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新薬開発と診断技術のブレイクスルー

人類のアルツハイマー病との長い旅

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医療は医療従事者の仕事だと思われがちですが、効果的な医療は社会全体の問題だと考えます。



アルツハイマー病の患者は、世界全体で5,000万人を超える認知症患者の55%程度を占めており1、患者数は、人口の高齢化に伴って、増加の一途をたどることが予想されます。また、アルツハイマー病を含む認知症患者に対して、2020年に提供された介護は、153億時間、2,567億米ドル相当に及んでおり、患者に苦痛を与えるだけでなく、介護を提供する何百万人もの家族や無償の介護者の負担となっています2。長い時間と巨額の費用が投じられたにもかかわらず、また、その他の神経障害の治療薬が開発されたにもかかわらず、医薬品業界は、1世紀以上の長期にわたって、認知症の治療を前進させることが出来ませんでした。
 

「神経学は、復興期(ルネッサンス)」のさなかにあります。かつては治療が不可能だと思われた病気を治すことが出来るようになり、多発性硬化症やてんかんに留まらず、脳腫瘍の治療にも目覚ましい進化が見られます。アルツハイマー病や神経変性疾患の治療が困難を極めてきたのは、高齢期に発症する疾患に特有の複雑さが一因かもしれません」と話すのは、米国テネシー州の州都ナッシュビルにあるヴァンダービルト大学の神経科学者であり医師のマシュー・シュラッグ氏(Matthew Schrag)です。

もっとも、ここ数年は、希望の兆しが現れ始めています。米食品医薬品局(FDA)は、2021年、2003年以降では初のアルツハイマー病新型治療薬、アデュカヌマブを承認しました。また、2022年9月には、エーザイ(日本)の新しい治療薬レカネマブが、アルツハイマー病の進行を18ヵ月間で27%遅らせる可能性があることを示唆するフェーズ3治験の結果が発表されました(2023年7月に、米FDAから承認されました)。更に、2023年5月には、イーライリリー(米国)がドナネマブのフェーズ3治験の極めて良好な結果を発表して注目を集め、記憶力や認知機能の低下を遅らせる効果がアルツハイマー病との闘いの転換点になったとして称賛されました。

3つの治療薬はいずれもアミロイドと呼ばれる蛋白質を脳内から除去することに主眼を置いています。

アミロイド斑の存在と脳内のタウ蛋白質から形成される神経原線維変化は、アルツハイマー病の病理学的特徴であり、ニューロンの情報伝達能力を阻害して一連の神経変性疾患プロセスを引き起こします。その結果、認知機能や判断力の低下、記憶障害、社会からの引きこもりなどの症状が現れます。

もっとも、脳内アミロイドの蓄積がアルツハイマー病を引き起こすとの見方を、誰もが確信しているわけではありません。「その他の治療薬の開発を遅らせるという点では有害かもしれない」と主張する人さえいます。

ワシントン大学医学部、神経学科のエリック・ミュージエク教授(Professor Erik Musieke)は、「これで問題が完全に解決したとは思いませんが、少なくとも、切実に必要とされる一歩を踏み出したと思います」と話しています。



誇大な宣伝と希望

最近発表されたアミロイド除去薬の治験結果は、(薬の効果を示唆する)数値の観点では、衝撃的であり、画期的な開発だと称賛する報道も散見されます。一方、マサチューセッツ総合病院、遺伝子工学コア部門のディレクターでハーバード大学医学部所属の脳科学者であるレイチェル・ネーブ博士(Dr. Rachael Neve)は、患者に対して行った認知力検査からは、18項目のうち35分の1にしか改善が見られなかったとして、薬の効果は極めて限定的であると述べています。

新しい治療には、脳腫脹や微量の脳内出血等の副作用が伴う上に、投与の仕方は実用的だとは言えません。治療薬は錠剤ではなく、静脈点滴の形で投与される上に、脳内出血やその他の副作用がないかどうかを確認するためのMRI検査が必要だからです。「こうしたことが何を意味するかを考えてみて下さい。生命を脅かす可能性のある副作用が起こっていないかどうかを調べるために、治療を受ける患者は、誰もが、高額な脳のMRI検査を継続的に受けなければならないのです。純粋に金銭的な観点では、治療は持続不可能です」と、ネーブ博士は説明しています。


