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2024年の7つの注目トレンド
2024/01/17

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概要

本稿では、科学、テクノロジーならびにサステナビリティの分野で、2024年以降、注目を集めると思われる7つの主なトレンドを解説します。



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1:生成AIの業務への応用

生成AIは、2023年を通じて、ニュースの見出しを飾り、ハイテク銘柄の株価の上昇に拍車を掛けました。生成AIに対する熱狂が落ち着きを見せた今、開発企業の次の課題となるのは、熱狂をいかに収益につなげるかということです。効率性と費用対効果を高めるためにテクノロジーを活用しようとする企業が増え、生成AIを業務に応用したいとの需要が増しています。生成AIが人間の仕事を奪うことは恐らくない、と考えます。生成AIは、その導入に際して、また、導入後の改良や事実確認に、結局のところ、人間の力を必要とするからです。もっとも、生成AIの利用が、生産性を高める可能性はあるように思われます。マイクロソフトの「ギットハブ・コパイロット(GitHub Copilot)」は、現在、ソフトウェア市場で最も評価の高い生成AIです。マイクロソフトが発表した研究結果には、ギットハブ・コパイロットを使ってコーディングを行った開発企業は生産性を上げ、コードの作成に要する時間を55%短縮しつつ、作成物を改良することが出来、しかも、ギットハブ・コパイロットの定額課金(サブスクリプション・フィー)は年間100米ドル程度に過ぎなかったことが示されています。また、先頃、セールスフォース・ドットコムが発売した「アインシュタイン・コパイロット(Einstein Copilot)」には、マーケティング用eメールや顧客の質問に対する個別の回答に加えて、問い合わせの電話の概要を作成する機能が組み込まれています。こうした事業は始まったばかりで、全産業の4分の3以上の企業が、2027年までに生成AIを使い始めることになるだろうと予測しています1

 



2:サイバー・セキュリティの脅威となるディープ・フェイク

生成AIは、人間の生産性を高めるかもしれませんが、有害な偽情報を拡散させることもあり得ます。ビデオ通話や音声通話を通じて、家族、友人、上司、同僚等を装う「ディープ・フェイク」は、作成が格段に容易になる一方で、正体を見破るのが、ますます難しくなっています。攻撃の手段は、電話に限りません。不特定多数宛に一斉送付された言い回しの下手なショート・メッセージやPDFに代わって、マルウェアを使い、特定の人物を標的にした、個人情報を含む偽メール(スピアフィッシング)が増え始めています。生成AIの登場以来、マルウェアがより迅速に作成出来るようになったことから、(データを不正に暗号化し、復元と引き換えに身代金を要求する)ランサムウェア攻撃が急増しており、サイバー・セキュリティ業界に挑戦を挑んでいます。しかしその一方で、脅威が増大し、規制が強化され、投資の拡大につながる公算も大きいと思われます。サイバー・セキュリティ各社は、社内外で組織と関わる個人の信用を継続的に検証し、あらゆるアクセスを「信頼出来ない(=ゼロ・トラスト)ものとして捉え、その正当性や信頼性を確認する「ゼロ・トラスト・セキュリティ・ソリューション」の開発を進めていく可能性が高いと考えます。AIがソリューションの一部になるかもしれないと思われるのは、サイバー・セキュリティ業界が、攻撃をより迅速に検知し、その他のアプリケーションを使って書かれた悪意のあるコードに潜む脅威に対抗するため、大規模言語モデル(LLM)を活用しているからです。

 

3:激化する気候変動との闘い

これまでの気候変動との闘いでは、多くの場合、温暖化ガスの排出量削減や大気中の二酸化炭素除去等の「緩和」に焦点が当てられてきました。しかし、気温が上昇し続ける中では、緩和策が十分に迅速な効果を挙げていないことが明らかになりつつあります。人類が生き残るためには、気温の上昇、干ばつ、洪水、ハリケーン等、頻発する異常気象に「適応」することが必要です。2023年11月末、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開幕した国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、参加国が、「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation、 GGA)」に合意したものの、目標の達成に必要な資金調達については疑問が残ります。国連環境計画(UNEP)によれば、適応のための資金の不足額は年間約3,660億米ドルに達しており2、不足分を埋めるために、民間セクターが重要な役割を果たさなければなりません。一方、こうした取り組みからは、干ばつや気候変動に対応出来る作物の栽培、気候変動に強いインフラの構築、洪水防御施設の建設、熱を反射する建築物の設計、異常気象を精度高く予測するためのビッグデータの活用、早期警戒システムの構築等、様々な機会が生まれるものと考えます。2024年には異常気象に関する過去の記録が塗り替えられる可能性が高く3、「適応」が最優先課題になると考えます。

