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米国マクロ経済とFRBの最新動向
2022/05/02

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概要

FRBの行動は、降りようとしていた高速道路の出口を通過しようとしていることに気付いた後、突然急ブレーキを踏んだ車のようです。問題は、ルーフラックに積んでいる重い荷物が転倒する可能性があることです。



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FRBは、パニックとはいかないまでも、インフレ問題への対処についてより差し迫った緊張感を表明しています。しかしながら、これらの行動は、年後半の米国のマクロ見通しに重大な副作用をもたらす可能性があります。 経済データとFRBの意思決定との間で予想されるフィードバックループに基づくと、年後半には金融引き締めの動きが一時中断することも考えられます。

FRBが現在抱えている不安は、インフレ率が高止まりしていることだけでなく、物価上昇が財からサービスへと拡大しつつあることをデータが示していることから引き起こされています。言い換えると、インフレは、グローバルなサプライチェーンの混乱に起因するものから、より国内的な要因へと変化しています。3月のエネルギー価格を除いたCPIは前年同月比4.7%となり、1991年9月以来の高水準となりました。さらに、データは賃金の大幅な上昇を示しています。賃金の伸びの中央値を示すアトランタ連銀の3月の指標は、前年比6.0%でした(ただし、相対的に低賃金な職種の賃上げにより牽引されています)。FRBは、このような急速な賃金上昇がインフレ期待を押し上げ、1970年代に見られたような賃金および物価の上昇スパイラルに繋がることを懸念しています。

そのため、FRBはレトリックを強化し、パウエル議長は利上げが予防的に前倒しで実施される可能性を示唆しました。今回の引き締めサイクルでは、3月に+25bpの初回の利上げが実施され、FF金利の上限が0.50%に引き上げられましたが、パウエル議長は5月4日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、+50bpの利上げを支持する可能性を強く示唆したのです。

以上を踏まえると、インフレへの対処がFRBの最優先課題であることは明白であることから、6月のFOMCにおいても、再度+50bpの利上げが実施される可能性も否定できない状況です。なお、+50bpの利上げは、2000年5月にアラン・グリーンスパン率いるFRBが実施して以来のことです。

とはいえ、FRBはどこかのタイミングで金融引き締めの手を緩め、年末にかけては利上げを中断するという可能性もあるでしょう。これまでFRBが続けてきたタカ派的なコミュニケーションと、それに続けて実施する今後の利上げを米国経済がどのように消化するか、FRBとしても見極める必要があるためです。住宅ローン銀行協会のデータによると、30年物住宅ローンの平均金利は4月中旬までに5.2%となり、4ヶ月間の上昇幅としては過去最大となりました(データが取得可能な1990年以来)。通常、基準金利の上昇は、まず住宅市場に、続いて企業のセンチメントや設備投資計画に、そして数ヶ月のタイムラグを経て、最後に労働市場に影響を与えます。

問題は、FRBが、金利上昇が米国の景気サイクルに及ぼす影響への懸念と、インフレ対策の信頼性を回復する必要性とをどのように天秤にかけるか、です。 9月までに、コアインフレ率は現在の前月比+0.5%(3か月平均)から減速すると予想されますが、ISM製造業景況指数は事業活動の横ばいを示していることが分かります。 このことは、FRBが利上げを一時中断するのに十分な根拠になると考えますが、月次賃金上昇の減速を待つ可能性もあります。その場合、年末までの利上げ継続も視野に入ってくるでしょう。

マクロの観点から見ると、今年下半期の米国経済の見通しはより脆弱に見えています。長期金利が急速に上昇している一方で、財政政策の支援は縮小しており、どちらの要因も経済に打撃を与える可能性があります。 しかし、消費者の信用は今のところ堅調であり、米国の消費者が燃料価格の高騰を含む多くのショックに耐える手助けをしています。 にもかかわらず、FRBがさらにタカ派寄りに振る舞う場合、消費者の信用は引き締め的な金融政策に翻弄され続けることになるでしょう(これにより、金融機関は個人向け信用供与の引き締めを行い、皮肉にも米国を不況に陥れる可能性があります)。 


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