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米銀行決算の裏に潜むリスク
大槻 奈那
2026/01/20

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概要

米大手4銀行の2025年決算は3年連続の増益となった。事業性ローンの拡大や、M&A、資産運用関連を中心とする手数料収益が成長を牽引した。一方、 4行合計のIT関連費用は330億ドルに達し、その成果が問われつつある。前期与信費用を積み増したJPモルガンに他行も追随するかどうかも注視される。更に、トランプ政権によるクレカ上限金利設定が現実になれば、景気減速の火種にもなる。株価的には、近年利益で猛追する邦銀大手に、より注目すべき年となりそうだ。



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■ 米国の4大銀行グループ決算:2025年は絶好調だったが…

2025年の米国の4大銀行グループ(JPモルガン、 バンクオブアメリカ、シティグループ、ウェルズファーゴ。投資銀行中心のゴールドマンとモルガンスタンレーは対象外とする)の当期利益は、前年比4.5%増の1230億ドル(約19兆円)となった(図表1)。3年連続の増益である。増加率の勢いはやや低下したものの、JPモルガンのアップルカード事業の貸倒引当金積み増し等による減益が響いたもので、バンカメとシティでは2桁の伸びとなるなど堅調な伸びが続いた。


しかし、今期については楽観視できない。市場では金利低下や景気減速の影響が徐々に銀行の業績に反映されるとの見方がある。


実際、企業倒産件数(チャプター11=再生法申請件数)はリーマン・ショック後に次ぐ水準まで増加しており、雇用にも勢いがない。今期の当期利益の市場コンセンサスは、昨年のロシア拠点売却損の反動が予想されるシティグループを除けば、各行とも概ね横ばい圏に留まる見通しである。



以下では、2025年の米大手行決算の注目点と今後の見通しを整理するとともに、邦銀との事業環境の比較分析を行う。




■ 4大銀行グループの増益内訳

4グループの増益要因を分解すると、資金利益と手数料収益が押し上げ要因となった一方、営業経費や引当金の増加によってその一部が相殺されたことがわかる(図表2)。背景は以下の通りである。

1)資金利益:事業性貸出増加が利鞘低下を補完

大手4行の資金利益は、合算で前年比5%増加した。昨年3回のFRBの利下げやローンポートフォリオ構成の変化により利鞘は伸び悩んだものの、貸出残高の増加が増益を支えた。特にウェルズ・ファーゴでは、約10年前の不祥事を受けて課されていた資産上限規制が昨年7年ぶりに解除されたことから、貸出残高は前年までの減少から7%の増加へと転じた。



近年、大手行で伸びが目立つのは事業性ローンである(図表3)。直近決算でも、消費者ローンが2%程度の伸びにとどまる一方で、事業性ローンは、各行ともに2桁の伸びとなった。

全米ベースでみると、事業性ローンと消費者ローンの伸びはほぼ平行している。これに対し、大手銀行では事業性ローンへの傾斜が進んでいることの背景として、ノンバンク金融仲介業(NBFI)の旺盛な資金需要があるとみられる。この点では、消費者向けに傾倒する中小銀行と大手行との住み分けが進んでいる。



企業の資金調達の担い手が一部の銀行に集中していることには一定の注意が必要であるものの、貸し手が財務基盤の強い大手銀行にシフトしている点は、金融システム全体の安定性という観点ではむしろ安心材料と評価できよう。



2)手数料収益:投資銀行収益が記録的拡大

昨年は、企業のM&Aや資金調達の拡大を背景に、4グループの平均手数料収益は8%もの伸びを記録した。最も上昇率が高かったJPモルガンでは、資産管理・仲介手数料が前年比14%の大幅増となった。

シティでは投資銀行手数料が20%も増加し、特にM&A収益は過去最大レベルとなった。バンカメの投資銀行手数料は他行ほど伸びなかったが、資産運用関連手数料は12%増加しており、資金利益依存からの脱却と収益構造の転換が進みつつある。


3) 営業経費:際立つIT投資


4グループの営業経費の増加率は、JPモルガンで4.2%、バンカメで4.4%、シティで2.1%、ウェルズファーゴで横ばいとなった。その増加は概ね3つの要因で説明できる。第一は全体的なインフレ、第二に収益連動ボーナスに関わる人件費の増加、第三にIT通信関連費用の拡大である。

特に注目されるのは、IT通信関連費用の拡大である。4グループのIT通信関連費用は合計で330億ドル(5.2兆円)にも上り、各行の営業経費の10~17%を占める(図表4)