「緩和策では、気候変動に対して十分に迅速な効果を挙げていないことが明らかになりつつあります。人類が生き残るためには、気温の上昇と異常気象に「適応」することが必要です。」

 

 

4:増加するグリーンビルディング

都市への移住者が増えるに連れて、住宅、オフィス、娯楽施設等、多くの建物が必要となります。建設活動は、これまでも、地球に問題をもたらしてきました。不動産セクターは、世界の二酸化炭素排出量全体のほぼ40%を排出しており、建設過程では多くの廃棄物が出る可能性があるからです。もっとも、こうした状況は、技術革新と新しい建築資材のお陰で改善されつつあります。例えば、建築情報モデリング(Building Information Modeling、BIM)ソフトウェアは、計画・設計から、建設および運用に至る、建物やインフラ建造物のライフサイクルを通じたデジタル・モデリングやデジタル分析を可能にします。BIMは、エネルギー、地熱、照明等の環境要因を分析するためのツールを組み込んでいるだけでなく、建築効率を高めるプレハブ施工を容易にします。また、建造物の内部でも、断熱性の改善や、インターネットにつながった照明やビル制御システム等のIoT機器を通じて、テクノロジーが温暖化ガス排出量の削減や快適性の最大化に寄与しています。国際エネルギー機関(IEA)は、建築物のエネルギー効率を改善するための投資が、世界全体で、2015年の約1,400億米ドルから2021年には1,900億米ドル前後に拡大したものと試算しています。

 

5:アルツハイマー病の治療に対する希望の光

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、何十年にもわたって、科学者を困惑させてきました。現在、世界全体で約3,000万人の患者と、患者を介護する家族を悩ませていますが、人口の老齢化に伴って、負担の一段の増加が予想されます。
幸いなことに、ようやく治療や診断に進歩の兆しが見え始めています。米食品医薬品局(FDA)が、2023年にエーザイ(日本)とバイオジェン(米国)の共同開発によるアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(点滴薬)を正式承認したからです。両社は、点滴薬よりも投与が容易だと思われる皮下注製剤の承認も申請することが予想されます。2024年には、「レカネマブ」と、イーライリリー(米国)の「ドナネマブ」の発売が注目を集めるものと思われます。二つの新薬は、アミロイドベータと呼ばれるたんぱく質を脳から除去する薬品ですが、今後、アミロイドベータの蓄積状況を血液で調べる診断ツール等が利用出来るようになれば、恐らく、アルツハイマー病の初期段階で、患者が治療を受けることが可能となり、予後(治療後の経過および結果)の改善につながることも期待されます。



 

6:活動的(アクティブ)なライフスタイルの復活

健康やフィットネスについての新年の決意を、数週間後、場合によっては数日のうちに、断念してしまう人が多いものですが、より活動的な生活を送りたいとの思いは、年初の決意以上のものであることを示唆する証拠が増えています。新型コロナウイルスの流行によって、健康全般についての重要性を認識し、新しい趣味に挑戦する時間を確保した人が増えているからです。フィットネス業界は、数年後の今も、好調さを維持しており、街の大通りに面した小売店の空き店舗をスポーツ・ジムが占拠しています。また、運動の成果を測り、継続を促すための最新機器に対する需要が増しています。2024年は、パリ・オリンピックの開催が、活動的なライフスタイルとより健康的な食品に対する需要を増すきっかけになる可能性もありそうです。一方、受容体作動(GLP-1)ホルモンの働きに似た症状が現れるように設計されたノボノルディスク(デンマーク)のウゴービ等、新しい種類の減量薬の成功も、健康的なライフスタイルに対する需要を増す一因となるかもしれません。減量に成功した人は、運動をより身近なものに感じ、健康の維持に、更に熱心に取り組む可能性があるからです。

 

7:拡大する経験経済

米国と欧州では、レクリエーションや文化活動関連の支出が、経済が伸びるスピードの倍以上で伸びています。モノではなく経験への支出が、他人との経験の共有を可能にし、長続きする幸福感を提供することを示唆する研究も散見されます。テクノロジーの進化は、仮想現実(VR)やeスポーツを含む、新しい種類の他人と交流する手段を提供していますが、インターネットを使わない場合にも、小売業界や観光業界で、経験に対する需要が増しています。同時翻訳機の普及や生成AIが立てた旅行プランのお陰で、ここ数年来の旅行ブームは、2024年中も続きそうです。経験の共有は、当局の優先課題にもなりつつあり、「孤独には喫煙と同程度の死亡リスクがある」と米国公衆衛生局長官は警告しています。

 


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