- Article Title
- 気候変動への適応:洪水対策の重要性
気候変動の緩和策は引き続き重要ですが、地球温暖化が進行する中で、特に洪水などの脅威に対応するためには適応策も欠かせなくなっています。
2024年秋にスペインのバレンシアを襲ったような壊滅的な洪水は、地球温暖化の進行とともにますます頻繁に発生するようになるでしょう。そのため、適応策を講じることや、そのための資金を確保することがこれまで以上に重要になっています。
2024年は観測史上最も暑い年となり、気温が温暖化前の基準より1.5度高くなった最初の年として記録されるでしょう。このことはすでに環境、社会、経済に大きな影響を与え始めており、特に洪水の問題は深刻化しています1。記録的な大雨をもたらす気象条件の発生確率は、1980年までの30年間2と比較して2013年までの30年間で40%増加しました。特に、アメリカ南部や東部、ヨーロッパ、アジア、南アフリカでは、こうした異常な大雨の発生頻度の上昇が顕著に見られます。
気温が上昇すると、大気中に含まれる水蒸気の量が増加します。通常の気象条件下では、この水蒸気が雨、雹(ひょう)、雪として降ります。気温が1度上昇するごとに降水量は1%から3%増加し、特定の地域に集中して雨が降ることがあります。通常なら数週間から数ヵ月かけて降る量の雨が、数時間の豪雨でもたらされ、鉄砲水を引き起こします。都市化や土壌浸食、植生や樹木の不足、そして急激な水量の増加を吸収できる湿地や氾濫原の破壊はすべて洪水リスクを高めています。
現時点では、気候変動の緩和に向けた進展は十分とは言えないため、今世紀末までに平均気温は基準値より少なくとも2度上昇すると想定するのが妥当でしょう。そのため、適応策に重点を置く必要があります。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、洪水対策が特に効果的であると指摘しています。これは洪水対策が古くから行われてきたことを考えれば、当然のことといえるでしょう3。
これは都市部での浸水性の高い舗装の導入や、土壌を保護してより多くの水を吸収できるようにする植栽計画、湿地の再導入、大量の水を短期間貯留できる地下貯水池の整備などを意味します。こうした施策やその他さまざまな対策は、シンガポール、ロッテルダム、東京といった鉄砲水が発生しやすい都市で、実際に効果を上げています。
各国政府は適応策の必要性を強く認識するようになっています。気候変動対策資金のうち、適応策に振り向けられる資金の増加も見られます。OECDによると、2016年には適応策に100億米ドル、緩和策には420億米ドルが投じられました。2022年には、それぞれ320億米ドル(3倍増)、700億米ドル(1.6倍増)となりました。そしてこの傾向は今後も続くと見込まれます。
ピクテと国際金融協会(IIF)が共同で実施した最近の調査によって、実際の投資額と2050年までにネットゼロを達成するために必要な投資額との間には大きな隔たりがあることが浮き彫りになりました。例えば、今世紀半ばまでにネットゼロを達成するためには、低炭素エネルギーへの投資と化石燃料エネルギーへの投資の比率を現在の2対1から2050年までに約7対1へと引き上げる必要があります。つまり、今後10年間で気候変動対策資金は、最大年間8兆米ドルまで増加する必要があるということです。
しかし、経済的に豊かな国々が、洪水などのリスクへの対策を模索し実行する一方で、経済的に困窮している国々では、人々はインフラが未整備で洪水などのリスクが高い周縁的な土地に住まざるを得ない状況にあり、リスクへの対策に充てる資金や手段も持ち合わせていません。そのうえ、このような国々は、温室効果ガスの一人あたり排出量が経済的に豊かな国よりもはるかに少ないことを考えると、不公平な状況であると言えるでしょう。
残念ながら、気候変動の緩和や適応策に対する資金の大半は、制度が整備されており、資金が効果的に配分される可能性が高い国々に向けられています。多くの場合、こうした国々は、最も支援を必要としている貧困国ではありません。資金の不正流用に対する懸念から、裕福な国々は本当に支援を必要としている国々への財政的な支援に消極的であり、この矛盾を解決することは複雑な課題です。
また、適応不全の問題もあります。適応策の中には、負の影響をもたらすものや、費用対効果が低いものもあります。例えば、放水路や緊急用河川などのコンクリート製のインフラを整備することは、環境に大きな負荷をかけることになり、プラスの効果よりも、温室効果ガスの排出量を大幅に増加させるというマイナスの影響が大きくなる可能性があります。
気温上昇による洪水の増加は、緩和策だけでなく、適応策にも資源を投入する必要性を示しています。これは新興国に限った問題ではなく、先進国もまた、取り組みの重要性を認識せざるを得なくなっています。計画と実施の状況は国ごとに差がありますが、進展も見られます。例えば、スイスの連邦議会は2012年に気候変動適応計画を採択しました。先進国で適応策への資金が増加していることは希望が持てる兆しです。
重要な問題の一つは、適応政策が閉鎖的に進められていることです。資金は国や地域にとっての重要事項に優先して充てられる傾向があり、海外の適応策に多額の投資を行おうとする意欲は今後低下していく可能性があります。緩和策や適応策への資金調達に関して、世界はより分断され、地域ごとの対応が強まっていく可能性が高いと思われます。
投資のためのインサイト
ジェニファー・ボスカルダン・チン(Jennifer Boscardin-Ching)
ピクテ・アセット・マネジメント、テーマ株式運用チーム シニア・クライアント・ポートフォリオ・マネージャー
気候変動への対応には、緩和策と適応策のどちらも重要で、両者はそれぞれを補い合う役割を果たしています。そのため、適応策は常にピクテのグローバル・エンバイロメンタル・オポチュニティーズ(GEO)戦略の投資対象に含まれており、気候変動への対応において緩和策を支える役割も果たしてきました。
適応策は幅広く、再生可能エネルギー(スマートグリッド)、エネルギー効率(産業や建物の効率化)、水管理(水供給や水関連技術)、汚染制御(環境コンサルティング)など、さまざまな環境テーマやセクターに及んでいます。
現在、適応策に対する資金の大部分が政府や個人によるものであり、企業は高い認識があるにもかかわらず、この分野への投資が遅れており、投資家にとっては成長の可能性を示しています。企業は気候リスクの増大に直面する中で、自社の資産を守るため、認識を行動に移し、積極的な対策とを取る必要があるからです。
[1] 基準となる気温は、1850年から1900年の平均値とされています。
[2] Fischer, EMおよびR. Knutti「観測された大雨の増加は理論と初期モデルを裏付ける」Nature誌、2016年
[3] https://www.ipcc.ch/assessment-report/ar6/
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。