最大のJPモルガンのIT通信関連費用は、前年比12%増の110億ドル(1.7兆円)に上った。その他の大手行も同分野への支出を大幅に拡大しており、最も金額が小さいウェルズ・ファーゴでも、昨年のIT通信関連費用は前年比14% 増となっており、他行を急速に追い上げている。報道によれば、邦銀全体の年間IT費用も、2025年度に初めて1兆円を超えるなど急増しているが、それでも米大手行1行分にも満たないことになる。



4)与信費用:JPモルガンでは急増、他は横這い



与信費用はまちまちとなった。JPモルガンの与信費用は通期で142億ドルと、前年から33%も増加した。Appleカードのポートフォリオに関連する22億ドルの引当金の積み増しが増加の主因だが、これを除いても、与信費用は前年から二桁増となった。

シティも米国内のクレジットカードの与信費用が増加した。しかし、与信費用全体としては2%の緩やかな増加となった。バンカメとウェルズファーゴの与信費用もほぼ横ばいだった。

JPモルガンの与信費用増加は、同行だけの特殊要因という可能性もある(2023年に経営破綻したFirst Republic Bankを買収したこと等)。 しかし一方で、JPモルガンは、過去の景気後退期にも比較的早めに引当金を積み増す傾向があった(図表5)。今回も他行の与信費用増加の先行指標となるのかどうか、注視が必要だろう。

■ 今後の見通しと経済への示唆

1)資金利益に逆風:政策金利の引き下げもあり、過去25年間、米大手行の利ざやは緩やかな低下傾向を辿っている(図表6)。また、近年では、金利の上昇に対する利ざやの感応度が鈍くなっているように見える。そもそも銀行数が多いところにNBFIも加わり、与信競争が激化している可能性もある。

加えて、トランプ政権が提示しているクレジットカードローンに10%の上限金利を設けるという規制が実現すれば、銀行業界全体で数十億ドルの利益が吹き飛ぶと試算されている。現在の平均金利は20%程度である。

大手行以上に厳しいのはカード会社や地銀であるが、影響は広範囲に及びかねない。相当数の人々が与信枠を削られることになるだろう。特に図表7の通り、若年層では既にカードローンの延滞が顕著である。これらの、消費性向が高い層に対する与信が制限されれば、景気への影響は甚大である。

2)AI・IT投資の効果実現の有無に注目:大手行のAI・IT投資は、昨年の330億ドル(5.2兆円)に加え、それ以前の数年間にも、毎年数兆円規模となってきた。銀行業界の人員削減規模は拡大傾向にあり、また、JPモルガンを筆頭に、トークン化預金の開発等新たな取り組みも始まっている。それでも、人件費は依然インフレ率以上の上昇を続けており、新商品による劇的な業容拡大もまだ殆ど聞こえてこない。

巨額の投資がどの程度回収できるのか、そろそろその成果に注目が集まり始めるタイミングだろう。最もAI・ITの効能を得やすい業界とも考えられる金融分野でもその恩恵が曖昧なままであれば、AI・IT全体に対する期待の剥落にも繋がりうる。

■ 銀行投資スタンス:邦銀大手行により注目

過去10年間の米大手行の当期利益は、変動は激しかったものの約2倍となった。

一方、近年では邦銀大手行の当期利益が(水準的にはまだまだではあるが)急速にキャッチアップしている。2023年から利益は回復の軌道に乗り始め、今期には約2倍に達する見込みである(図表8) 。

ところが、邦銀株のバリュエーションは依然米銀には追いついていない。過去2年で、日米ともに株価(PBR)は上昇しているが、その差はなかなか縮まらない(図表9)。

日本では、金利上昇が続いている。政府の施策や景気の安定的拡大により、与信費用は(特に大手行では)安定している。地銀では、預金コストが増加していることや、金利上昇に伴う中小企業の倒産を今後一定程度は想定せざるを得ないこと等から、大手行ほどの恩恵は受けにくい可能性がある。しかし、大手行同士で比較すれば、現在の金融環境下では米銀株以上に邦銀株に上昇の余地が大きいと考えるのが自然だろう。

なお、邦銀の場合、銀行間のバリュエーションの差は今のところ極めて小さい。しかし、最近は一部の大手行による大型M&Aが再開しつつある。M&Aはその成否によってその後の収益の明暗を大きく分けることから、邦銀間でも米銀並みのバリュエーション格差が出るようになる日も近いかもしれない。


大槻 奈那
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

内外の金融機関、格付機関にて金融に関するリサーチに従事。Institutional Investors(現Extel)によるグローバル・アナリストランキングの邦銀部門にて2014年第一位を始め上位。日本成長戦略会議・資産運用立国推進分科会構成員、財政制度等審議会委員、国家戦略特区諮問会議有識者議員、一橋大学理事、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等を勤める。日本経済新聞 十字路、ダイヤモンド・マーケットラボ、DowJones読売Proの目、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授。東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)


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