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忍び寄るプライベートクレジットのリスクとその正体
大槻 奈那
2026/03/26

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概要

米国で企業倒産が増加する中、信用リスクの受け皿が銀行からプライベートクレジットに移行している。足元でファンドの解約制限も相次ぎ、懸念が顕在化している。過去にもLTCMの破綻やパリバショックのように、ファンドが金融不安の引き金となった例がある。今回はまだそこまで深刻な懸念はないものの、市場規模や銀行との結び付き等から、影響が広範囲に及ぶ可能性がある。足元で米銀の資本規制緩和案等の救いがある一方で、満期債務の増加から、信用収縮の懸念もある。次の注目は大規模企業の倒産や銀行破綻の有無だろう。当面は特に流動性リスクに留意したい。



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■ プライベートクレジットの現状

米国で企業の信用力が悪化し始めている。企業の倒産件数は、12月末で、約10年ぶりの水準となった(図表1)。クレジットサイクルは明らかにダウントレンドに向かっている。



これ自体は、これまで幾度となく繰り返された通常の流れにも見える。しかし、今回若干様子が異なるのが、銀行以外の貸し手の存在感の高まりである。最近報道が活発化している「プライベートクレジット・ファンド」の拡大が背景にある。

この傾向を示す根拠の一つが、図表1の通り、企業倒産件数の増加の割に、銀行の不良債権比率がさほど上昇していないことが挙げられる。一時的な現象の可能性もあるが、不良債権の増加をプライベートクレジット・ファンド等のノンバンクが担っていることの現れかもしれない。

実際、年初来のプライベートクレジット・ファンドのパフォーマンスは、急速に悪化している(図表2)。2024年頃までは、債券ファンドの割に高い二桁のリターンを上げるファンドが多かったが、2026年に入ってからはゼロ近傍かマイナスまで悪化している。恐らく融資先の業況悪化等が関係していると思われる。



こうした流れを受け、今年に入ってから、投資家によるプライベートクレジット・ファンドの解約請求が急増し、契約上の上限に達するファンドが相次いでいる(図表3)。こうした傾向はどの程度懸念すべきことなのか。過去のファンド破綻の事例等から考える。

■ プライベートクレジットの規模と概要

そもそもプライベートクレジットは銀行融資や社債とどう違うのか。その融資先企業は、銀行や投資適格社債等と比べ、信用力が低く、流動性も低い(図表4)。市場規模はおよそ2兆ドル程度とされ、プライベート投資全体の中ではプライベートエクイティに次ぐ16~18%程度のシェアを有する(プレキン、モーニングスター等)。先進国企業向け融資全体に占める割合は4%程度と小さいものの、かつてのサブプライムローンの残高が1.5兆ドル程度だった(但しこれにレバレッジをかけた証券化商品はその数倍組成されていた)ことを考えると、この規模だからといって侮れない。投資家も、富裕層から年金・生保等多岐にわたるため、ショックが発生すれば影響は多岐にわたる。



信用力や流動性の低さの代わりに、目標利回りは相対的に高い。シニアローンに投資するファンドでも年率5~10%で、より高リスクのファンドでは20%程度とされているが(図表5)、近年までは概ねこの目標を満たしてきた模様だ。

ところが足元では、前述の通り、パフォーマンスの低下が目立つ(前掲図表2)。解約は通常四半期ごとに行われ、今回上限を超えた部分は、次の四半期に返金されるとみられるが、そこでまた解約希望額が出金上限を超えれば、翌々期に繰り越される。これが続けば、例えば四半期に5%の出金制限を設けても、年間約20%もの出金に応じなければならない計算となる。

■ 過去のファンドのストレス事例

今後、どのようなシナリオが考えられるのだろうか。銀行預金とは異なり、投資ファンドは出金に制限が設けられているため、銀行のような取り付けによる突然の破綻には陥りにくい。一方で、銀行業界のような預金保険もないし、政府による救済も期待しにくいため、投資家の動揺が止めにくい。このため、過去の投資ファンド(クレジットファンド以外を含む)のストレス事例をみると(図表6)、金融市場全体に大きな動揺をもたらしたものもある。



ファンドの経営破綻として最大の事例は、1998年の米国のLTCMだろう。規模は、預かり資産(AUM)で約50億ドル、レバレッジを含む総資産で1250億ドルと、当時としては大規模だった。しかし、投資対象はデリバティブを用いたソブリン債で、手法も先駆的であったため、逆に、他に類似ファンドも少なかったことから、他のファンドに対する不安の連鎖はあまりみられなかった。この事例では、FRBが仲介役として、大手金融機関による資本注入を促した。当時発生していた通貨危機に鑑み、国際金融市場への影響を回避するべく異例の措置がとられたものだ。また、2007年のパリバショックは、その後リーマンショックに繋がった「炭鉱のカナリア」として注目される。パリバショックとは、フランスの金融機関パリバグループ傘下の投資ファンドが解約制限を表明したものである。

