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S&P500の最高値更新は「メルトアップ」現象なのか?
田中 純平
2025/08/20

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概要

S&P500指数が連日のように最高値更新を続ける中、その上昇の背景には何があるのか?当レポートでは、投資家心理を動かす「メルトアップ」や「FOMO」といった現象だけでは説明しきれない、株価上昇の原動力に迫る。



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S&P500指数は連日のように最高値更新

S&P500指数の最高値更新が止まらない。S&P500指数は、6月27日に2月19日の高値を更新して以降、直近まで概ね上昇基調が続いている(図表1)。8月1日には、7月の米非農業部門雇用者数が市場予想を下回り、5月・6月分も大幅に下方修正されたことを受けて、一時的に急落する場面もあった(図表2)。しかし、その後は急速に値を戻し、8月12日には再び最高値を更新する展開となった。

なぜS&P500指数はこれほどまでに堅調なのか?その背景には「メルトアップ」現象があると指摘する声が一部にある。

「メルトアップ」とは、投資家心理が悲観から楽観へ一気に傾く際に起こる現象であり、株式市場の急騰を意味する相場用語だ。株式のポジション(持ち高)を減らしていた機関投資家が、一気にポジションを復元することによって引き起こされることが多い。

「メルトアップ」とほぼ同義で用いられる相場用語に、「FOMO(Fear Of Missing Out)」がある。これは、相場上昇に乗り遅れることへの恐怖を表す投資家心理を指しており、明確な理由もなく上昇するという点で「メルトアップ」と共通点が見いだせる。しかし、今回の米国株式市場には明確な上昇要因が2つ存在する。

大方の予想に反して堅調だった4-6月期の企業業績

S&P500指数の上昇をもたらした1つ目の要因が、市場予想を上回った4-6月期の米企業決算だ。ブルームバーグによれば、4-6月期決算のEPS(1株当たり利益)サプライズ率(EPSの実績が市場予想を上回った割合)は、8月15日時点で81%に達し、好調な決算だったと言える。

さらに、4-6月期の市場予想EPS成長率は7月11日時点の前年同期比+2.5%から8月15日時点では同+10.5%まで上方修正されるなど、その修正幅も大きかった(図表3)。

トランプ関税による影響を悲観的に見ていたアナリストは、足元の好調な決算発表をきっかけに業績予想の修正を余儀なくされた。このため、良好な企業業績が相場を押し上げる材料となったと考えられる。

FRBの利下げ期待も株式市場の押し上げ材料

S&P500指数の上昇をもたらした2つ目の要因が、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ期待だ。前述の米雇用統計の下振れを受け、米国ではFRBの利下げ期待が一層高まり、来年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)までにおよそ5回分(1回分=0.25%)の利下げが金融市場で織り込まれている(図表4)。

また、トランプ米大統領は自身の意向に沿った(積極的な利下げを推進すると見られる)次期FRB議長を今年秋にも指名する構えを見せており、FRBによる利下げがさらに進むとの観測も強まっている。

S&P500指数の市場予想PER(株価収益率、12カ月先)は22.4倍と割高感があるものの、利下げ期待によってバリュエーションがさらに切り上がる可能性が高まったことも、S&P500指数が最高値を更新する原動力になったと考えられる。

「業績相場」と「金融相場」が同時に起こる可能性

米国株式市場では、業績が株高をけん引する「業績相場」と、FRBの金融緩和が株高をけん引する「金融相場」とが同時に起こる可能性が高まっており、これらの二大エンジンが相場の上昇をけん引していると考えられる(図表5)。

米国株式市場を取り巻くファンダメンタルズを整理してみれば、足元の株価上昇が必ずしも「根拠なき株高」ではないことが分かる。

米CPI(消費者物価指数)の上振れには引き続き注意が必要だが、現在の米国株には「メルトアップ」現象だけでは説明しきれないモメンタム(株価の勢い)がある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
投資戦略部長

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。日経CNBC「朝エクスプレス」、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「NIKKEI NEWS NEXT」に出演。週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載中。日本経済新聞やブルームバーグではコメント多数引用。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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