アミロイド除去薬以外の治療

アミロイドをめぐる議論が続く一方で、アルツハイマー病の研究を、控えめながら、応援する理由の一つは、診断技術に改良が見られるからです。

認知症を発症したかどうかを判断する手段は、かつては、死後の解剖だけだったのに対して、今では、バイオマーカーによって、病気を発見し、脳内の変化を早期に見つけて、薬や治療に対する反応を追跡することが可能です。診断には、腰椎穿刺(脊椎穿刺)等の処置が含まれますが、今では、血液検査がより実用的な手段として使われ始めています。

「バイオマーカーの観点からすると、アルツハイマー病の治療には、他の神経変性疾患のどれよりも進んだ、極めて優れたツールが使えるようになりました。患者に症状が現れる前に生物学年齢が特定出来るのです」とミュージエク教授は述べています。

研究は多くの面で進化しています。炎症、血管機能、酸化ストレス、シナプス機能、睡眠等は、いずれも、認識されるまでに数十年にわたって進行する可能性のあるアルツハイマー病の興味の対象として注目されています。

シュラッグ氏は、代謝プロセスに対する理解を深めることが鍵になるかもしれないと考えており、「脳内にはそこにあるべきではない蛋白質が大量に蓄積されていますが、そうした蛋白質を除去しようとするだけでなく、脳内の不要物廃棄機能を調べる必要があるという強い根拠があるのです」と述べています。

予防のための研究も進んでいます。遺伝により発症しやすい、少数の患者を救うことは難しいにしても、認知トレーニング、運動や食事療法等の、薬を使わない実験的な治療が米国だけで100件以上行われています。また、病気に対する理解を深めるための取り組みの一環として、アメリカ人の健康状態を数十年にわたって追跡するデータベースを構築するための資金調達が行われています。

アルツハイマー病は、様々な神経学治療の進化からも恩恵も受ける可能性があると考えます。「脳内にカテーテルを挿入して血栓を取り除くことが出来る他、より速く、確実な治療に寄与するAI(人工知能)ソフトウェアの利用が爆発的に増えており、医療機器も劇的に改良されています」とシュラッグ氏は話しています。研究者達が治療法を探る一方で、神経学分野での技術の進化が、疾患を抱えている人の生活の質を向上させることに貢献しています。

「科学は大きな進化を遂げています。神経変性疾患の治療のための研究を科学の進化の軌道に乗せればいいだけのことなのです。」

[1] Alzheimer’s Disease International
[2] Alzheimer’s Association 



投資家のためのインサイト

  • ピクテでは、長期的な成長の重要なドライバー(メガトレンド)の一つとしての健康に焦点を当てた運用を行うことが重要だと確信しており、ヘルスケアとバイオテクノロジーの二つのセクターに、テーマ運用の絶好の機会があると見ています。予防と、治療や薬へのアクセスの改善を通じて、健康寿命を延ばすことによって真の付加価値を生み出す企業は、長期にわたって良好な相対パフォーマンスをあげる優位な位置につけていると考えます。

  • 患者や家族の苦痛が大きく、治療費がかさむ上に、社会の高齢化に伴って状況が更に悪化することが予想される中、中枢神経系障害は、バイオテクノロジー・セクターにとって、優先課題の一つになっています。国際アルツハイマー病協会(Alzheimer's Disease International )によれば、認知症対応に必要なコストは、世界全体で年間1.3兆米ドルを上回っており、2030年までには2.8兆米ドルに達することが予想されます。

  • 人工知能(AI)を含むここ数年の技術開発は、診断や創薬面での画期的な進歩をもたらす一助となっています。ピクテのヘルスケアおよびバイオ医薬品株式運用チームは、市場に潜在する投資候補銘柄を常に注視し、業界の最新動向を把握しています。

執筆者
エコノミスト・インパクト(Economist Impact)

エコノミスト・グループ(The Economist Group)が、企業や財団、NGO、政府などと連携し、サステナビリティ(持続可能性)、ヘルス、グローバル化などの重要なテーマについて、さらなるポジティブな変化の実現を目指して立ち上げた事業体。シンクタンクならではの厳密な分析力と、メディアブランドとしての創造性を兼ね備え、世界的に影響力のある人々を巻き込んだ独自のサービスを幅広い層に展開している。



本ページは2023年10月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。



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