その前から問題になっていたサブプライムローンに関わる不良債権の発生で、資金引き出しの要請が急増した一方、投資先の資産の流動性が低かったことや、その投資資産評価の不透明さから不安が広がった。


これを受けて株式市場は一時的に大きく下落した。この際には、ファンドの規模がさほど大きくなかったことや、サブプライム問題の震源地の米国の金融機関のファンドではなかったこと、LTCMの頃ほど国際金融市場が不安定化していなかったこと等から、公的支援は行われなかった。ところが、こうした不安の蓄積が、その後のサブプライムローン市場の混乱を増幅した。

■ 今後の展開

今回のプライベートクレジットに関する懸念は、今のところまだ、過去のファンドのストレス事案に比べ、深刻度は低いように見える。一方で、今後についてはいくつかの大きな懸念材料もある。

第一に、類似の運用を行うファンドが多数存在し、1つのファンドの不安が他のファンドに波及しやすい点だ。万一、大手のファンドが破綻すれば、それ以外のプライベートクレジット・ファンドの資金流出を止めるのは難しいだろう。現時点の解約要求は主に富裕層等の個人が多いとみられている。しかし今後解約要求の流れが機関投資家にも広がり、資金流出が続けば、融資が満期を迎えた際に借り換えに応じにくくなり、融資先企業の倒産を招く可能性がある。因みに、今年満期を迎えるBB+以下の債券や融資は4兆ドルを超え、さらに翌年以降増加する(図表7)。プライベートクレジット・ファンドには、ドライパウダー(未投資コミット額)も4000億ドル強存在するとみられる(S&P等による)が、この局面でどこまで維持できるかは不透明だ。

第二に、銀行のノンバンクへの融資(全てがプライベートクレジットではなく、保険やヘッジファンド等が含まれる)が急増している点だ。米銀によるノンバンク融資は伝統的な商工業ローンにならぶ勢いである(図表8)。

IMFは、ストレスシナリオ下では、7割以上の欧州の銀行の資本比率が1ポイント以上押し下げられると試算している。米国でも、同じシナリオで約4割の銀行の資本比率が1ポイント以上低下するとされる。それ以上の詳細な分析の開示はないが、自己資本比率が大幅に低下する銀行が出る可能性も排除できないだろう(図表9)。

第三に、クレジット以外の、プライベート資産全体のファンドへの波及も懸念材料である。大手プライベート資産運用ファンドのAUMは、過去5年間で2倍以上に膨らんでおり、ノンバンク全体の資産は銀行を凌ぐようになった。過去のファンドショックの時とは、投資ファンドのプレゼンスが大きく異なり、その動揺は金融システム全体をストレスに晒するのに十分だろう。一方で、銀行の資本規制緩和は、こうしたノンバンクの流動性リスクに対する一定の緩和材料になる。今年3月19日にFRBが発表した資本規制の緩和案は、全米の銀行に1兆ドル程度の貸出余力を生むという試算もある(図表10)。もしこれがフルに利用されれば、プライベートクレジット・ファンドが貸し渋りを行った場合でも、銀行が一定程度代替することは可能だろう。それでも、前掲図表4の通り、銀行とプライベートクレジット・ファンドではカバーする領域が異なることから、これがどこまで市場の懸念を軽減できるかは不透明だ。

■ 今後の留意点:最大のポイントは流動性リスク

中東問題等で一時的に市場が弱気になっているだけだとすれば、投資家としては、追加的なリスクテイクもありうる局面だろう。しかし、今回触れたプライベートクレジット市場の状況を見る限り、今後何か大きなショックが発生しても不思議ではない。クレジットリスクは、逆張りで儲けるのが難しい(一般に、キャピタルゲイン狙いの投資ではないこと、先に資金を引き上げた投資家は回収できるが倒産まで残った投資家は損失しか残らない)ことから、早めに資金を引き上げるインセンティブが高く、資金が戻りにくいという特性がある。

次の注目は大規模な企業倒産や銀行破綻の有無だろう。そうしたシナリオが現実になると、市場から流動性が一気に枯渇する可能性があるというのが過去事例からの教訓である。このような局面でもっとも避けるべきリスクは流動性リスクである。当面は、平時以上に、換金性を念頭に置いた資産配分、例えば、各業界トップ企業の上場株式や、規模の大きい投資信託、先進国債等への資金のシフトも検討したい。


大槻 奈那
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

内外の金融機関、格付機関にて金融に関するリサーチに従事。Institutional Investors(現Extel)によるグローバル・アナリストランキングの邦銀部門にて2014年第一位を始め上位。日本成長戦略会議・資産運用立国推進分科会構成員、財政制度等審議会委員、国家戦略特区諮問会議有識者議員、一橋大学理事、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等を勤める。日本経済新聞 十字路、ダイヤモンド・マーケットラボ、DowJones読売Proの目、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授。東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)


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