財政懸念が再び市場の焦点となるだろう。景気拡大期待も金利を押し上げうる。これらの点から、今後も金利高は続くとみるのが自然だ。


過去30年間の日本の金利上昇のマイナス影響は、景気拡大によって相殺された。今回も、メイン・シナリオはこのパターンの踏襲だろう。しかし、過去には、金融システムを通じてショックが波及したケースも、日米ともに存在する。今後半年程度は、金利動向とその影響の波及経路については、注意が必要だろう。


大槻 奈那
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

内外の金融機関、格付機関にて金融に関するリサーチに従事。Institutional Investors(現Extel)によるグローバル・アナリストランキングの邦銀部門にて2014年第一位を始め上位。日本成長戦略会議・資産運用立国推進分科会構成員、財政制度等審議会委員、国家戦略特区諮問会議有識者議員、一橋大学理事、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等を勤める。日本経済新聞 十字路、ダイヤモンド・マーケットラボ、DowJones読売Proの目、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授。東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)


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